開戦
「ふむ。強固な守りですね」
ベッキング城の前に布陣したネルキソスがうさんくさい笑みを浮かべて言った。
「昨日まで誰もいなかったぞ!どうやってここまで集めた」
太った貴族が城を見て言った。
「大規模転移陣を使ったんでしょうね。ベッキング城に直通で繋がってますから」
「なら我らも大規模転移陣を使えばよいではないか!」
貴族はバカ丸出しなことを叫んだ。
「無理ですね。大規模転移陣を使うにはまず王都を経由しないといけません。ここと繋がっている王都側の転移陣は封鎖されているでしょうし、そもそも転移マーカーがないと大規模転移陣は使えません。反乱前ならいざ知らず今申請しても通らないでしょう」
ネルキソスはうさんくさい笑みのまま言った。
「なら攻めるぞ!包囲殲滅陣だ!」
貴族は兵を城を囲んで一斉に攻め始めた。
「魔法隊。あなたたちも続きなさい」
後ろに控えていた魔法隊も一斉に無言で魔法を放った。
「ぐはっ。なぜおれたちに当たる!」
「ま、まさか『構陣師』か?!」
魔法を受けた貴族軍の兵士たちは動揺して浮き足だっている。
「これならどうです!ストレート・コンセントレート・ファイア」
ネルキソスの魔法陣からは水が広範囲にぐにゃぐにゃ曲がりながら降り注いだ。
「か、体が痺れる…」
「水に変な特性があるのか?!」
ネルキソスの魔法を食らった兵士は動けなくなった。相変わらずえげつないな。
「ふむ。『構陣師』のせいでまともな魔法は使えないようですね。魔法隊の皆さん。しばらく待機してて下さい」
ネルキソスは笑顔を崩さずに指示を出した。
ーーー
「…あのラジー賞が」
あたしは思わず呟いた。
「何か言ったか、姐さん?」
アマゾネスのタニアが不思議そうな顔で聞いてきた。
「何でもないわ」
あたしは城壁の上から貴族派を見下ろしながら答えた。
「それにしてもお兄様すごいですね。あの数の魔法を狂わせるだなんて」
エルフのシアは興奮した様子で言った。
「あれってそんなに難しいものなのか?単純に魔法陣に書き加えるだけだろ」
タニアはわけが分からないという様子で言った。
「これだから脳筋アマゾネスは…。書き加えるためには魔筆を伸ばし、魔法陣に正確に書く技術が必要なんです。そんなの普通出来ないんですよ」
シアはすごく熱弁した。
「だったら普通にもっと威力が高い魔法とかシールド使えばいい話だろ」
「それだと属性や魔力による限界があるわ。だからといって魔法陣に書き加えるなんてのは変態的行動なのは言うまでもないけど」
あたしはタニアに軽く返した。
「ですよねえ。普通思いつかないし、思いついてもやろうとは思いませんし」
シアは苦笑しながら言った。
「とりあえず兄貴はすごく負けず嫌いなのはわかるよ」
タニアは単純だけど的を射たことを言った。
「それは言えるわね。…あら?」
話をしていると貴族派の兵士がおかしい行動をしているのが見えた。
「どうした、姐さん」
「あそこで兵士がうろついてるんだけど…。罠でも仕掛ける気かしら」
あたしが指差すとタニアは望遠鏡を取り出して見た。
「…確かにいるな。スコップ持ってるってことは穴でも掘るんだろう」
タニアはシアに望遠鏡を投げた。
「本当にシャベル持ってますね。穴を掘るんでしょう」
シアはそう言って望遠鏡を投げ返した。
「は?スコップだろ」
「シャベルです」
タニアとシアは下らないことで言い争いを始めた。
「ってそんなこと言ってる場合じゃねえ!」
タニアは弓を構えた。
「落ち着いて。どうせ今止めてもまた仕掛けられるだけよ」
あたしはタニアの右手を軽く握った。
「ならどうすりゃいいんだよ」
タニアはあたしの手を握り返してきた。
「こうするのよ。ヘイ、マザー。マイクロドローン起動」
あたしはMePhoneでドローンを操作して、兵士の鎧に貼り付かせた。
「あのドローンには発信機とカメラが着いてるわ。これでMePhoneのマップに足跡が表示されるから罠がある位置は把握出来る。こっちが引っ掛かる危険性はないってわけ」
あたしは画面を見せながら言った。
「ヘイマザー。この城の半径1キロメルトを監視。戦闘行動以外をしている兵士の動きを監視しておいて」
あたしはMePhoneに指示を出した。
「これで罠の心配はないな。あいつら攻めても大丈夫だろ」
タニアはそう言ってニヤリと笑った。
「なに言ってるんですか脳筋アマゾネス。私たちがこもってるのはオークを誘き出すためですよ」
シアは呆れたように言った。
「うるせえよ。このもやしエルフ!」
「誰がもやしですか!火の精霊で燃やしてますよ」
シアは肩にサラマンダーを出しながら言った。
「はいはい。ケンカしないの」
あたしはタニアとシアの頭を撫でた。
「とりあえずオークをどうやって落とすか考えますか」
あたしはMePhoneを懐に戻して呟いた。
ーーー
「転移魔法陣を繋げるのは大体この辺りでいいか」
おれはオーク砦の近くの森に来ていた。
「そうブヒね。ここなら並のオークの鼻で気付かれることはないブヒ」
召喚したミニオークエンペラーのピグレが同意した。
「オークのお墨付きを貰えたら安心だな。それじゃ書くか」
おれは魔石の棒を何本か出して操作した。
「デビルズアイ部隊は森に近付くオークがいないか見張っててくれ」
『了解!』
アイたちデビルズアイたちは元気よく答えた。
「それじゃ、さっさと書いて撤収するか。ピグレ。護衛は頼む」
「了解ブヒ!」
ピグレはそう言って胸を張った。
話があまり進みませんでした。次は本格的に迎撃します。