決闘前夜
「よし!これであいつに勝てるぞ!」
目の前の魔法使いを倒したぼくは確かな手応えを感じていた。
「お見事。並の旧世代魔法使いはもう相手にならないでしょう」
ネルキソスはいつも通りの微笑みを浮かべながらぼくをほめてくれた。
「当たり前さ。ぼくは選ばれし真の勇者だからね!」
「そうですね。二つ名がないなど些細なことです」
ヴィレッタも扇で口元を隠してほめてくれた。やっぱりよくわかってるね。
「後は今まで学んだことを出せばいいんです。そうすれば全て私の計算通りの結果になりますからね」
ネルキソスは頼もしいことを言ってくれた。
「任せてくれ。必ず君たちの期待に答えてみせるよ」
ぼくは大剣を振り上げて勝利を誓った。
ーーー
「結局かすりもしないのか。明日が不安になってきた」
魔法陣を消したイドルさんはそう言って溜め息を吐きました。
「大丈夫。光が化け物なだけよ。金田には十分通じるわ」
沙夜ちゃんはさらりとひどいことを言いました。
「まあ確かに金田さんは大剣と鎧でそこまで速くは動けないでしょうね。何より特化覚醒で差が開いてますし」
「そうですよ。それにまだ奥の手が残ってるではないですか。ただの勇者ごとき余裕です」
ルーシーさんまで金田さんのことをただの勇者って呼ぶんですね…。もう勇者タダノだと思ってる人もいるかもしれません。
「ヒカリに火属性だけで勝てないのはわかってるからいい。ただ少しくらい勝つイメージが出来ればよかったと思っただけだ」
イドルさんは冷静な口調で言いました。
「仕方ないわね。あたしが勝てる予告をしてあげるわ」
沙夜ちゃんはそう言って息を吸い込みました。
「やめて!不死鳥の特殊能力で金の鎧が焼き払われたら闇のゲームで鎧と繋がってる金田の魂まで燃え尽きちゃう。お願い、死なないで金田!あんたが今倒れたら貴族派やネルキソスとの約束はどうなっちゃうの?ライフはまだ残ってる。これを耐えればイドルに勝てるんだから!次回、『金田死す』。デュエルスタンバイ!」
沙夜ちゃんは悪どい笑いを浮かべながら言いました。
「あ、それ死んじゃいます!その予告本当に死んじゃうやつです」
私は思わずツッコミを入れてしまいました。
「…全くカネダに対する気遣いが感じられないな。それどころか煽ってるようにしか聞こえん」
「一応言っとくけど元ネタはもっと希望を感じさせるような口調だったわよ。サブタイトルで完全にあれだけど」
イドルさんの言葉に沙夜ちゃんは冷静に返しました。
「何にしても思い出したら笑えてくるので余裕は持てそうですね」
ルーシーさんは笑いを浮かべながら言いました。
「そうだな。ありがとう、サヤ」
イドルさんは沙夜ちゃんの頭を撫でました。
「ふっ。計算通りね」
そう言いながら沙夜ちゃんは少し戸惑ってます。受け入れられると思ってなかったんでしょうね。
「それにしてもここまで火属性に向き合ったことはなかったな。大体いつもよく燃える物を錬金して発火させるのが主だった」
イドルさんはポツリとそんなことを言いました。
「課長の戦法は雷と錬金が主ですからね。ミアーラ様と違い火属性はあくまで補助的なものだったんです」
「だがヒカリとサヤの異世界の知識もあって色々と出来ることも増えた。もう負ける気はしない」
イドルさんはそう言って私たちに笑いかけてくれました。
「そういう意味じゃネルキソスさんに感謝すべきでしょうか?」
私の言葉に皆さん黙り込みました。
「だ、だってネルキソスさんが制限持ちかけて来たおかげで火属性鍛えることが出来ましたし…。やっぱり敵に感謝するって変ですか?」
「いや、ヒカリの言う通りだよ」
イドルさんは優しい目で私を撫でてくれました。
「むー。何だかごまかされてる気がします」
私がにらみつけても誰も答えてくれませんでした。
ーーー
「ネルキソス様、ヴィレッタ様。密書を持って参りました」
黒い装束を纏った密偵が黒い封筒をネルキソスに渡した。
「ご苦労様です」
「あ、それとこんな物も一緒に渡されました」
密偵は懐からヴィレッタとネルキソスの名前が刻まれた箱を取り出した。
「何かしら?…金のヤシの葉?」
「こっちは金のラズベリーですね。何やら手紙が同封されているようですが」
手紙を読むとネルキソスの笑顔は強張り、ヴィレッタは口元に笑みを浮かべた。
「アーッハッハッ!送り主はよくわかってるわね」
「…私は全く納得がいかないのですが」
ネルキソスは苦笑いを浮かべながら言った。
「どうせ計画に支障はないわ。最後に笑うのが誰なのか思い知らせてやりましょう」
ヴィレッタは密書と手紙を読んでから風の刃でみじん切りにした。
だいぶ短くなりました。
次は決闘です。