光と沙夜
トンッ。
『キャー!!』
私の親友の沙夜ちゃんが放った矢が的の真ん中に刺さると見学に来てた子たちから歓声が上がりました。
「またド真ん中!さすが沙夜様ね!」
「相変わらず凛々しいです!」
周りの子たちは興奮してはしゃいでます。やっぱり人気ですね。
「少し静かにしなさい。あたしはどうでもいいけど他の人たちの迷惑になるわ」
沙夜ちゃんはこっちを横目で見ながら言いました。
『はーい。気をつけまーす』
みんな声を合わせて答えました。沙夜ちゃんのファンは統率がとれてますね。
「沙夜様超クール…」
「あの鋭い目で見られるとゾクゾクしちゃいます」
沙夜ちゃんのファンたちは身悶えしながら言いました。
「美人って得だよねー。性格あんななのにこんなに人気出るんだから」
一緒に見学しにきた鈴ちゃんがしみじみと言いました。
「黙ってたら綺麗ですからね。でも沙夜ちゃんいい子ですよ?」
「まあね。敵に回さない限りは何か変なこと考えてるただの残念美人だから普通に付き合う分には問題ないよ」
鈴ちゃんは笑いながら割とひどいことを言いました。
「どうでもいいけど聞こえてるんだけど」
沙夜ちゃんが呟きながら真ん中を射抜くとまた小さな歓声が上がりました。
「すごい地獄耳だね。何でそんなに周囲に気が向いてるのに外さないんだろ?」
鈴ちゃんは半ば呆れながら言いました。
「きっとそれが沙夜ちゃんだからですよ」
「「何その非論理的な理由」」
なぜか鈴ちゃんとツッコミを被せた沙夜ちゃんの矢は部活中全く中心から外れませんでした。
「あんたたちよくあんな集団の中で見学出来るわね。別に待たないで帰ってもいいのよ」
弓道着から制服に着替えて戻ってきた沙夜ちゃんは冷めた口調で言いました。
「好きでやってるからいいじゃないですか。弓道やってる沙夜ちゃんかっこいいですよ」
「はあ。どうでもいい時はくっついてくるくせに何で肝心な時は黙ってどこかいくのかしらね」
沙夜ちゃんは溜め息混じりでいやな所をついてきました。
「そういうのよくないよ。そのせいで私なんかいつも蚊帳の外だもん」
鈴ちゃんは少しむくれながら言いました。
「あんたは蚊帳の外でいいわよ。顔見るといつもの毎日って感じがするわ」
沙夜ちゃんはしみじみとした口調で言いました。
「そうですね。鈴ちゃんがいるのが日常って感じがします」
「なんか複雑…。まあちょっとは癒しになってるんならいいかな」
鈴ちゃんは少し照れ臭そうに言いました。
「鈴は単純で助かるわ」
「そんなこと目を見ながら言うなー!」
沙夜ちゃん…。少しくらいは鈴ちゃんの気持ちも考えてあげて下さい。まあわざとなんでしょうけど。
「それじゃまた明日!」
や 1人だけ帰り道が違う鈴ちゃんは元気よく手を振りました。
「うん。また明日」
「はい。また明日です」
私たちが応えると鈴ちゃんは手を挙げて背を向けて歩き出しました。
「安全地帯がなくなったわね。これから何が起こるのかしら」
鈴ちゃんが見えなくなるなり沙夜ちゃんが不穏なことを言い出しました。
「鈴ちゃんのこと何だと思ってるんですか」
「だって鈴がいたら何も起きないじゃない。あの子が蚊帳の外なのは危機回避本能がすごく高いからよ。もちろんあんたが人を巻き込むのを極端に避けてるのもあるけどね」
確かにあそこまで私と一緒に巻き込まれないのはもはや本能なのかもしれませんね。
「で、でも沙夜ちゃんは巻き込んじゃってるじゃないですか」
「あたしは勝手に巻き込まれに行ってるから例外よ。光と一緒にいると面白いもの」
沙夜ちゃんはそう言ってニヤリと笑いました。
「もう。また沙夜ちゃんはそんなこと…」
私が言葉を繋げようとすると何だか地面が光り出しました。
「い、一体何が?」
下を見ると地面に意味不明な文字が浮かび上がってます。
「うわ。まさかファンタジー的展開になるとは思ってなかったわ」
沙夜ちゃんは流れるように自撮り棒を取り付けると私に体を寄せて来ました。
「言ってる場合じゃないでしょう!早く離れないと!」
こうしてる間にも意味不明な文字の光は強くなってます。明らかに何か起きる前触れでしょうこれ!
