ワニ対策
「森の中の獣は逃げたか。獣王がいる水辺に集まることになるな」
司令官は図面を見ながら言った。
「いかにもワニといった所でありますな。獣王についてわかっていることはないのでありますか?」
エリザは司令官に問いかけた。
「残念ながらデータは少ないんですよ。獣王の姿も遠くからかろうじて見ただけですしね」
司令官はそう言って溜息を吐いた。
「でもわざわざ水辺に陣を構えてるんなら大体ワニと同じ生態ってことでしょ。なら警戒すべきはデスロールね」
サヤは手でMePhoneのタッチペンを回しながら言った。
「デスロール?どんな技ですの?」
「噛みついた後回転することで獲物を引きちぎるワニの必殺技よ。噛まれたらほぼ終わりと見ていいでしょうね」
かなりえげつない技だな。ワニに噛まれるのは危険という認識はあったがそこまでしてくるとは思わなかった。
「あ、でも口を開く力は弱いらしいわ。大型はともかく普通サイズなら人間の男の力で押さえ込めるそうよ」
案外弱いんだな。それでもおれに押さえ込める気はしないが。
「なら口を開かせないのは無理ですね。獣王はかなり巨大ですし、筋肉もすごいです。口押さえ込んでる間に殴られてやられるのがオチです」
司令官はそう言って肩をすくめた。
「なら腕から螺旋状の気を放って来る危険があるわね。あたしの世界のマンガのワニの獣王の話だから参考にはならないけど。あ、獣王斧とか持ってる?」
サヤは司令官に聞いた。
「持ってますよ。かなりの業物で何らかの術式が刻まれてます」
「風とか出るかもしれないわね。…末期なら色々出るけど」
サヤはだいぶ投げやりに言った。データがないから考えようもないんだろう。
「後気をつけるのは防御力ですかね。あの獣王も鉄のように硬い体が厄介でしたから」
ヒカリも深刻な顔で話に入ってきた。
「更に急所は鎧で守ってるからかなり強固な盾よね。ただワニなのに水中戦強い印象はないわね」
サヤは軽い調子で返した。
「…何にしても情報待ちか。少しは戦う前に情報を探れればいいんだが」
おれは黙って送り込んだ召喚獣から来る情報に意識を傾けた。
ーー
「クソッ!対勇者のやつふざけやがって!何であいつらが毒を食らってやられなきゃならねえんだ!」
ワニがそう言って手を水面に叩きつけると大きな水飛沫が舞った。
『で、でもアニキ。『落涙』かなり速かったですぜ。どの道勝てなかったかもしれねえですよ』
翻訳された獣の言葉が入ってきた。あいつらそんな話し方なんだな。
「勝てたかどうかなんてどうでもいい!あいつらが全力を出せずに死んだのが気に食わねえんだよ。ライガとジータスの無念を思うと腹の虫がおさまらねえ!」
獣王はかなり荒れている。暑苦しいやつだなこいつ。
「こうなりゃ『落涙』と一騎討ちするしかねえな。あいつらの敵はおれがとってやる!」
獣王は拳を強く握りしめた。
ーー
…これは案外楽に決着がつくかもな。
「ちょっといいか?召喚獣を通してこんな会話を傍受したんだが」
おれはその場にいる者たちに獣王が言っていたことを伝えた。
少し某獣王ネタに走り過ぎてしまいました。アニメで出るのを楽しみにしています。