潜入
「先陣が寄せ集めで後ろに主力。『味方殺し』は我々の背後ですか。時間稼ぎにはもってこいの布陣ですね」
参謀は冷静な口調で言った。
「こちらとしては好都合だな。『味方殺し』を警戒しつつ慎重に攻めよ」
『はっ!』
元帥直々の号令に兵たちは奮い立った。
「では大将は頼みます。どうせ屋敷に籠って出てこないでしょうから」
参謀はおれたちに顔を向けて言った。
「はい。必ず勝ってきます」
ヒカリは力強く答えた。
「それじゃ屋敷の裏に転移するぞ。ちょうどデビルズアイを伏せてるんだ」
おれはみんなに呼び掛けた。
「よく気付かれずにデビルズアイ送り込めますね。すごいです」
ヒカリは純粋な目でおれをほめてきた。
「…まあな」
おれは何だか複雑な気持ちになりながら転移魔法陣を繋げた。
ーー
転移魔法陣を通ったおれたちは
「ここが裏か。意外と色とりどりの花が咲いてるわね」
サヤはチェリルを横目で見ながら言った。
「そうですわね。思ったよりいい趣味をしてますわ」
チェリルは涼しい顔をして言った。
「…まだ話さなくていいのか?」
ロベリアはおれに耳打ちしてきた。
「どうせもうすぐ全て明らかになるんだ。別にその時でいいだろう」
おれは適当に返した。
「確かにそうだが…。何だか心苦しいな」
ロベリアは少し顔を曇らせた。
「仕方ないでありますよ。全てはこの時のためでありますから」
エリザは苦笑いしながら言った。
「おしゃべりはそこまでよ。敵が来たわ」
辺りに目を光らせていたサヤがおれたちに警告を発した。
「て、敵だと!悪に染まったのはそっちだろう!」
サヤに見破られたカネダは大声で怒鳴った。
「沸点低すぎ。少しは冷静に話し合いする気ないの?」
サヤは冷たい目でカネダをにらみつけながら言った。
「黙れ!民を虐げる愚王の手先と話すことはない!」
カネダは発狂して叫んだ。もう聞く気ないな。
「金田さんは騙されてるんです。民を虐げてるのは貴族派で」
「ウソだね。現にここの領民はみんな幸せそうだよ」
…なるほど。確かにそれならカネダを騙せるな。
「話しても無駄みたいね。こっちは時間無駄にしたくないんだけど」
サヤは心底嫌そうに弦を弾いた。
「私がやりましょうか?鎧を新調したようですが月通なら関係ないですから」
ヒカリは拳を握り締めて言った。
「いえ、最高戦力のヒカリ殿は先に進んで欲しいであります。ここは自分が倒します」
エリザは剣を持って前に出た。
「エリザの対応力はいざという時必要だろう。ここは私がやる」
ロベリアはそう言って槍を突き出した。
「はあ。相変わらず脳筋ですね。ここはわたくしの庭…有利なフィールドですわよ。ここはわたくしにまかせて先に行って下さい」
チェリルは手から桜の花びらを出しながら言った。
「唐突に死亡フラグ立てるのやめてくれない?金田相手にする時言われてもギャグにしか聞こえないから」
サヤは呆れたようにチェリルを見た。
「わかった。足止めを頼むぞ」
「足止めと言いましたが、別に倒してしまっても構わないのでしょう?」
チェリルはない胸を張って言った。
「それも死亡フラグよ」
サヤはボソリと呟いた。
「死亡フラグ多すぎですわ。何を言ったら死亡フラグにならないって言うんですの?」
チェリルはサヤに疑問をぶつけた。
「大丈夫よ。死亡フラグを指摘してれば生存フラグが立つものだから」
サヤは涼しい顔で言った。
「ふざけるな!ぼくを無視」
「染血吉野」
カネダがこちらに怒鳴ろうとした瞬間カネダの顔を桜の花びらが切り裂いた。
「うぎゃあああ!よ、よくもぼくの顔に傷を!」
「あら、あなたの心の醜さには見合ってますわよ。さあ。皆さん早くお行きなさいな」
チェリルはおれたちに呼び掛けた。
「わかった。行こう、ヒカリ」
おれはヒカリの手を握って歩いた。
「…わかりました。気をつけて下さいね。チェリルちゃん」
ヒカリはそう言って歩き出した。
「もちろんです。終わったら言わないといけないこともありますしね」
「だから死亡フラグ立てるのやめなさいって」
そんなことを言いながらおれたちは屋敷の裏門に向かった。
ーー
「くっ。行かせるか!」
カネダはおれたちを追って来ようとした。
「それはこちらのセリフですわ」
チェリルが指をクロスすると、足元の草がひとりでに結ばれた。
「ぐふっ」
カネダは結ばれた草につまずいて顔面から転んだ。
「行ったようですわね。その扉は封鎖させてもらいますわ」
チェリルが指を立てると地面から茨が生えてきて扉を塞いだ。
「さて、少し踊りに付き合ってもらえるかしら」
そういうチェリルの回りに無数の桜の花びらが舞った。
「クソ!すぐ片付けて悪を倒してやる!」
カネダは大剣を振り上げて喚き散らした。
死亡フラグがくどすぎましたかね。次はチェリル対金田です。