悪あがき
「くっ。こんな所で死んでなるか!」
派閥長はそう叫び奥歯を強く噛んだ。
「う、ぐわぁああ!」
噛んだ奥歯から液体が流れ、派閥長が苦しみ出した。
「じ、自決でありますか?」
「いや、これはおそらく」
エリザとロベリアが動揺している間に貴族派派閥長の体から毛が生えてきた。
「まさか例の薬…。あれってトロルになる薬じゃないの?」
ヴィレッタはそう言って顔を青ざめさせた。
「あれには様々な魔物の因子が含まれているそうですわ。だから使った人によって変わるのではないでしょうか?お姉様はご存知なかったんですの?」
チェリルはヴィレッタを見た。
「知らないわよ。私パワーアップする薬としか聞いてないもの。胡散臭くて使う気しなかったから害獣側に回したけどまさかそんなことになるなんて…」
ヴィレッタはそう言って目を覆った。そんなやり取りをしている間に派閥長の体が膨れ上がり、派閥長を拘束している蔓がちぎれた。
「こういうのは変身中にどうにかするのが基本よね」
サヤはそう呟き、変身している派閥長の足を狙って矢を放った。
「ぐぎゃあああ!」
矢が刺さった派閥長は片膝をついた大きなタヌキへと姿を変えた。
「タヌキ…クルデタヌだからでしょうか?」
「だったら私もタヌキになるの?せめてハーピィとかにしてほしいわ」
ヴィレッタはげんなりした顔をした。
「やつはジャイアントポンポコという魔物らしい。やつの腹は脂肪で衝撃を吸収するらしいぞ」
おれは鑑定で見た結果をみんなに伝えた。
「なら立てない今がチャンスでありますな。はあ!」
エリザは肩から大きく切りつけた。
「効くか!アイアンアーム!」
派閥長が魔法を使おうとしたからおれはすかさず魔法陣を不発させた。というか喋れたんだな。
「ぐわああ!」
派閥長は叫びを上げた。
「くっ。刃が進まないであります」
エリザの刃は肩の辺りで止まった。かなり脂肪が厚いんだろう。
「バカめ!食らえ!」
派閥長は尻尾をエリザに向けて振るった。
「くっ」
エリザはとっさに肩で止まった剣を収納して、後ろに下がって避けた。
「完全にタヌキになってるわね…。お父様はもう戻らないの?」
ヴィレッタは震えながら聞いてきた。あんなのに対しても親子の情報はあるんだな。
「現時点では元に戻す方法はない。拘束出来るかわからない以上ここで倒すのが最善なのは確かだ」
おれは簡潔に事実を伝えた。
「…そう。だったら私がこの手で葬るしかないわね」
ヴィレッタは扇の上に竜巻を出した。
「そんな。自分の手でお父さんを倒すなんて…」
ヒカリは悲痛な顔でヴィレッタを見た。
「私のお父様だからこそよ。罪を償う気もなく獣に身を落とすというなら私がやる。それが娘としてのつとめよ」
ヴィレッタは扇を派閥長に向けて振ると、竜巻が派閥長を切り刻んだ。
「ぐっ。よくもやったなヴィレッタ!ロックショット!」
這いつくばって派閥長は岩を放とうとしたが不発になった。
「白峰鏡月流、過月」
すかさずヒカリが背中に回転斬りを入れた。
「ぐぅ!」
「ならばこっちも行かせてもらうぞ。はあっ!」
ロベリアは槍を派閥長の額に向けて投げた。
「な、ならこうするまでだ!変化!」
派閥長はどこからともなく葉っぱを取り出すと、頭の上に乗せた。次の瞬間小さなタヌキの置物に姿を変える。
「なっ?!」
ロベリアが投げた槍は派閥長の頭上を通り過ぎて行った。
「変化…。自分のスキルを知ってたのか」
「ターヌッヌッ!スキルの使い方くらい変身する瞬間頭に入ってきたわい!」
派閥長はかなり無理がある笑い方をした。
「…これは案外てこずりそうね」
サヤは矢を手で回しながら呟いた。
適当にタヌキにしてみましたが案外中ボス戦っぽい演出は出来そうですね。
次で決着をつけたいと思ってます。