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構陣師  作者: ゲラート
第1章 サミュノエル動乱
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『落涙』と『魔眼』

「待て!逃げるな!」

アッシーさんの声を背に盗賊さんは逃げています。追い付けるかもしれませんが沙夜ちゃんから離れたら迷ってしまいそうです。

「どうすれば…。あっ」

私はとっさに浮かせていた光の玉をボレーで蹴りました。

「ぐわー!」

光の玉は逃げていた盗賊さんの後頭部に当たりました。大丈夫でしょうか?

「防御に優れるって物理的に硬いってことだったのかしら」

沙夜ちゃんは呆れたように見ながら倒れた盗賊さんを縛り上げました。

「硬度というよりは弾性が高い感じですね。衝撃を吸収して跳ね返すんでしょうか」

試しにシールドを出して踏んでみると天井まで飛び上がりました。私は宙返りして体勢を立て直して着地しました。

「グラスホッ…ゴホン。トランポリンみたいなものね。色々使えそうだわ」

…沙夜ちゃんは世界の引き金をどれだけ引いてるんでしょう。確かによく読んでましたけど。

「ヒカリ様もサヤ様もすごいですね。それに比べてもう1人は…」

アッシーさんは遠い目をして呟きました。

「その分あたしたちが頑張ればいいのよ。ね、光」

「そうですね。私たちが皆さんの希望になってみせます」

私は右人差し指で涙をぬぐって弾き飛ばしました。

「決めポーズが出たから終わりですね。帰りましょうか」

アッシーさんは私と沙夜ちゃんが転移魔法陣に乗ったのに合わせて転移魔法を使いました。

「あああー!」

いつも通り縛られた盗賊さんたちの断末魔の叫びが聞こえました。


ーーー


「ヒカリ様、サヤ様。明日はお二人の二つ名命名式がありますので午後に予定は入れないで下さい」

いつもの魔法の勉強をしているとルーシーがそんなことを言った。

「二つ名命名式?そんな大げさな物あったのね。てっきり周りが勝手に呼んでるのかと思ってたわ」

後勝手に名乗ってる線も考えてたわ。自分が名乗ってたのが広まったケースは結構あるでしょうしね。

「私たちまだ異世界に来て日が浅いですよね。二つ名をもらってしまっていいんでしょうか?」

光は心配そうな顔をした。まあ最もな意見ではあるわね。もう少し功績積み重ねてなるものだと思ってたわ。 

「短期間であそこまで盗賊団を壊滅させてたら十分だろう。それに二つ名があった方が民に勇者の活躍が知れ渡る。貴族派の犬のカネダとも区別しやすいしな」

イドルは火を足から噴射しながら言った。大分火力調整出来るようになったみたいね。


「まあどうやっても貴族派の味方でしかないわね。命令書の内容が新聞にすっぱぬかれたもの」

「でもあんな命令どう考えてもめちゃくちゃですよね。本当に信じてる人いるんでしょうか?」

光は首を傾げながら言った。

「そんなこと民にはどうでもいいことです。民の興味は賭けでどれだけ儲けられるかです。あの命令書のせいでもう1人の勇者は大穴という価値すら失いましたから誰1人として勝利を願っている人はいないでしょうね。私も賭けてますから課長には何としても勝っていただきたいです」

