オーク殲滅
「ただいま戻りました」
城壁を登ってきたヒカリがバク宙しておれとサヤの前に着地した。そしてオークキングの魔石を高らかに掲げた。
「勇者様が勝ったぞ!」
「皆!勝鬨を上げるぞ!」
『エイ、エイ、オー!』
兵たちは大声で勝鬨を上げた。
「レベルがないとはレベル0ではないのね。…大丈夫?光」
サヤは心配そうな目でヒカリを見た。
「大丈夫です。勇者になった以上傷付き続ける覚悟は出来てますから。私の涙で全て終わるならそれでいいです」
ヒカリは涙目で呟いた。
「…やはり涙を流さないと終わらないのか?」
おれはヒカリに前と同じことを尋ねた。
「はい。誰かを見捨てて取り返しがつかなくなったらどうせ泣きますから。なら誰も傷付けたくない自己満足よりは誰かを救えたという自己満足を取った方がマシです」
本当に難儀な性格をしてるな。正義のためと正当化できたりためらって何も出来なかったりした方が幾分楽なんだが。
「ならせめて思い切り泣いてくれ。おれにも胸を貸すくらいは出来る」
おれはヒカリに向かって両手を広げた。
「……」
ヒカリは無言でおれに抱き着き声を殺して泣き出した。おれはただヒカリの背中をさすることしか出来なかった。
「…ありがとうございます。大分気が紛れました」
ヒカリは顔を赤くして微笑んだ。
「すっかり役目取られたわね。もう胸の差で追い打ちをかけることはないのかしら」
サヤはニヤニヤ笑いながら言った。
「もう!変なこと言わないで下さい」
ヒカリは顔を真っ赤にしてサヤに腕を回しながら向かって行った。
「おっと」
サヤはヒカリの額を手のひらで押さえた。
「むー。押さえるのやめて下さい!」
「悔しかったらもっと身長を伸ばすことね」
多分これはいつものじゃれ合いなんだろうな。本気を出せば
「それにしてもオークもバカよね。自分から生存フラグ折るんだもの」
サヤはそう言ってヒカリのおでこをつんとついた。
「そうだな。あの場だけでもごまかせば逃げられたはずだ」
見た所見逃そうとしてたみたいだしな。下手なことをしなければどうとでもなったはずだ。
「見てたんですね…。あの時斬ったのはオークキングさんが鼻から火を吹こうとしているのを紅雪が伝えてくれたからです。被害が城の人たちに及ばないならあごを蹴って脳震盪にでもしてましたよ」
ヒカリは暗い顔をして言った。
「まあ見逃すこと自体勇者として失格なのかもしれませんね…」
ヒカリはそう言ってうつむいた。
「別に勇者らしくなくていい。ヒカリはヒカリだ。人間の利益を最大限に考える必要なんてない」
おれはヒカリの頭を撫でた。
「でも私がやらないといけない時もあります。そんな時に動けないなんてことは嫌です」
ヒカリは涙目のまま言った。
「大丈夫。あんたが力を振るう機会くらい見極めてあげるから。あたしが鞘になってあげるわ」
サヤは胸を張って言った。
「…ダジャレですか?」
ヒカリがそう言った瞬間ヒカリのおでこから小気味いい音がした。
「にゃん?!…あぅぅ。いきなりデコピンするなんてひどいです!」
ヒカリは赤くなったおでこを押さえながらサヤをにらみつけた。
「はっ。よけいなこと言うあんたが悪いのよ」
「むー!いつもふざけてばかりいるサヤちゃんが悪いんです!」
大分理不尽な理由だな。何にしても元気になってくれたようでよかった。
「ヒカリももうちょっと気に病まなくなった方が楽なんだろうがな」
おれは思わず呟いた。
ーーー
「オラァ!ブレイク・ハンマー!」
大男がハンマーを振り下ろすと砦の壁が粉々になった。
「ブブー?!ブヒッヒブヒ!」
「ブヒブヒブー!」
オークたちは脅えて何か言っている。
「うるさいですねぇ…」
そう言いながら青い髪の幼女が粉々になった壁の破片を錬金術で爆弾に変えた。
「爆発しろ。フレア・エクスプロージョン!」
そこにすかさず赤髪の魔法使いが魔法を打ち込んだ。
