魔力検査
「イドル卿!チェリル殿!無事勇者を確保してきたであります!」
召喚の間に入ってきた赤髪の女の人が鎖で縛られた金田さんを放り出しました。
「さすがに扱いが雑過ぎですわよエリザ様。…この額の跡は」
チェリルちゃんは金田さんの額にある丸い痕を見て召喚の間の扉をにらみつけました。
「いらっしゃいますわよね、ロベリア姫様。出てこないなら無理矢理でも引っ張り出しますわよ?」
チェリルちゃんがツタを蠢かせながら言うと召喚の間の扉がゆっくりと開きました。
「そう目くじらを立てなくてもいいではないか。私はちゃんと石突きが相手に向くように投げたぞ」
頭に銀色のティアラをつけた青い髪の女の人が槍を片手に持って歩いてきました。水色のドレスを着てますしきっとお姫様で間違いないでしょう。
「ずいぶん投げやりな槍投げね」
沙夜ちゃんはボソリとダジャレを飛ばしました。
「当たり前ですわ!仮にも、仮にも勇者を一国の姫が手にかけたとなれば一大事ですわ。まだその仮勇者がいかなる人間なのか他国に伝わってない現状でそのようなことをやってしまっては非難は免れませんわよ?」
チェリルちゃんの言葉にお姫様は眉をひそめました。
「仮勇者…。そんなにこの勇者はひどいのか?」
「まあ暴れ出して逃げ出す時点でそこまで期待は出来ないでしょうな。ですが残りの2人はたたずまいからして一角の武人なのは間違いないでありましょう」
騎士さんは舌なめずりをしてこっちを見つめてきました。かなり戦うのが好きみたいですね。
「戦闘狂なのはわかりきってるから今更とやかく言う気はないが相手は勇者だぞ。品定めする前に自己紹介くらいしたらどうなんだ」
イドルさんはっきり戦闘狂って言いましたね。そんなことを面と向かって言えるとかかなり親しい間柄なんでしょうか?
「これは失礼しました。騎士団長のエリザであります。機会があればぜひ手合わせをお願いしたいであります!!」
エリザさんは目を輝かせながら対戦を申し込んできました。
「全くこいつは…。第二王女のロベリアだ。以後お見知りおきを」
ロベリアさんは槍を回転させて上に投げてからスカートの端を持ってあいさつした後に一回転して槍をキャッチしました。
「ご丁寧にどうも。黒谷沙夜よ」
沙夜ちゃんは顔色1つ変えずにあいさつしました。
「白峰光です。よろしくお願いします」
「その名乗り方からすると異世界のヤマトに当たる国出身でありますね。カタナやヤマト式弓の使い手なのも納得であります」
エリザさんは納得したように頷きました。
「確かに家が剣術道場なので免許皆伝ですが…。何でわかるんですか?!」
「筋肉の付き方とか?…ないわね。あたしが弓道やってるのはわかるかもしれないけど筋肉で光が剣術家だって判断するのは無理があるわ」
は、反論出来ません…。私はお母さんの勧めで色々瞬発力や脚力を活かせる物に手を出してます。それに道場内で手合わせする時はパワー不足なのでスピードと受け流しの技術で瞬殺に走りがちです。だから剣士にしては腕の筋肉がそこまでないことは自覚しています。
「ああ。それは」
「うぅ…」
エリザさんが何か説明しようとした時鎖に縛られた金田さんがうめき声を上げました。
「…な、何だよこれは?!さっさと拘束を解け!ぼくは勇者だぞ!」
金田さんは身体をよじりながら叫びました。
「はいはい。やればいいのでありますね」
エリザさんがそう言った瞬間金田さんを縛っていた鎖が突然消えました。支えを失った金田さんの身体はそのまま勢いよく地面に叩きつけられました。
「グハッ。な、何をする!」
「ご注文通り鎖を何とかしただけでありますが?その程度で痛がるとは鍛え方が足りませぬな」
いや、あの床に叩きつけられたら普通痛いでしょう。まあ私なら落下の勢いを利用してハンドスプリングやってますけどね。
「そうですわ。一応国のトップが揃ってることですし魔力検査してみましょう」
チェリルちゃんはポンと手を叩いてそんなことを言いました。
「その必要はあるのか?勇者が光属性なのはわかりきってるし、魔力量も戦ううちに自分の限界がわかってくるものだ。どれだけ水晶が光るかを見てもあまり意味はないだろう」
