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構陣師  作者: ゲラート
第1章 サミュノエル動乱
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戦後処理

「なぜヴィレッタが無罪放免なのですか!やつは貴族派派閥長の娘ですぞ!」 

降伏した貴族派の処遇を巡って若い大臣が不満を漏らした。

「彼女には昔から王国のために動いてもらっておった。もちろんネルキソスを始めとした部下も含めてな。裏切りの罪を相殺するには十分だろう」

王は落ち着いた口調で返した。


「しかしそれでは民の気がおさまりませんぞ」

「それはない。むしろ学生時代からヴィレッタと付き合いがある記者が系列新聞でリークした上で暴露本を出してからヴィレッタの人気はうなぎ登りだ。貴族派の不正を正す裁きの女神。それが今の彼女の評価だ」

実際は家畜の女神という感じだがな。ヴィレッタ本人もそんな偽善者のように思われるのは不満だろう。

「彼女を処刑などすれば民意が離れる。せっかく内乱が終わったのに新たな火種を作るべきではない」

宰相は神妙な顔で言った。


「しかしそんなの力でねじ伏せれば」

「やめた方がいいでしょう。そうなれば今度こそ無傷の主力と戦うことになります。そうなると負けはしないにしても損害は大きいでしょう」

参謀は冷静に言った。

「そんなの貴族派と戦う時から覚悟していたでしょう!」

若い大臣はまだ食い下がった。

「それは彼女らが最初から裏切っているなど夢にも思わなかったからです。戦わずして勝てるならそれに越したことはないです。そもそも我が軍が大きな被害を出さずに済んだのはネルキソス殿が負けるように作戦を組んでいたからです。報復として本気を出した時にどうなるか底が知れません」

参謀は冷静に分析した。

「そもそも今は魔王軍との戦いが続いている状況です。それでも勇者パーティーがこの国に留まっていても抗議がないのは内戦中に主力が抜けると厳しいというこちらの事情を汲み取ってくれたからでしょう。そんな時にいたずらに戦火を広げようとするのは得策ではないです」