「「ブヒー!」」
中にいたオークたちは爆発と砦の崩壊に巻き込まれた。
「おい。あまり焼きすぎるなよ。おれは焼き加減はレアが好きなんだよ」
「わかってる。これでも火力は抑えた」
火力よりはミンチになってないか心配した方がいいぞ。もう手遅れだろうが。
「よし。とりあえず肉と魔石を回収するか」
オーク砦攻略部隊の名目上の隊長はそう言って舌なめずりした。完全にオークを食料としてしか見てないな。
「あっ、隊長。捌き忘れた豚が残ってましたー」
破壊部隊の1人がオークジェネラルを指差しながら言った。
「ぶ、ブヒッ!ブブブブヒッブヒ!」
オークジェネラルは真っ赤な顔でわめき散らした。
「はっ?何言ってんのかわかんねえよ。人間の言葉を喋りやがれ」
ナイフを持った男がお決まりの罵倒をした。
「ブヒー!」
オークジェネラルは怒り狂ってナイフ男に突進した。
「サウザンド・スラッシュ」
ナイフ男はそう言うと一瞬姿を消した。そしてすぐ姿を現す。
「ぶ、ブヒー!」
次の瞬間オークジェネラルは全身から血を吹き出して息絶えた。あの技はもう少し隠れて使った方がいいような気がするんだが。
「よし!ここにはもうオークはいないな!後は修復部隊に任せよう!」
この状況で投げられたら確実に修復部隊から大目玉を食らうな。正直自業自得としかいいようがない。
『マスター。砦から逃げたオークが来たんだけど』
デビルズアイのネルアからそんな念話が伝わって来た。
ーーー
「ブー…ブー…」
「ブッヒ、ブッヒヒ…」
視点を切り替えると煤だらけで息も絶え絶えの3体のオークが足を休めていた。
「驚いた。まさか本当にここにオークが来るとはね」
そんな疲れ果てたオークたちの前にカネダが出てきた。
「ブヒ?!ブヒブヒブヒ!」
「ブヒッヒブー!」
3匹のオークはカネダに向かって何か叫んだ。
「うるさい。人間の言葉を喋ってくれないかな?」
カネダはそう言ってニヤリと笑った。
「ブヒー!」
カネダの言葉にオークの1体が怒ってカネダに突進した。
「ふん!」
カネダは突進して来たオークを大剣の腹で後ろの木にぶつかった。
「ブヒャア!」
カネダはすかさず木にぶつかったオークを木ごと一刀両断した。
「どうだ!これが勇者の力だ!勇者のぼくがお前たちのような雑魚に負けるはずがないんだ」
カネダは高笑いしながらもう1体のオークを両断した。
「トドメだ。ライトボール!」
カネダは最後のオークに魔法を撃ったが何も起きなかった。
「な、なぜ発動しない?!」
カネダが手のひらを見つめて焦っている間にオークが突進してきた。
「ふん。ぼくの鎧にそんなの無力さ!」
カネダは突進したオークを弾き飛ばし、腹に大剣を突き刺した。
「ブヒャアァァ!」
最後のオークは断末魔の叫びを上げて息絶えた。
「やはり症状が出たか…。使えないな」
カネダについていたネルキソスの部下の女騎士がそんなことを呟いた。
「オークをものともしないとは。さすが勇者様ですね」
女騎士はにこやかな笑顔でカネダに心にもない賛辞を述べた。
「そうだろう。あんな魔法使いに負けたのはやっぱりあいつが卑怯な手を使ったからなんだ!」
まだ言ってるのか。使った手はともかくおれはきちんとルールは守っているぞ。ルール違反がない以上何を言ってもカネダの負け惜しみでしかない。
「そうですね。長い間潜んでいてお疲れになったでしょう。ここは我々に任せてどうぞ本陣で休んでいて下さい」
女騎士はそう言って転移魔法陣を出した。
「あ、ありがとう。そうさせてもらうよ」
カネダは一瞬ためらいながら転移魔法陣に乗った。次の瞬間カネダはその場から姿を消した。
「あいつこの先大丈夫なのか?まあ正直関心はないが」
女騎士はそう呟いてカネダが転移魔法陣に背を向けた。
オーク語はよくわかりません。
次は作戦会議にする予定です。