ロベリアさんは淡々とした口調で言いました。
「確かに属性を調べる必要はあまりないだろう。だが光や闇や使い手によって性質が全く異なるというめんどくさい特徴がある。水晶の光である程度見ておいて損はないはずだ」
イドルさんがそう言うと沙夜ちゃんはピクリと反応しました。
「どうかしたんですか?」
「別に。どうせすぐ何とかなるからいいわ」
もう。沙夜ちゃんは涼しい顔していつもギリギリまで肝心な所を隠すんですから。明らかに私の反応見て楽しんでますよね。
ーーー
「ここが魔力検査を行う水晶の間ですわ」
チェリルちゃんが言う通りその部屋にはたくさんの水晶がありました。
「つまり水晶に触れたら魔力量や属性がわかるわけね」
「そういうことですわ。見本をお見せしますわ」
チェリルちゃんが水晶に手をかざすと水晶が黄緑色に輝きました。
「緑ってことは…風かしら」
「いえ、木属性ですわ。風属性はどちらかと言うと深緑という感じですわね」
ああ。そういえばツタ出してましたね。植物を出すのが木属性の特徴なんですね。
「なぜ風属性が緑という知識があるのだ?サヤの異世界でも魔法は存在しているのか?」
ロベリアさんは不思議そうに聞きました。
「ゲームや物語の知識よ。架空の存在として概念だけ定着してるのよ」
「伝説のような物というわけでありますな。世界が変わると色々違うのですね」
エリザさんは感心したようにうなずきました。
「魔力検査を始める前に1つだけ言っておく。何が起きてもおれが説明し終わるまでは何もするな。血気にはやって力を振るうやつがいたら誰だろうと全力で止めてくれ」
イドルさんは金田さんを横目で見ながら言いました。
「へー。あんたがそれ言うんだ。…まあ注意してもらえるとこちらとしてもありがたいわ」
沙夜ちゃんは金田さんを睨み付けながら言った。
「な、何だその反応は!まるでボクが危険人物みたいじゃないか!」
金田さんは顔を真っ赤にしながら怒鳴りました。
「だといいがな。最初は…ヒカリから初めてくれ」
私が一番手ですか。少し緊張しますね。
「…これちゃんと反応するんでしょうか?」
「心配ない。勇者である以上意図的に抑えたりしなければ絶対に反応する。魔法がある世界出身じゃない限り水晶を欺くのは不可能だ」
イドルさんは真顔で言いました。
「0じゃない限り光りはするってことですか。まあ悩んでてもどうにもならないからやりますね」
私が水晶に触れてみると白い穏やかな光が水晶の間を照らし出しました。
「すごい魔力でありますね。さすが勇者です」
エリザさんが目をキラキラさせて私を見て来ました。少し照れますね。
「回復や防御に特化しているようだな。攻撃力は並だが対魔や解呪には最適。光属性の利点を最大限に活かせる理想的な特性と言えるだろう」
そういうイドルさんの目には魔方陣が刻まれてます。解析魔法か何かでしょうか?
「なるほど。名前通り最高の光属性ってわけね」
沙夜ちゃんは薄ら笑いを浮かべながら言いました。
「…それ誉めてるんですか?」
「もちろんよ。さすが私の光だわ」
沙夜ちゃんはそう言って私の頭を撫でてきました。もう。いつも子供扱いばかりするんですから…。
「次はボクだ!格の違いを見せつけてやる!」
金田さんが水晶に触れると水晶がまぶしい光を放ちました。
「多少攻撃力は高いが後は並。戦う上で特に不都合はないが光属性としての働きはあまり期待出来ないな」
イドルさんは顔に黒くて半透明の仮面をして言いました。いつの間に出したんでしょう?
「ほぼ見かけ倒しの光属性ってわけね。まあ勇者の立場を利用して力を振るうことしか考えてないやつなら当然でしょうね」
沙夜ちゃんは金田さんを見もしないで吐き捨てました。
「好き勝手言いやがって…。次は君の番だ。大したことなかったら笑い飛ばしてあげるよ」
金田さんは水晶から手を離して沙夜ちゃんに言い放ちました。
「あたしの予想では笑えないことになると思うけどね。まあどうせ返り討ちだけどね」
沙夜ちゃんは金田さんを横目で見ながら水晶に触れました。
ーーーその瞬間水晶の間を包んだのはどこまでも深く、静かな漆黒の闇でした。
すみません。色々考えてたら遅くなりました。繋ぎ回はなかなか難しいですね。