獣の脅威
ノルマル城で休んだおれたちはひとまずノルマル軍の本陣に向かうことにした。
「『落涙』の勇者光です。対獣王戦線に加わるために来ました」
ヒカリはそう言って見張りの兵に印籠を見せた。
「ようこそお越しいただきました!どうぞお入り下さい」
見張りの兵はそう言って本陣の門を開けた。
「本当に話が早くて便利ねそれ。変なトラブル避けられるもの」
サヤは印籠を見ながら言った。
「はい。いちいち説明しなくてもみんな私が勇者だとわかってくれるのでいいです」
ヒカリは大事そうに印籠を懐にしまった。
「ちっ。自慢気に見せつけやがって」
カネダは怒りのあまり荒々しい口調で言った。
「文句があるなら実績を示せ。実績を積めばいずれは認められる時もくるだろう」
ロベリアはカネダに一瞥もくれずに言った。
「くっ。なら獣王にすぐ力を見せつけてあげるよ!」
カネダはそう言って腕を振り上げた。
「司令官!『落涙』様方をお連れしました!」
見張りの兵が軍議の場所におれたちを案内した。
「よく来てくれました!勇者パーティーがいると心強いです」
司令官はそう言ってヒカリに握手を求めた。
「はい。共にこの危機を乗り越えましょう」
ヒカリは司令官の手を握った。
「それで戦況はどうなってるのでありますか?」
エリザは司令官に尋ねた。
「厳しいですな。向こうの攻撃は何とかしのいでいますが一方的にやられている状況です」
司令官は険しい顔をしながら言った。
「堅実な戦いが持ち味のノルマル軍が太刀打ち出来ないとは…。どんな戦法を使って来るのでありますか?」
エリザは神妙な面持ちで聞いた。
「そうですね。獣族の魔物の特徴を活かすのがうまいです。ラッシュボアやロックライノ、フレアオックスなどで突撃を仕掛けて来ます。何とか追い払っても森があるせいで追撃が出来ないんです」
司令官は困った顔をして言った。
「森の中は獣族のテリトリーだからな。無策で攻めても返り討ちになるわけか」
「そう。だったら全部焼き払っちゃう?」
姉さんは笑顔で物騒なことを言った。
「それは勘弁して下さい!あの森の動物や植物は我が国にとって重要な資源なんです。燃やされると損害がでかすぎます」
司令官は慌てて姉さんを止めた。
「植物だけならわたくしの木属性魔法で復旧できなくはないですわ。ただ動物まで死滅してしまうとどうしようもありませんわね」
チェリルは冷静に分析した。
「そういうわけだ姉さん。森を燃やすのはなしで頼む」
「はあい…」
姉さんは大分落ち込んでいる。本気で燃やそうと思っていたのだろうか。
「後夜行性の獣族が夜襲を仕掛けて来るから睡眠時間が削られていますね。毎晩気が休まることがありません」
そういう司令官の目の周りには隈が出来ている。相当参っているようだな。
「それぞれの魔物の特徴を活かして攻めて来るのか。敵には優秀なブレインがいるようだな」
「それは確かですね。何も考えずに突っ込んでもらえたら楽なんですが」
司令官はそう言って溜息を吐いた。
「何にせよ実戦でぶつからないとわからないことも多いだろうな。今日は迎撃に専念しよう」
「はい。必ずここを守ってみせます」
ヒカリはそう言ってベニユキの柄を強く握った。
「我らには『落涙』様たちがついている!絶対に敵を王都には立ち入らせぬぞ!」
『おー!』
司令官の号令に兵たちの士気が上がった。さすが勇者だな。
「ふん。ぼくが全部まとめてやっつけてやる!」
そう叫んだカネダの言葉には誰も反応しなかった。
説明だけで終わってしまいました。次は獣王軍との初戦です。