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構陣師  作者: ゲラート
第1章 サミュノエル動乱
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光とのデート

「すいません!待たせましたか?」

白いワンピースに白い帽子を被ったヒカリが待ち合わせ場所に来た。

「いや、今来た所だ」

おれが答えるとヒカリは赤くなった頬をおさえた。

「どうした?」

「いえ。少女マンガで読んだ光景を実際に体験しているのでつい意識してしまって…」

ああ。昔ロベリアに借りた恋愛小説にもそんなシーンあったな。女子がそういうの好きなのはどこの世界でも同じようだ。


「ちょっと服選びに時間がかかってしまったんです。ど、どうでしょうか?」

ヒカリは上目遣いで見てきた。

「とても似合ってるぞ。普段のキモノも綺麗だがワンピースも新鮮でかわいいな」

「あ、ありがとうございます」

ヒカリは照れくさそうにもじもじしている。すごく初々しい反応だな。

「とりあえず行くか。エスコートしますよ、お嬢様」

おれはヒカリの手を取った。

「は、はい!」

ヒカリは顔を真っ赤にしながらおれの手をぎゅっと握った。


「今日はどこに行きましょう?」

ヒカリは少し落ち着いた様子のヒカリが聞いてきた。

「劇場にでも行くか。ちょうどヤマトの演目の前売り券をもらったんだ」

「ヤマトのですか。どんな話なのか楽しみです」

ヒカリは目をキラキラさせながら言った。

「始まるまで時間があるからちょうど広場で時間を潰そう。ヒカリとサヤの功績を讃えた祭があるしな」

おれの言葉にヒカリは頬を赤らめた。

「私たちのお祭り…。何だか照れますね」

「どうせ世界を救って行ったら各地に似たような祭ができるんだ。今のうちに慣れておけ」

おれがそういうとヒカリは目を丸くした。

「他の国でもですか。勇者として期待に応えないといけませんね」  

ヒカリは小さく拳を握りしめて言った。


「ら、『落涙』の勇者様?!いつも屋根の上を飛んでるのを見てます!」

「というか地面を歩いてるの初めて見ました…」

「どうやったらあんなに高い壁を駆け上がれるんですか?!」

ヒカリは勇者としてではない活躍で人々の記憶に残っているようだ。

「最近では白い糸を出して時計台でスイングしてましたよね」

「白い羽で空を飛んでるの見たことがあります」

「前なんかシールドを蹴って移動してましたよね」

周りの人たちは更に言葉を続けた。


「ちゃんと日頃魔法の練習してるんだな」

おれは耳まで真っ赤にしてうつむいてるヒカリの肩をポンと叩いた。

「うぅ。まさかそんなに見られてたなんて…」

「当たり前だろう。君が王都の上を飛び回るのは城から特例が出されているからこそ認められているんだ。屋根の上を走る何かがいれば誰だってわかる」

実際空を見れば勇者が舞っているといるという話は王都中に広まっている。そのおかげで治安も格段によくなったそうだ。誰だって空から降ってくる勇者に蹴られたくはないんだろう。

