宣戦布告
貴族派が賭けの払い戻しを狙って襲撃した翌日、城に貴族派からの宣戦布告が届いた。
「バカか貴族派は。戦っても無駄なこともわからんのか」
アーゼ王太子は呆れたように溜め息を吐いた。
「上にいるのが腐った皮ですからね。中身が表に出て来ないとこの程度でしょう」
第二王子のレオナルド様はつまらなさそうに言った。
「皮むいたら何か出てくるの?貴族派って面白いね!」
第四王女のイレーネ様は無邪気に言った。
「何にしても貴族派の主力が出てきてからが本当の勝負ということね」
第三王女のグレース様は神妙な顔で言った。
「あれがこの国の王族なのね。ディアナとロベリア以外顔を合わす機会なかったから知らなかったわ」
サヤは関係ないことをポツリと呟いた。
「結構いるんですね。それにしても私たちここにいてもいいんでしょうか?」
ヒカリは緊張した顔で周囲に視線を向けた。
「いてもらわないと困る。今回の話はヒカリにも関係がある話だしな」
「…つまり勇者として何らかの役割があるということですね」
ヒカリは神妙な顔をして言った。
「では軍議に入るぞ。まず最初の議題は襲撃の際に使われた薬のことだ」
王は真顔で言った。
「資料によると貴族派の副派閥長が雇った冒険者が薬によってトロルに変化したそうだ。間違いないな、イドル」
王はこちらに視線を向けながら言った。
「はい。召喚獣を通して見てました」
「視点共有だな。どれくらいパワーアップしてたんだ?」
ロベリアは真剣な顔で聞いてきた。
「それはわからん。その冒険者のことは全く知らないからな。ただ新人潰されと呼ばれた冒険者が魔物に慣れているAランクが束になっても苦戦する程の魔物になったことを考えると、相当強くなったのは確かだろう」
「リンを出す程でありますからな。他の冒険者への被害を抑えて倒すには最適であります」
エリザは納得したように頷いた。
「…本当に倒す以外になかったんでしょうか?」
ヒカリは悲しそうな目をして言った。
「正直それはわからない。だがあの場面では探る時間はなかった。生きたまま凍らせることは出来たかもしれんが中から割られる危険があったし、こいつに色々やられるよりは死んだ方がマシだろう」
おれは白衣の女を横目で見ながら言った。
「失礼な!ミーはそんなマッドな魔導サイエンティストじゃないデス。大事なサンプルにダメージを与える真似はしないデス」
自称魔導サイエンティストのメグは全く説得力がないことを言った。
「何かわかったか?」
王はメグに話を促した。
「いくらミーでも1日じゃオールアナライズはインポッシブルデシタ。ただトロルのブラッドの中にバラエティー豊かなセルが見えました。魔王軍のマッドサイエンティストがメディシンの中にモンスターのブラッドやボディをミックスしたのは確かデスネ」
メグはそこまで言って懐から一本の試験管を取り出した。
「トロルのブラッドデス。ティアドロップブレイブのレッドスノーがドリンクすればクリーチャーキラーへとエボリューションするデショウ」
メグはヒカリに試験管を放り投げた。
「光に魔物に変わった人間を討てって言うの?」
サヤは無表情でメグを見つめた。
「オフコースデス、イービルアイアンチブレイブ。現状キルするのがモンスターにチェンジしたヒューマンをストップするベストチョイスデス。対抗するカードを用意しないのはナンセンスデショウ」
メグは諭すように言った。
「大丈夫ですよ沙夜ちゃん。いざとなったらやれますから」
ヒカリは鞘からベニユキを取り出して血をかけた。
「…出来るから心配なんじゃない」
サヤはそう呟いて黙り込んだ。
「次は貴族派を迎撃する場所だが…。元帥はどこがよいと思う?」
王は元帥に話を向けた。