参謀は戦略的な話をした。

「当然貴族派やクルデタヌ家には責任を取らせるつもりだ。だがヴィレッタ本人に対して危害を加えるのは許さぬ。よいな」

『はっ!』

王の言葉とともに細かい戦後処理を詰めていくことになった。


ーー


戦が終わってから1週間後。魔王軍と戦うための出発準備が終わったのでパーティーを開くことになった。

「それでは祝勝会兼勇者パーティー出立式を開始する。乾杯!」

『乾杯!』

王の言葉と共に集まった全員が乾杯した。

「…こうしてこの国の皆さんと騒ぐのも最後なんですね」

ヒカリは顔を沈ませて言った。

「そんなの魔王討伐の旅続けてたらいくらでもあるでしょ。いちいちそんな辛気臭い顔しててどうするのよ」

サヤは軽い口調で言った。

「別れはどうしても避けられないものであります。なら最後は笑って次の国に行きましょう」

料理が山盛りの皿を持ってきたエリザは笑いかけた。


「ずいぶん楽しそうですねー。老害を倒したから当然ですがー」

ヴィレッタの取り巻きAが話し掛けてきた。

「ですね。下の下の連中がいなくなってスッキリしました」

取り巻きBも同意した。

「あら。あんたら旧側じゃなかったのね」

「当たり前ですよー。私は貴族派派閥長令嬢という立場に従ってたわけじゃないですから」

「家とヴィレッタ様なら迷わずヴィレッタ様を選びます」

サヤの皮肉にヴィレッタの取り巻きたちは胸を張って言った。

「それにしても私たちまで招くなんて度量が大きいのか無神経なのか…。判断がつかないわね」

ヴィレッタは王を小声でけなした。

「ある意味私たちも功労者だからでしょう。なかなか皆さん話し掛ける勇気はないようですが」

ネルキソスが言う通り参加者たちはヴィレッタたちを遠巻きにしている。興味はあるがどうにも近付けないんだろう。

「元々お姉様は近寄り難いオーラ出してますから仕方ないですわ。実際接してみるとそうでもありませんが」

チェリルはそう言ってクスクス笑った。


「おー。やっと昔のメンバーが揃ったね。学生時代を思い出して色々懐かしいよ」

ロレイナ先輩はおれたちに手を振って近付いてきた。

「相変わらず物怖じしないな。先輩らしいが」

ロベリアは呆れたように言った。

「やっぱり学生時代から接点が合ったのね。どうやってチェリルとヴィレッタは知り合ったの?」

サヤが気になってたことを聞いた。

「イドルの紹介よ。元々チェリルはイドルに魔法を教わっていたの。その縁で貴族派内部で力を伸ばすために紹介されたってわけ」

ヴィレッタは当時のことを思い出しながら説明した。

「正直最初の頃は気に入らなかったですわ。何だか偉そうだし、チビとか言って見下してきますもの」

「そっちこそ生意気だったし冷たかったじゃない。小さいくせに達観してて絡み辛かったわ」

ヴィレッタとチェリルはお互い笑い合いながら毒を吐いた。

「案外第一印象悪い方がよく付き合えたりするものですよね。なんだか不思議です」

「付き合っていくうちにいい所見えたりするのよね。最初が最悪だと幻滅することもないしね」

ヒカリとサヤはしみじみと言った。

「そっちも第一印象よくなかったんだね。どうやって仲良くなったの?」

ロレイナ先輩は遠慮なく尋ねてきた。


「話が長くなるからやめとくわ。それにしても金田は来てないのね」 

サヤは耳にかかった髪をかきあげて言った。

「さすがにいたたまれないんだろうな。謹慎がとけても出てこれないんだろう」

「無理もないでしょうね。今出ても使えない勇者のくせに罪が軽くなったことを攻められるだけでしょうし」

ネルキソスはさらっと言った。

「お前が言うな。普通に考えると新貴族派の中核全員が平気で来てる方がおかしいぞ」

おれは固まって談笑してるジェノスとギルガメシュたちを見ながらネルキソスに返した。

「元から浮くの慣れてるからどうということないわ。貴族派が周りからどう思われてるかくらい把握してるもの」

ヴィレッタは悲しいことをさらりと言った。


「タダノといえば…。彼症状出てるみたいですよ」

ネルキソスはおれに耳打ちしてきた。

「そうか。本当に出ているとなると今後に影響が出るな」

おれはネルキソスに返した。

「症状?一体何の話?」

地獄耳のサヤが話に入ってきた。

「マギスニカ症候群と言ってな。魔力を放出することが出来なくなる病気だ。おれが魔法陣を書き換えた人間がなるからマギスニカ症候群と呼ばれてるんだ」

正直そんな呼ばれ方するのは不本意だがな。おれが原因なのは確かかもしれないが。

「なるほど。一種のイップスね」

サヤは納得したように言った。

「イップス?」

「今まで当たり前に出来てたことが出来なくなるスポーツ障害です。簡単に言うと大事な場面で失敗したのが原因で似たような場面で同じ失敗を繰り返してしまうものでしょうか。精神的な要素が多い感じですかね」

ヒカリはおれに説明してくれた。


「なるほど。確かに似ているな。だがマギスニカ症候群は魔法がうまく使えなかったのはおれのせいだと徹底的に叩き込んで練習させれば済む話だ。元々魔法を習得してから日が浅いやつがかかるものだから自信を持たせれば何とかなる。決闘が終わってからどうにか出来なかったのか?」

おれはネルキソスに尋ねた。

「治療しない方が貴族派が負ける可能性が高いでしょう?元々後回しにする予定だったんです」

ネルキソスはうさんくさい笑みを浮かべて言った。

「ならお姉ちゃんにおまかせだね!」

後ろから聞き覚えがある声が聞こえた。

「姉さんは国の守りの要だろう。旅に同行出来るのか?」

おれは振り返って姉さんに尋ねた。

「勇者パーティーが出るなら獣王倒しに行っていいってさ。後は緊急事態以外はサミュノエルでおとなしくしてるっていう約束だけどね」

姉さんは嬉しそうに言った。

「ミアーラさんが教えてくれるんですか。私も燃やされてみたいものです」

ネルキソスが珍しく自然な笑みを浮かべて言った。


「ねえ。もしかして決闘の時火属性指定したのって」

サヤが小声で聞いてきた。

「ああ。おれに火属性使わせて姉さんを喜ばせるためだ。おれの火属性の熟練度上げや姉さんが新しい火属性の使い方を学ばせるというのもあっただろうが」

おれはサヤに返した。

「宮廷魔導師団長と新貴族派のブレイン熱愛なるか?!っと」

ロレイナ先輩はおもむろに羽根ペンを取り出した。  

「まだどうにもなってないのに書いてどうするんですか」

おれは先輩の頭をチョップした。

これで1章終わりです。急に章つけて言うことではありませんが。

次回から国外に出ます。

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