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構陣師  作者: ゲラート
第1章 サミュノエル動乱
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もう1人の勇者(笑)

「ここは一体…。なぜぼくはこんな所に?」

もう1人の勇者は頭を押さえながら辺りを見渡した。頭から落ちて気絶してたから状況がわからないのも無理はないな。

「召喚の間ですわ。真に勝手ながら勇者として召喚させていただきましたわ」

チェリルはそう言って軽く頭を下げた。

「勇者…。フフフ。やっぱりぼくは選ばれた存在ということだね!」

こいつ完全に浮かれてるな。物語の世界に入り込んだと考えたら普通の反応かもしれない。


「そりゃ誰かしらは当たるでしょうよ。当たりがないくじとかただの詐欺だわ」

サヤは冷たい視線でもう1人の勇者を見ながら言い放った。

「…もしかして君たちも勇者か?」

「学生服着てるんだから当たり前じゃない。まさか勇者が自分だけだとでも思ってたの?おめでたい頭してるわね」

なぜか心なしかチェリルを相手にした時より辛辣なような気がする。ある種の先入観があるからかもしれないが。


「また沙夜ちゃんは…。あ、はじめまして。私は白峰光です」

「黒谷沙夜。不本意ながら一緒に勇者をやることになったわ」

不本意と言うのは勇者をやることなのかもう1人の勇者と組むことなのかどっちなんだろう。わざわざ聞く気にはなれないから放っておくか。

「そ、そう。ぼくは金田英雄だよ。 よろしく」

カネダは貼り付けられたような笑顔を浮かべて名乗った。

「せいぜい足を引っ張らないでね。戦闘中に頭から落ちて気絶でもしたら迷惑よ」

サヤはサラリと失態を蒸し返した。 痛い所を責めずにはいられない性分なんだろう。


「…気をつけるよ。所でみんなはどこだい?一緒に魔法陣に乗っていたはずだけど」

どうやらサヤが言った通り他に一緒にいたやつらがいたようだ。かなりの記憶力と洞察力だな。

「おそらく元の世界に留まってるはずだ。勇者召喚陣には巻き込まれ防止の術式が埋め込まれてるからな」

おれが答えるとカネダは何かをつぶやいた。実際話してる言語が違うから口の動きじゃわからなかった。


「ふざけるな!そんな魔法陣信じられるか!さっさとみんなをここに召喚しろ!」

…そう来たか。はぐれたことで動揺する恐れはあることは考えていたがまさかそんな荒唐無稽なことを言われるとは思わなかった。

「それは無理だ。召喚される時に除外された異世界人を都合よく呼び出す魔法陣なんかこの国には存在しない」

おれがそう返すと周りから何か言いたげな視線が突き刺さってきた。

「ないなら今すぐ書け!勇者の命令が聞けないのか!」

こいつかなり上から目線だな。元の世界でもこうやって自分の立場や人望で意見を押し通して来たのか?


「落ち着いて下さい。一緒にいた皆さんを心配する気持ちはわかります。ですが皆さんは元の世界にいる可能性もあるんでしょう?わざわざか危険な所に喚び出すはよくないと思います」

ヒカリはなだめるような口調で言った。

「それに喚び出す出すとなると必然的にこちらが生殺与奪権を握ることになりますわ。場合によっては人質にとられても文句は言えませんわよ」

チェリルは冷たい口調で言い放った。内心カネダのことがあまり好きではないようだ。

「なんだと!人質なんてぼくが許さないぞ!」

カネダは食い気味に叫んだ。どうやら自分が何を言ってるのかわかってないようだ。

「なら喚び出さなくてよろしいですわね。こちらとしてもおまけのあなたのわがままを聞いてヒカリ様の反感を買いたくなかったからちょうどいいですわ。まあ気休めに探す素振りくらいはしますのでそれで満足していただきたいですわ」 