「むー。こうなったらやけです!演劇が始まるまでお祭りを楽しんじゃいましょう」

ヒカリはおれの手を持って駆け出した。

「やれやれ」

おれは全ての身体強化魔法を多重掛けしてヒカリに付き合うことにした。


「たこ焼きにお好み焼きに焼きそば…。サミュノエルのお祭りで普段並ぶ物なんですか?」

ヒカリは不思議そうな顔で屋台を見た。

「いや、普段は串焼きやサンドイッチくらいだ。恐らくヒカリとサヤがニホン出身だからヤマトに寄せてるんだろう」 

「お祭りによって変えるんですか。色々な国の人が集まっているからこそ出来ることですね」

ヒカリはたこ焼きの屋台を前で立ち止まった。

「たこ焼き1つ下さい」

「はいよ!『落涙』様は半額でいいぞ。『構陣師』様と分けて食べるといい」

代金を受け取ったたこ焼き屋の店主は竹の船に乗ったたこ焼きをヒカリに渡した。

「ありがとうございます」

ヒカリはそれからお好み焼きを買って噴水の前に座った。


「あふっ。トロトロしてておいしいです。このタコも大きくておいしいですね」

たこ焼きを口に入れた光はうっとりした顔で言った。

「店名からしてシルバーオクトパスだからな。倒すのは難しいが味はかなりのものだ」

おれの言葉にヒカリは目を見開いた。

「魔物って食べられるんですか?!」

「身体構造自体は普通の動物とそこまで変わらんからな。むしろ高級食材として扱われる魔物もいるぞ」

おれの言葉にヒカリは考え込んだ。

「つまり私お城でも魔物を食べてたってことですね。魔物と動物の違いってなんなんですか?魔物図鑑にはそこまで載ってなかったので気になってたんです」

ヒカリは最もな疑問を口にした。

「魔物は魔石を核にした生物だ。普段は魔力が強いだけで動物と特に変わらないが、魔王が闇のコアを使って支配することで凶暴化するんだ」

「なるほど。その支配って七魔将にも及ぶんですか?」

「及んでないだろうな。魔王の支配には下級の魔物にしか効かない」

「戦いは避けられないわけですか…。イドルさんがプチデビルさんたちと契約してたのを見てもしやと思ったんですが」

洗脳か何かなら解けばいいという発想か。目のつけどころは悪くないな。


「一応契約を結べる程の信頼関係が結べれば説得出来るだろうがな。それより見事につまようじ2本使ったが大丈夫か?」

正直ヒカリなら1本ずつ使うと思っていた。ヒカリはまだ間接キスは出来ないだろうしな。

「ど、どうしましょう…。いつもたこ焼きが破れないようにV字刺ししてるのでついクセでやってしまいました」

なるほど。いつも2本つまようじついてるから気になってたがそんな理由があったのか。

「あ、あーん」

ヒカリは顔を真っ赤にしてたこ焼きをつき出してきた。手がぷるぷる震えてるのがヒカリの恥ずかしさを表している。

「…あー」

おれはたこ焼きを口に入れた。

「あまり食べないがうまいな。ニホンと比べてどうだ?」

「おいしいです。ソースだけでなくて青のりにかつおぶし、紅しょうがにマヨネーズまであるとは思いませんでした。沙夜ちゃんではないですがたまに壮大なドッキリを仕掛けられてる気分になります」

慣れ親しんでる物が中途半端にあると世界観がわからなくなるということか。気持ちはわからなくもない。

「無駄に異世界の文化が伝わってるからな。さて、冷めないうちにヒカリも食べろ」

おれはヒカリの手からつまようじを奪ってたこ焼きを差し出した。

「ほら、あーん」

「あ、あーん」

ヒカリは顔を赤くしてぷるぷる震えながらたこ焼きを口にした。

「はふっ。…何だかさっきよりおいしい気がします。何ででしょうか?」

ヒカリははにかみながら呟いた。

「さあな。普通に食べてないからわからん」 

「そ、そうですか。なら今日はわからないままでいいんじゃないでしょうか」

何だか口から砂糖が出そうな会話をしながらおれたちは軽く食事をとった。


「少し腹ごなしに何かやりましょうか。…あれは何ですか?」

ヒカリは四角い9枚の板がついた屋台を見ながら聞いてきた。

「見た所的当てみたいだが…。ボールがでかいな」

正直初めて見る。何なんだろうなこれ。

「これは『落涙』キックターゲットです。このボールを蹴って的に当てて、落とした列に従って商品をもらえます」

なるほど。盗賊討伐の時光の玉を当ててるのをモチーフにしてるわけだな。

「…そう言えばお父さんが昔そういうのやってる番組があったって言ってたような気がします。面白そうだからやってみます」

ヒカリは金を払ってボールを受け取った。


「ボール12個で的は9個ですか…。ひとまず1番下の9を狙います」

ヒカリはワンピースで足を後ろに振り上げた。おれはとっさにおれ以外の目にヒカリのパンツが触れないように煙を出した。…白か。

「はあっ!」

ヒカリが蹴ったボールは9番を打ち抜いた。

「よし!どんどん行きますよ!」

ヒカリは体の向きを変えて1番上の右端にある4番を落とした。

「楽しそうだな。ヒカリ」

「私ゲームだからこそ本気になれるんです。誰かを傷つける心配なんてしなくていいですから」

ヒカリはこっちに話しかけながら7番を落とした。足元も見ずによくあそこまでうまく蹴れるな。

「さて、どんどん行きますよ!」

それからヒカリは1発も外さずに的を落とした。


「おめでとうございます!全部落としたので1等の無限爆裂弾を差し上げます」

店員は黒い玉をヒカリに差し出した。

「無限爆裂弾…。爆弾みたいな物でしょうか」

ヒカリは黒い弾をしげしげと眺めた。

「このスイッチを押すことで時限式の爆裂術式が発動するようだ。術式が作動した後に再構成されて戻ってくるから無限ということか。最も威力が最大値になるまでは半日かかるようだが」

