フォルビドゥン指定
「金田さんが出した魔法が金田さんを攻撃した?自爆なわけないのになぜ…」
私はわけがわからなくて思わず呟きました。
「簡単な話よ。…イドルが金田の魔法陣に金田を狙うように術式を書き加えたんだわ」
沙夜ちゃんが冷静にとんでもないことを言い出しました。
「術式を書き加えた?!…確かにイドルさんなら可能でしょうけど。他の人が書き換えてもそのまま発動してしまうものなんでしょうか?」
私は沙夜ちゃんに尋ねました。
「魔法陣自体誰が魔力込めても発動するものじゃない。誰が書いても発動したっておかしくないわ」
な、なるほど…。理屈としてはわかります。
「魔法が発動しないのはどうやってるんですか?」
「属性魔法陣に点を打って魔力の流れを阻害してるんでしょうね。書くよりはずっと楽だわ」
そういえば属性魔法陣が途切れたら不発になってましたね。あれとは違って途中で道をふさぐ感じなんでしょうか。
「すぐ正解にたどり着くなんてすごいでありますな。自分なんかイドル卿から直接聞くまでわからなかったであります」
エリザさんは沙夜ちゃんを尊敬がこもった目で見ました。
「要するにチェーンの概念でしょ。慣れてるわ」
沙夜ちゃんはわけがわからないことを言いました。
「ジュエラルのあれか?」
「似たようなものね。相手が魔法陣を書くのに合わせて術式を割り込ませて、最終的に書かれた魔法が発動する。だから邪魔されたら正常に発動しないってわけ」
沙夜ちゃんはロベリアさんの言葉にうなずきました。
「だったらイドルさんに割り込まれた術式に更に書き加えたらどうでしょうか?」
「そこはスペルスピードの差ね。書く早さが違い過ぎて後から対応出来ないのよ。そもそも術式の知識がないと書かれた所で対処出来ないでしょうね。…って決闘用語使ってもわからないか」
沙夜ちゃんは舌をペロッと出して言いました。
「そもそもお兄ちゃん伝導するまでの時間に干渉出来るもん。どんなに早く書いても間に合うわけないよ」
「ものすごい早さで変な術式書きますものね。イドルお兄様は敵に回したくありませんわ」
レイティスちゃんとチェリルちゃんはしみじみとした口調で言いました。
「やっぱり書き直すのって難しいんですか?」
「そもそも課長程魔筆や思考を分割出来るわけないですしね。頭脳系のギフトって結構貴重なんですよ」
ルーシーさんはそう言って微笑みました。
「空間魔法の上に直書きして換装を阻害された時はわけがわからなかったであります。剣取り出そうとしたら手榴弾で戸惑ってる間に火属性で爆発させられるとか最悪でありました」
エリザさんも遠い目で言いました。
「色々あれなのね。あっ退場するみたいね。迎えに行きましょ」
沙夜ちゃんの言葉に皆で控え室に向かいました。
ーー
「はあ。つまらない試合だった。少しは歯ごたえがあればよかったんだがな」
イドルさんは気怠げに呟いた。
「その割には魔法陣に干渉していたようだけど」
沙夜ちゃんはイドルさんをジト目で見ました。
「もう種を見抜いたのか…。あれは負ける可能性を極力潰した結果だ。…魔術対抗戦では相手を妨害し過ぎてフォルビドゥン指定食らったがな」
でしょうね。自由に魔法陣に干渉されたら勝負になんてなりませんもん。
「それだったら他人の魔法陣に何も書いちゃいけないってルールにしたら」
「ないな。そもそもそんなこと出来るのもやるのもおれだけだ。1人だけ制限するルール作るよりはフォルビドゥン指定にした方がよかったんだろう」
イドルさんは苦笑いを浮かべて言いました。
「やったねイドくん!お姉ちゃんうれしいよ!」
ミアーラさんがやって来てイドルさんに抱きつきました。
「あの程度どうということはない。もう少し後遺症が残らないような戦いはしたかったがな」
イドルさんはミアーラさんの背中を撫でながらいいました。
「まあガチでお兄ちゃんと戦ったんだから仕方ないよ。…レイが言っても言い訳かな?」
レイティスちゃんは首を傾げながら返しました。
「それよりあの羽とひよこどうやったの?お姉ちゃんも使ってみたい!」
「そう言うと思った。あれの術式は…」
イドルさんはミアーラさんと一緒に魔法談義を始めました。
「とりあえず払い戻し受け取りましょうか。王都だからすぐのはずよ」
沙夜ちゃんは賭け券をヒラヒラさせながら言いました。
「地方のお金の輸送はどうするんでしょうか?」
「馬車だそうだ。護衛も当然つく」
イドルさんは思い出すように言いました。
「貴族派が狙うとしたら輸送時か払い戻しを賭けた人に渡す時でしょうか?」
「その可能性は高いな。もう盗賊がいる貴族は軒並み壊滅してるから貴族派は私兵で襲撃するしかない」
イドルさんはそう言って顔をしかめました。
「そうなると貴族派と事を構えるのはそう遠くないわね」
沙夜ちゃんは神妙な顔で呟きました。
ーーー
「さて、これで貴様らは借金を背負うことになったわけだが」
全身金ピカな男が震えている貴族派の前で凄んでみせた。
「ご勘弁をギルガメシュ様!あのような額とても払えませぬ!」
「せめて少しだけ待っていただけないでしょうか!このままでは民が路頭に迷ってしまいます!」
貴族たちは金ピカーーーギルガメシュ・リッチモンド・ゴルディックスに土下座した。
「真に民のことを思うなら我がゴルディックス家に借金するような真似をせずにさっさと抜ければよいものを。なぜ勇者タダノに賭ける愚行を犯したのだ?」
ギルガメシュは土下座する貴族を見下しながら言った。
「わ、我が家は代々貴族派だったのです。今更裏切ることなど出来ませぬ!」
貴族はまっすぐな目でギルガメシュを見た。
「あくまで貴族派に忠義を尽くすか。その愚直さに免じてチャンスをやろう」
ギルガメシュは紙を貴族たちに向けて投げた。
「…わ、我々にこのような計画に協力しろと?」
「嫌なら今ここで貴様らの口封じをして、遺された家族から全てを奪ってもよいのだぞ?貴様らのような無能を使ってやるだけでも光栄に思え!」
ギルガメシュはニヤリと薄ら笑いを浮かべて言った。
「…わかりました。ぜひ協力させて下さい」
「わ、私も!」
「他に選択肢がないですからね。やりましょう」
貴族たちは覚悟を決めてギルガメシュの計画に乗った。
「ではその契約書にサインしろ」
貴族たちが震える手でサインすると契約書と貴族たちの体が光った。
「これで貴様らは契約魔法で縛られたわけだ。裏切ったらその場で金の像になる。よいか、ゆめゆめ裏切ろうと思うなよ無能ども」
ギルガメシュの言葉に貴族たちは青白い顔で何度も頷いた。
「せいぜい我らの野望の礎になれ無能ども。フハハハハ!」
ギルガメシュの高笑いだけが部屋の中に響き渡った。
借金背負った貴族の背景がだいぶ雑になってしまいました。
次から貴族派との全面衝突です。