さらりとおまけと言ってのけたな。まあおそらく全員の総意だろうが。


「だ、誰がおまけ」

「実際そうじゃない。自分でもおまけ扱いだとわかってるから元の世界に残ってるハーレムメンバーを集めようとしてるんでしょう?」

サヤは全くカネダの方を見ずに冷たく言い放った。

「な、何を根拠に」

「根拠も何もあんた自分で言ったじゃない。『そうか。魔法陣から手が出てみんなをはじき出したのはそういうことだったのか…』ってね」

サヤの言葉にカネダは目を丸くした。

「な、なぜそれを?!…はっ?!」

カネダは慌てて口を手で塞いだがもう言ってしまった言葉を戻すことは出来なかった。

「あたし地獄耳で読唇術使えるのよね。さすがにこの世界の言葉はまだ無理だけどね」

サヤはそう言ってニヤリと笑った。こいつを敵に回すとまずそうだな。


「巻き込まれずに済んだ人たちをわざわざ危険な世界に召喚しようとするなんて…。あなたは一体何を考えてるんですか!」

ヒカリはカネダを睨みつけながら声を荒らげた。

「そりゃここでは勇者様扱いしてもらえないからでしょうよ。だからチヤホヤしてくれるハーレムを異世界で再結成しようとしたってわけ。こいつは結局自分が一番じゃないと気がすまない自分本意のクズなのよ」

サヤはそう言いつつわずかに首を傾げた。何か気になることがあるようだ。


「クソッ!全部お前のせいだ!お前が魔法陣を書き換えたりしなければぼくは真の勇者として認められたのに!」

カネダはおれを憎しみを込めた目で見ながら叫んだ。自分で本性現しただけのくせに逆恨みにも程があるな。

「それはよかった。お前なんかの下らない英雄譚の登場人物にはなったらどうなるかわかったものじゃないからな」


「何だと、この」

おれの言葉に堪えかねたらしいカネダが拳を握って向かって来た。おれは軽い威嚇のつもりで手の近くに魔法陣を書き小さな水の球をカネダの顔をかすめるように放った。

「仮にも勇者である以上危害は加えたくないが…。まだ攻撃するなら次は当てるぞ」

最も当たっても大したことはないが。威力を最小限に抑えた水属性のダメージなんてたかが知れている。


「く、クソー!覚えてろよ!」

ただ脅しただけで腰を抜かしたカネダは捨てゼリフを吐いて慌てて召喚の間から逃げ出した。魔法を見たことないと無理もない反応だな。

「出来ればあんな失態を表に出したくないですわ。それに騎士団にはエリザ様もいますわ。腐っても勇者なので五体満足で済むように止めて来て下さいまし」

チェリルは毒を吐きながら神殿騎士に無茶な命令を下した。

「はっ!」

神殿騎士は急いで召喚の間から出て行った。あいつらもなかなか大変だな。


「最低ねあいつ。あんなのにまかせろと無責任なこと言ったことについては素直に謝罪するわ」

サヤは軽く頭を下げながら毒を吐いた。

「気にしなくていいですわ。光属性持ちの異世界人を勇者として召喚している以上ハズレがいる可能性はありますもの。それに勝手に異世界に誘拐しておいて文句言える立場ではないことくらい理解してますわ」

だったらはっきりおまけとか言わないで欲しい。少しは歯に衣着せてもいい気がする。

「ふうん。光属性ねえ…。確かに何となく七光りのボンボンな感じするわねあいつ」

サヤは物憂げな表情をしながら軽口を言った。

「そ、そんなに人のこと悪く言うものじゃないですよ」

ヒカリはオドオドしながら止めに入った。


「めんどくさいやつしかいないとはな。神の気まぐれにも困ったものだ」

「いいじゃない。退屈しなくて」

おれが思わず漏らした独り言に返してきたのは色んな意味でめんどくさいやつ筆頭のサヤだけだった。

以前より金田のクズさをわかりやすくしようと努力して書いてみました。

ただその分チェリルの毒も増してしまったのが難点ですね。

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