「ベッキング城でしょうな。貴族派派閥長の領地に近く、オーク砦も望めます。貴族派とオークまとめて倒せるのは大きいかと」
元帥は模範的な解答をした。
「オークってことは獣王の部下ですよね?ノルマルとの国境の守りを突破して入って来れるものなんですか?」
ヒカリが不思議そうな顔をして聞いてきた。
「国境を守る兵にもドレークたちにも気付かれないうちに侵入されていたそうだ。侵入の直後貴族派が守る砦が何の抵抗もなく落とされたことから最初から示し合わせてたと考えるのが妥当だろう」
「無能だから国の主要な役職から外された腹いせに魔王軍と手を組むとか…。やっぱり腐ってるわね」
サヤは吐き捨てるように言った。
「急激な革命は反発を招くものだからな。所で作戦はどうするのだ?」
アーゼ様が元帥に尋ねた。
「籠城ですね。相手にひたすら攻めさせるのが基本です」
元帥は落ち着いた調子で言った。
「なぜ籠城など?やつらなど力でねじ伏せられるでしょう」
レオナルド様はよくわからないという顔で言った。
「オークを釣り出すためです。守りを固めていればいずれ貴族派は焦れてオークに助けを求めるはずです。その間にオーク砦を落とせば貴族派を倒す新たな拠点にも使えるでしょう」
元帥はそう言ってニヤリと笑った。
「繋がってるかどうかもわからないものに頼ることを前提とした作戦ですか。ずいぶんあやふやですね」
王族派の近衛騎士隊長が口を挟んできた。
「貴族派内部に協力者がおりますからな。王もよくご存知でありましょう?」
エリザは不敵な笑みを浮かべながら言った。
「協力者ですか。その者は信頼出来るのですか?」
神殿騎士団長が探るように言った。
「それは王が保証して下さる。それでは不足か?」
ロベリアは冷静に言った。
「ここは下がった方がいいですわ。王を信頼出来ないと口に出すのは得策ではありませんわ」
チェリルは神殿騎士団長をたしなめるように言った。
「マギスニカ協定の共有情報というわけですか…。なら派閥同士探り合っても無駄ですね」
神殿騎士団長はそう言って溜め息を吐いた。
「勇者様。あなたには先頭で突撃してくるオークキングを撃退していただきたい」
元帥はヒカリをまっすぐ見ながら言った。
「オークキングですか…。私に倒せるでしょうか?」
ヒカリは不安そうに手を握った。
「むしろ倒して色々傷付く覚悟をしといた方がいいわ。…それにしても雁首揃えて話し合うことが泣き虫な女の子をどう使うかだなんてひどい国ね。貴族派蹴散らせとか言わないだけマシだけど」
サヤは皮肉げな笑みを浮かべて言った。
「反乱に対して最初から勇者を差し向けると勇者を私物化していると他国に非難されるからな。魔物と繋がってるという建前がないと勇者は動かせんよ」
アーゼ様は最もなことを言った。
「…私としてはもっと皆さんの力になりたいんですけどね」
ヒカリはうつむきながら呟いた。
「そう無理に背負い込むことはないここは軍に任せておけ」
おれはヒカリの頭を撫でた。
「もう。撫でておけばいいと思ってるんですから」
ヒカリはそんなことを言いながら身をまかせた。
「元帥。ベッキング城の守備隊とオーク砦への攻撃隊の選出はまかせる」
「はっ!必ず貴族派を撃ち破ってご覧にいれましょう」
元帥は王に向かって敬礼した。
ーー
「ふふっ。いよいよ害獣駆除の始まりね」
ヴィレッタはそう言って扇を手で叩いた。
「おまかせ下さい。この賞に恥じない活躍をしてみせます」
ネルキソスは金のラズベリーを手で弄りながら言った。
「やめて。縁起でもない」
ヴィレッタは冷たい目でネルキソスをにらみつけた。
「それは失礼しました」
ネルキソスはいつものうさんくさい笑みを浮かべて答えた。
あまり話が進みませんでした。次はいよいよ開戦です。