果たし状
「まさか果たし状が来るとは…。本当に脳筋だな」
司令官は届いた書状を見て溜息を吐いた。
「私としては付き合う必要はないと思うが。戦闘狂にわざわざ付き合うことはない」
ロベリアは冷めた目で果たし状を見ながら言った。
「それは聞き捨てなりませんなロベリア姫。武人たるもの挑戦を受けるべきであります!」
エリザは掌を机に叩きつけた。
「どうする光?あたしは全員でかかった方が対処出来ると思うけど」
サヤはヒカリに問いかけた。
「私が獣王の幹部を倒したのは事実です。相手が求めるなら応じるのが筋でしょう」
ヒカリは真剣な目をして言った。
「相変わらず甘いわね。ま、そう言うとは思ってたけど」
ヒカリはそう言って肩をすくめた。
「果たし合いに乗るなら何か勝った時の条件を用意しておいた方がいいな。ヒカリ、何か考えてるか?」
おれはヒカリに聞いてみた。
「出来れば人間を襲うのをやめてもらいたいとは思ってます。この国を退いても他の国を襲撃されたら犠牲が出ますからね」
ヒカリは力強い口調で答えた。
「それは厳しくない?ヒカリちゃんが獣王を生かすにしても殺すにしても魔王軍な以上上からの命令には逆らえないよ」
姉さんはいつになく真面目な顔をして言った。
「わかってる。おれもそこは考えているよ」
おれは獣王の話を聞いてからずっと考えていたことを言ってみた。
「…そんな条件にやつらが乗って来るんですか?」
司令官はおれに訝しげな目を向けてみた。
「おそらくな。召喚獣を通して見た限り獣王には魔王に対する忠誠心はない。ただ強い敵と戦えるから魔王に与しているだけだ」
「確かに今までの動きから見ても忠誠心は感じられませんわね。でもだからといってこちらの思惑に乗ってくるとは限りませんわよ」
チェリルは冷静に返してきた。
「乗って来ないなら来ないで特に問題はない。その時は幹部と獣王をまとめて倒すだけだ。そもそもヒカリがいなければ果たし状になんて応じる義理もないんだ。自分から果たし状を出しておいて負けた時の条件にケチをつけるなら全力で叩き潰せばいい」
「…そうですね。この条件で交渉が決裂したら何も言いません。果たし状に応じたいというのは私のワガママですから」
ヒカリは毅然とした態度で言った。
「気にするな。おれたちとしても犠牲が少なくて済むならそれでいい。最もノルマルの兵としては仇を取れない不満はあるかもしれないが」
おれが司令官に向けて言うと司令官は暗い顔をした。
「恨みがないといえば嘘になりますね。獣たちには多くの仲間を殺されました。やつらに対する憎しみは消えることはないでしょうね」
司令官はそこで言葉を切った。
「しかしだからといって敵を皆殺しにしていてはきりがありません。いずれは戦いを終わらせないと国も民も疲れ果ててしまいます。勇者様が被害が少ない形で終わらせてくれるなら異存はありません」
司令官はそう言ってヒカリをじっと見た。
「任せて下さい。必ず獣王に勝ってみせます」
ヒカリは力強く拳を握りしめた。
ーー
『獣王様。やつらから返答の手紙を受け取りました』
果たし状を持ってきたハトに持たせた手紙が獣王に届いた。
「ご苦労。ゆっくり休め」
獣王がハトに言葉をかけた。
『はっ。失礼します』
ハトは獣王に答えると巣に帰って行った。
「…ガーハッハッハッハ!こりゃ面白い。やつらおれに負けたら魔王軍を抜けろと言って来てやがる」
獣王は大きな口を開けて笑った。
『なっ、やつらそんな条件を?!』
『そんなの聞く必要ないぜ兄貴!』
周りの獣たちは騒ぎ出した。
「落ち着け。元々果たし状を出したのはこっちだ。受けてくれるってんなら文句ねえよ。大体おれとしても悪い条件じゃねえ」
『どこがだよ!魔王軍を裏切ったら狙われるだろ!』
獣王の言葉に周りの獣たちが抗議した。
「ようは刺客に強いやつ送ってくるってことだろ。おれとしちゃ願ってもねえ話だ」
『…兄貴。あんたどんだけ脳筋なんだよ』
周りの獣たちは呆れたように笑った。完全に諦めてるんだろう。
「安心しろ。おれは負ける気はねえよ。絶対『落涙』をぶっ倒してやる!」
獣王はそう高らかに宣言して拳を振り上げた。
どこぞの獣王と違って武人よりも戦バカになってしまいました。明日アニメに出てくるようなので楽しみです。