溢れ出る憎悪
「あの男にオークを倒させるなんて…。一体どういうつもり?」
メリットメガネはネルキソスの男立体映像に冷たい目を向けた。
『少し読みが外れただけです。勇者とオークが出くわした以上止めるわけにもいきませんしねえ』
ネルキソスはうさんくさい笑みを浮かべながら言った。
『それよりも問題はオークが我ら貴族派に攻撃を仕掛けたことです。先に約定を違えたのはそちらです』
「何だとこの野郎!」
茶髪ヤンキーがネルキソスに拳を振り上げた。
『殴りかかってきていいですよ。どうせ効果ないですが』
ネルキソスは余裕な笑みを浮かべて言った。
「この」
「やめて…。これ以上言い争っていてもメリットはない…」
メリットメガネは茶髪ヤンキーを止めた。
『まあ何にしてもオークが全滅した以上もう魔王軍の支援には期待しておりません。我々の邪魔だけはしないで下さいね』
ネルキソスの立体映像はそう言って姿を消した。
「クソ!何だあいつ。魔王軍の力を借りた分際で余裕ぶっこきやがって!」
茶髪ヤンキーはイライラした様子で怒鳴った。
「でも反論の余地はなかった…。あの国にいたオークは全滅した…。真相を知っているのは貴族派だけ…」
メリットメガネは落ち着いた声で言った。
「ちっ。結局あいつの貴族派内での名が上がっただけか」
茶髪ヤンキーは不服そうな顔をした。
「それはない…。あの男がいないことで貴族派は被害を受けた…。手柄を求めて大事な時にいなかった勇者への心証がよくなるとは思えない…」
メリットメガネは冷静に分析した。
「マジか?!ヒャハハ。どれだけ嫌われてるんだよあいつ」
茶髪ヤンキーは大笑いした。
「フフフ。楽しそうじゃのう。サミュノエルで魔王軍が動けなくなったというのに」
音もなく現れた青い肌のジジイがメリットメガネに話し掛けた。あれが魔族…。初めて見たわ。
「当たり前…。私たちはあの男が苦しんでる所が見たいだけ…。魔王軍がどうなろうと知ったことではない…」
そこはメリットで語らないのね。それにしても金田嫌われてるわね。積もる物でもあるのかしら。憎しみの共有では断片的な情報しか入らないからよくわからないわ。
「やはり洗脳をかけた方がよかったかのう。対勇者の管理をするわしの立場がないわい」
やっぱり洗脳されてないのね。それであんなに憎まれてるなんて金田ってほんとあれだわ。
「しかし今回の勇者召喚はイレギュラーが多いわい。まさか警戒すべき方の勇者の対勇者をかっさらわれるとはのう」
ジジイはヒゲをさすりながら言った。
「貴族派によると魔法陣に細工をした人間がいるらしい…。あの男の召喚に誰もまきこまれなかったのもおそらくそれが原因…」
思ったより情報持ってるわね。まあ魔王軍に協力してるんだから情報を流すのは当然か。
「まさか勇者召喚陣に細工出来るとはのう。長い間生きてたわしでも初めての経験じゃわい」
ジジイは楽しそうに笑った。こいつかなり強者感あるわね。
「やっぱり他にも愚鈍で脳筋な魔王はいたの…?」
「まあ数える程じゃがな。大抵の魔王は自らの力に溺れず己を律しておったぞ」
メリットメガネにボロクソに言われても否定しないのね。魔王も人望がないみたい。
「魔族は魔王の力にビビって何も出来ねえわけか。ダセェな」
茶髪ヤンキーはバカにしたように言った。
「しかたないじゃろう。魔王は力が強大な上闇のコアがある限り何度でも復活するんじゃからのう。戦うことや支配することが好きな魔族以外は魔王が倒されることを望んであるじゃろうなあ」
やっぱり戦争を望んでる魔族はあまりいないのね。まあ周りの国から国交断たれたら国民の生活は確実に苦しくなるでしょうね。
「しかし妙じゃな。少しは向こうの対勇者からの情報を得られると思ったんじゃが。何か悪夢を見たりしたことはないかの?」
憎しみの共有のこと知ってるのね。昔の勇者召喚を知ってるなら当然かしら。
「何もないぜ。向こうが勇者召喚陣いじったからじゃないか?」
茶髪ヤンキーは楽観的な発言をした。
「いくらなんでも見たこともない対勇者召喚陣に干渉するのは無理じゃろう。もし出来るなら勇者召喚陣に巻き込む形にする必要もあるまい。対勇者召喚陣が正常に作用してるなら情報を共有出来るはずじゃ」
ジジイは冷静な口調で言った。
「勇者召喚陣に巻き込まれたことで情報を共有出来るならいいけど…。こっちだけ情報を抜かれてるなら最悪…」
残念ながらメリットメガネがいう最悪の状況なのよね。伝わるわけないだろうけど。
「やはり洗脳せぬと負の感情にとらわれることはないものなのかのう。今までは全員洗脳したからわからんわい」
そういう所は普通に外道ね。他種族を敵に回す時だから当然かもしれないけど。
「今までの対勇者は勇者とそれなりにいい関係を築いてたんだな。おれはそんなのごめんだけど」
「同感…。あの男の周りを巻き込む体質と無責任さには反吐が出る…」
だいぶ嫌われてるわね。まあ金田だから無理もないか。
「これこれ。少しは感情を抑えるようにせんか。肝心な情報を相手に悟られたらどうする」
ジジイは諭すように言った。
「デメリットがあるならそうする…」
「ちっ。わかったよ」
2人がそう言って目を閉じてしばらくして、あたしの意識は体に戻っていった。
ーー
「あいつら何で名前で呼び合わないのかしら」
いい加減メリットメガネと呼ぶのもきつくなってきたあたしはそう呟いた。
ーーー
「つまり憎しみの共有の存在を向こうの対勇者に知られたってことか?」
イドルさんは沙夜ちゃんに尋ねました。
「覗かれてるという確証はさすがにないでしょうね。でもこれからあまり鵜呑みには出来なくなったわ」
沙夜ちゃんはそう言いながらベーコンを食べました。
「でも見ている映像は本当なんですよね?幻覚かけられるわけでもないでしょうし」
「それでも演技したり嘘をつくことは出来るわ。金田への憎しみを募らせるタイミングを調整すれば罠にかけることも出来る。あまり過信し過ぎるのは危険だわ」
沙夜ちゃんは私に冷静に説明しました。
「とりあえず今魔王軍気にしても仕方ないわ。目の前の貴族派に集中しましょう」
沙夜ちゃんはそう言って目玉焼きの黄身を潰しました。
「そうだな。まずは貴族派を片付けよう」
イドルさんはそう言って紅茶を飲みました。
繋ぎ回は取っ掛かりがなくて書きにくいですね。
次は貴族派と本格的に激突する予定です。