色々使えそうだな。爆弾はあって困る物じゃないしな。


「いい武器が手に入りましたね。うまくシュート出来て…」

ヒカリは今更になって自分の格好を見て顔を赤くした。

「み、見ました?」

ヒカリはスカートの裾を押さえながら辺りを見渡した。

「いや、何か煙が出てて見えなかったです」

「ちょうど『構陣師』を中心に円になってたな」

ギャラリーがよけいなことを言った。

「それってイドルさんには見えてたってことじゃないですか。イドルさんのえっち!」

ヒカリは顔を真っ赤にして呟いた。

「うぅ。スカート久しぶりにはくからついはしゃいじゃいました。…もっとかわいいパンツはいておけばよかったです」

確かに模擬戦ではキモノだったし魔法の訓練でも訓練着だったな。普段着もキモノだからデートでもなければこの世界でスカートをはくことはないのかもしれない。

「役得だったぞ。次からもガードするから安心しろ」

「何見ておいて偉そうにしてるんですかー!」

おれは腕を回しながらじゃれついてくるヒカリのおでこを手でおさえて攻撃範囲から逃れた。


「そろそろ時間だ。行こうか」

少し祭りで遊んでからヒカリの手をとった。

「はい」

手をぎゅっと握り返してきたヒカリと一緒に劇場に入った。

「なかなか混んでますね。ヤマトの演目は目新しいんでしょうか?」

ヒカリはおれの手をしっかり握りながら言った。

「しょっちゅう色々な国の演劇をやるからそうでもないぞ。ヒカリとサヤの出身地のニホン繋がりでヤマトブームが来てるんだろう」

「流行り廃りですか。どこの世界でも変わりませんね」

ヒカリはしみじみと呟いた。


前売り券を受付に渡しておれたちは席に着いた。しばらくするとキモノを着た役者が出てきた。

「そろりそろりと参ろう!」

なぜそろりそろりと大声を出して言うんだろうか。

「これは…狂言でしょうか?」

隣のヒカリがボソリと呟いた。

「キョーゲン?」

「色々大げさな喜劇です。滑稽な様を楽しむ伝統芸能ですね」

題材は主役と美容にこだわる4文字ばかり喋るオカマが騒動を巻き起こす物だった。

「…狂言というよりは芸人のネタみたいな感じですね」

ヒカリは遠い目をして言った。元の世界のことを思い出しているのかもしれない。

「もう全部背負い投げ~」

最後はオカマが全部投げてお開きになった。

「なかなか面白かったな」

「そうですね。元の世界との違いがあって面白かったです」

ヒカリも楽しそうにしている。気に入ってくれたようで何よりだ。


キョーゲンを見た後おれはチカゲから勧められたスシ屋に行った。

「回らないお寿司ですね。元の世界でもなかなか行く機会がなかったです」

ヒカリは店を見てわけがわからないことを言った。

「スシが回る…とはどういう意味だ?」

「動くレーンの上にお皿を乗せて流してるお寿司屋さんがあるんです。回転寿司って呼ばれていて安価で提供されてるんですよ」

そんな物があるのか。チカゲに話したら商売にしようとするだろうな。

「むっ。チカゲさんのこと考えてますね」

ヒカリは頬をふくらませながらこっちを見てきた。

「悪い。今はヒカリのことだけ考えるべきだったな」

おれはふくらんだヒカリの頬をつついた。

「ぷしゅー。…もう!怒ってるんですよ!」

プンプン怒ってるヒカリの頭を撫でてなだめつつ、おれは店に入った。


「いらっしゃい!…『落涙』様に『構陣師』様?!来ていただいて光栄です!」

店主は驚きながらおれたちを見てきた。

「今は私用だ。楽にしていい」

「ほう。デートですか。会長から聞いてましたが手が早いですね」

店主は人聞きの悪いことを言ってきた。

「別に手を出した覚えはないんだが。どういうわけか懐に入り込んでただけだ」

「カー!モテる男の発言は違いますねぇ。あっしも転生したら言ってみたいもんです」

店主はニヤニヤ笑いながら言った。


「イドルさんは素敵ですから当然です。今の旬は何ですか?」

ヒカリは店主に質問した。

「カニですね。後サーモンにマグロです」

「ならカニ、サーモン、イクラ、マグロ、エビ、イカ、玉子を2人分お願いします。イドルさんはわさび大丈夫ですか?」

ヒカリはたいていのヤマト人がしてくる質問をした。

「問題ない。後アナゴを2人分頼む」

「はいよ!」

店主は慣れた手つきでスシを握り始めた。


「はい、マグロお待ち!」

まず出てきたのはマグロだった。

「わあっ。赤身の旨味がしっかり出てますね。シャリとわさびも絶妙ですね。こんなおいしいお寿司初めて食べました」

ヒカリはうっとりしながら言った。

「うまいな。生の魚もなかなかいい物だ」

「ありがとうございます。お二人にそういってもらえるとこれからの修行の励みになります」

店主は感激した顔で言った。

「日々修行ということですか。深いですね」

そんな雑談をしながらおれたちはスシを堪能した。


ーー


「あの、今日のデート楽しかったです。ありがとうございました」

部屋の前まで送るとヒカリははにかんだ笑顔を浮かべてお辞儀をした。

「ちゃんとヒカリを労えたようでよかった。おれも楽しかったよ」

本当に楽しかった。ヒカリが大切な人だということを改めて認識出来たよ。

「よかったです。お休みなさい、イドルさん」

そう言ってヒカリは手を振った。

「ああ。お休み、ヒカリ」

おれは不意討ちでヒカリの唇を奪った。

「なっ。い、いきなりキスなんて」

ヒカリは顔を赤くして唇をなぞった。

「それではよい夢を」

おれは振り返らず自分の部屋に転移した。

デート回難しいですね。次は沙夜のターンです。

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