ルーシーはメガネを光らせて言い切った。 

「ずいぶん俗物的ね。まああたしも賭けてるけど」

「…私もイドルさんに賭けちゃいました」

光は照れ臭そうに手を挙げた。意外とちゃっかりしてるのよねこの子。


「ただ領主から芋づる式にたどれないのが問題よね。盗賊を討伐したらすぐ繋がってる領主が粛清されるもの」

いくらあたしたちが討伐したことがすぐに公表されるといっても早すぎるわ。遅くなったから街で休憩してたら粛清部隊と鉢合わせたこともあったし。

「派閥を抜ける人が多い上に残った人も粛清される…。踏んだり蹴ったりですね」

ルーシーはそう言ってニヤリと笑った。内心いい気味だと思ってそうね。

「クリプトキーパーからしたら後釜に卵バラまくチャンスね。今は世代交代はサナギの状態かしら。トランセ…サナギの中からどんな蜂が羽化するか楽しみだわ」

「…蜂ならコクーンじゃないんですか?」

光は不思議そうな顔で聞いてきた。

「まあどっちでもいいじゃない。とりあえず作法あるなら教えてくれる?少しくらいは覚えないとね」

「わかりました。やるからには徹底的にやらせていただきます」

ルーシーはにこやかに笑いながらメガネの位置を直した。


ーー


「それでは二つ名名付け式を始める。勇者ヒカリ、対勇者サヤ。前へ」

王が玉座に座って宣言した。

「「はっ」」

あたしたちは王の前に出てサミュノエル式の敬礼をした。

「勇者ヒカリ。そなたの祈るようにカタナを振るい、敵を慈しむ涙を流す姿はとても美しい。よってそなたに『落涙』の二つ名を授ける!」

落涙…。まさに光を表す二つ名ね。…少し誤解を与えそうな気もするけど。

「ありがたくちょうだいします」

光は王に向かって敬礼した。

「対勇者サヤ。そなたはその鋭い目で全てを見抜き、正確無比な矢で全てを射抜いておる。そなたには『魔眼』の二つ名を授ける」

魔眼ってそのまま過ぎるわね。もっとひねった方がいい気がするわ。

「ありがたくちょうだいします」

それでもあたしは王に敬礼した

「では2人とも、この二つ名の護符に名を記せ。これで命名神の加護を得られる」

王が差し出した紙に署名すると名前と二つ名があたしと光の中に入ってきた。

「『落涙』の勇者ヒカリ、『魔眼』の対勇者サヤ。汝らの更なる躍進を期待する。では解散!」

王が宣言して二つ名命名式が終わった。


「あなた方が勇者様と対勇者様ですね。記者のロレイナ・レイヴァンです。少々お話よろしいですか?」

玉座の間を出て大広間に行くと水色の髪に銀の瞳の女が名刺を差し出しながら話しかけてきた。

「いいですよ。何でも聞いて下さい」

光。その返しは色々まずいような気がするわ。

「じゃあお二人のスリーいたっ!弟くん!乙女にチョップするのはどうかと思うよ!」

ロレイナはイドルにチョップされた頭を大げさに押さえた。

「チョップされたくなら変なこと聞かないで下さい。ちゃんと仕事したらどうなんですか」

イドルは呆れた目でロレイナを見た。

「はいはい。わかりましたよ。では異世界に来た時のことを答えて下さい」

ロレイナは鷲羽の羽根ペンを走らせた。


「あわれ貴族派の犬に成り下がった勇者は同郷の『落涙』の勇者と『魔眼』の対勇者にも見捨てられてしまいましたとさ。…お話ありがとうございました」

ロレイナは盛った話を書いて取材を終わらせた。

「また適当な。そんな適当な記事で大丈夫なんですか?」

「うっさいなー。弟くんは私の母ちゃんか!ちゃんと記事採用されてるんだから大丈夫だよ」

…弟なのかお母さんなのかわからない返しね。

「あの、弟くんってことはミアーラさんの友達なんですか?」

光はおずおずとロレイナに尋ねた。

「あ、わかっちゃいましたかー。ミアーラとは学生時代からの親友なんですよ。ただミアーラは対獣王部隊の為に海底トンネルに出張ってることが多いからなかなか会えないんですよね。だから主な情報源は弟くんになっちゃうんです」

ミアーラは聞いてもないことをベラベラ話し出した。


「海底トンネル…。そんなのあるのね」

「サミュノエルは島国ですからね。隣国のノルマルから行き来するのに使うんですよ。普通に航海するとどうしてもドレークの私掠船とかち合うから当然でしょうね」

ドレーク。いかにも海賊な名前ね。

「ドレークさんたちってそんなに怖い人たちなんですか?」

「ガラは悪いですね。でも他の海賊から守ってくれますし、魔物も倒してくれます。海流も知り尽くしてますから道案内にも最適です。ただ海賊船に囲まれてるから威圧感が半端ないから出来れば関わりたくない気持ちはわからなくもないです」

あー。確かに海賊と好んで関わりたくないでしょうね。異世界人でも海賊マンガが好きでもリアルで会ったらやっぱり怖いでしょうし。


「あっ。盛りペンゴシップさんー。泣き虫勇者様と目付き悪対勇者様にインタビューでもしてたんですかー?」

ヴィレッタの取り巻きAがいやなあだ名を呼んできた。

「こう…爵令嬢様とその取り巻きさんたちですね。こんな所で会うなんて奇遇です。少しお話よろしいですか?」

ロレイナは周りを見ながらそんなことを聞いてきた。

「断るわ。今のあなたと話すことはない」

ヴィレッタは視線も合わせずに言った。

「つれないですねー。せめてあの命令書について一言お願いします」

ロレイナはメゲずに質問した。

「あの命令書はお父様の預かり知らぬ所で出された。私に言えることはそれだけよ」

「だ、そうです。上の下の記者に話すことはもうないようなので失礼しますね。ではごきげんよう」

やたら評価が甘い取り巻きBの言葉とともにヴィレッタたちは去って行った。


「あんたもしかしてあいつらのこと知ってるの?」

あたしはロレイナの耳元に口を近付けてささやきかけた。

「えっ?!まだ召喚されて1ヶ月も経ってないのにもうたどり着いたんですか?」

ロレイナがささやき返してきたから小さく頷いた。

「あの、そのこと誰かに話したりとか…」

ロレイナは不安そうに聞いてきた。

「まさか。言い触らしてもメリットないもの。光にさえ打ち明けてないわ」

「よく黙ってられますね。私政治部だったら書いちゃってると思います」

こいつが政治部じゃなくてよかったわね。むしろなれないように圧力かかってると考えるべきかしら。


「やっと見つけたぞ!」

なぜか鼻息を荒くした金田が大広間に来た。 

「何か用?今取材後なんだけど」

「だったら暇じゃないか。光さん、ぼくと決闘しろ!」

金田は大剣を振り上げながら言った。

「なぜ?私たちに戦う理由なんてないでしょう」

光は最もなことを聞いた。

「君たちだけ二つ名をもらうのは不公平だ!ぼくが勝ったらぼくも二つ名をつけさせてやる!」

何よその理由。光に受けるメリットないじゃない。

「光、無理に受ける必要はない。少しは金田の手の内は知れるだろうが特になくても勝てる」

イドルはさらりとよけいなことを言った。

「わかりました。全力でかかって来て下さい」

光の体から変なオーラが出てきた。いつになくやる気ね。

「バカ。何変な方向に誘導してるのよ」

「弟くん1ヶ月も経たないのにコマしたの?」

あたしとロレイナは責めるような目でイドルをにらみ付けた。

「…少し不用意な発言だったな。だが本当に金田の今の実力を把握出来るのはありがたい。しっかり実力を引き出させて勝ってくれ」

イドルは身も蓋もないことを言って光の頭をポンポンと叩いた。

「はい。イドルさんのために勝ってきます」

光はそう言って小さく拳を突き上げた。

勇者対決と聞いてもそこまで盛り上がりませんね。実力差が大きすぎて勝敗がわかりきってるのもあるんでしょうけど。

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