獣王の猛攻
「クソ。ここまで避けられたのは初めてだ。間違いなく今まで戦った中でお前が最強だ」
獣王は楽しそうに言いました。
「それは光栄ですね。私もここまで耐久力がある敵は初めてです」
私は答えながら獣王に勝つ方法に頭を巡らせました。
「はっ。それはうれしいな!」
獣王はそう言って殴りかかってきました。
「とっ」
私は左手で軌道を逸らし、腹に切りつけました。
「だから効かねえんだよ!」
今度は斧で切りかかって来ます。私は懐に飛び込み、軽く腹を殴りました。
「白峰霧月流、月通」
「ぐはっ」
どうやらダメージは通るみたいですね。ただ血反吐を吐いてくれたら血を吸わせられたのに残念です。
「チッ。それ心臓に打ったら殺せたろ。お前おれを舐めてるのか?」
獣王は私をにらんできました。
「まさか。果たし合いの条件を守らせるために全力で殺さないようにしてるだけですよ」
実際光旋嵐を使った居合い切りを放てば多分斬ることは出来るでしょうね。でもまだ加減がうまく出来ないので殺さない自信がないです。
「勝ち方にこだわるとはずいぶん余裕だな。ケッ。勝手にしやがれ。だがこっちはお前を殺しても問題ないことを忘れんなよ!」
獣王はイラつきながら言いました。
「…負けたらほぼ死ぬだろうことはわかってます。オークキング、ジータス、獅子王と倒して来た恨みがあるでしょうから生かしておく理由はないでしょう」
多分人間に性欲を感じることもないでしょう。種族が違い過ぎますしね。
「少しでも罪悪感があるなら今ここで死んでくれねえか?そうすりゃあいつらも浮かばれるだろ」
獣王は威圧感を出しながら言いました。結構仲間思いなんですね。
「それは出来ません。私は勇者です。魔王軍によって傷ついてる人たちの思いを背負っている以上負けるわけにはいきません」
「そうかよ。だったらおれがぶちのめしてやる」
獣王はそう言って腕に気を溜めました。あ、もしかしてあれでしょうか。
「食らえ!獣王怒涛撃!」
獣王は渦になった気を放って来ました。
「とっ」
私は何となく予想していたので右に飛び退きました。すると今までいた地面が螺旋状に抉れています。
「空中じゃ避けられないだろ。アックス・スラッシュ!」
獣王は斧から斬撃を飛ばして来ました。
「それはどうでしょう」
私は足元にシールドを出し、斜めに飛びました。
「チッ。じゃあこれならどうだ!」
獣王は池の中に飛び込みました。
「ガハハハハ。見えない所から来る恐怖を味わうがいい!」
獣王は池に潜っています。これではどこから攻撃が来るかわかりません。
「食らえ!スパイラル・アックス!」
浮かび上がった獣王は斧から螺旋状の衝撃波を放ってきました。
「ふっ」
私は後ろに飛びました。
「フン。その集中力と体力がどこまで持つか試してやるよ」
獣王はそう言って池に戻りました。戦いというより獣の狩りですね。一体どう攻略すればいいんでしょうか?
目に切りつける?ーーーさすがに獣王という単語に引っ張られ過ぎですね。
口の中を狙う?ーーーもし紅雪を噛まれたら捕まる可能性もありますね。
月通で脳震盪を起こして気絶させる?ーーー水の中で下あごを狙うのは困難ですね。
殺さない縛りをつけるとかなりやりにくいです。一体どうすれば…。私は思わず左手を見ました。
「…あ」
その瞬間私の頭の中に一筋の光明が差しました。
獣王の攻撃は当たればすごい威力でしょうね。あくまで当たればの話ですが。