「いや、もう無理でしょ。それに今回ばかりはあんたの側にいた方が安全そうだし」
「意味わからないんですけど!」
そんなやりとりをしてる間に床の感覚が消えました。無意識で消える前に地面を蹴ってたらしく体が宙を舞ってます。
「とりあえずシライ90でも100でもやっちゃいなさい」
「そんなにシライないですよ!」
ひねりと宙返りで体勢を整えながら叫んでる間に私の体は光の渦に飲み込まれていきました。
ーー
光の渦を抜けたら地面が見えてきました。私はうまく着地できるようもう一回りしてひねりを加えました。
「はっ!」
私は右足を前に出して両手を上げて着地しました。心なしか地面に鳴り響いた音が大きかったんですが何ででしょうか?
「はいはい。栄光への架け橋、栄光への架け橋」
沙夜ちゃんは何事もなかったように着地しました。
「いや、あれ鉄棒ですよ?」
「どうでもいいわ。そんな細かいこと」
沙夜ちゃんはそう言って自撮り棒を外してスマホをしまいました。何でこんなに落ち着いていられるんでしょうか?
「ようこそおいで下さいました勇者様!」
声がした方を見ると白い鎧を着た騎士さんがいました。どうやら巫女らしき女の子の護衛みたいですね。
「は、勇者?何で誘拐犯のために危険な目に合わないといけないのよ」
沙夜ちゃんは辺りを見回しながら言い放ちました。
「そのことについては非常に申し訳なくは思ってますわ。ですがこちらとしても誘拐などという手段に出ておきながら目的も遂げずに解放するわけにはいかないんですの」
巫女の女の子は沙夜ちゃんの目をまっすぐ見ながら答えました。
「何その図々しい理屈。盗っ人猛々しいにも程があるわね」
「何とでもおっしゃって下さって構わないですわ。どの道魔王討伐に協力する以外あなた方が帰る手段はありませんもの」
自分たちの非を認めながら要求を通そうとしてきますか。小さいのにしたたかですね。
「その慇懃無礼な態度いちいち気に障るわね。あんた何様のつもり?」
「勇者召喚陣を司る巫女姫チェリル様ですわ。そういうあなたはどちら様ですの?」
「黒谷沙夜様よ。この子は白峰光。ついでに言うと名字が先で名前が後に来るわ」
沙夜ちゃんは流れるように自己紹介しました。険悪なのか何なのかわかりませんね。
「あんたたちに勇者が必要なのはわかったわ。でもそれなら別にそこに転がってるいかにもなのでもいいんじゃないかしら?」
「え?」
沙夜ちゃんが指差す方を見ると金髪の少年が転がっていました。沙夜ちゃんの応援に行った時に見たことがある制服を着てるから高校生なのは確かですね。
「勇者が多いに越したことはないですわ。それに着地を見る限りサヤ様たちの方が戦力になりそうですもの」
「スポーツの経験だけで語られてもね。大体何であたしたちが勇者だなんて言い切れるの?そいつに巻き込まれた可能性もあるじゃない」
実際には周りに人はいなかったんですけどね。召喚した人にはわからないから判断出来ないでしょうけど。
「残念ながらその可能性は低いな」
チェリルちゃんの後ろにいる黒いローブを着た人が口を開きました。ファンタジーなら魔法使いでしょうかい
「あんた誰?何であんたにそんなこと言えるわけ?」
沙夜ちゃんが魔法使いさんを探る目でにらみつけました。
「魔法使いのイドルだ。おれが勇者召喚陣に巻き込まれを防ぐ術式を書き加えた張本人だ。念のため何度も確認したが召喚される側の作為がない限り勇者召喚陣の対象ではない者が召喚される術式にはなってなかったよ」
…何だか回りくどいけどすごいってことだけはわかりました。勇者召喚陣をまかせられるなんて何者なんでしょう?
「…認めるのは癪だけど術式とやらはちゃんと作用してる可能性は高いわね」
沙夜ちゃんはイドルさんへの視線を緩めずに言いました。
「何でそんなことがわかるんですか?」
「そこに倒れてるやつがいるからよ。そいつ弓道部の大会であたしにつっかかって来てるお嬢様の高校の応援席でハーレム作ってるのを見たことがあるわ。 あたしたちが召喚された時間に制服を着てるとするとハーレムメンバーの誰かしらと一緒に帰るか遊ぶかしてるはずよ。それなのに巻き込まれてる人がいないってことは何らかのふるいに掛けられたと判断出来るわ。まあたまたま誰も周りにいなかったとかなぜか勇者召喚陣が出る時間がズレた可能性もあるけどね」
な、なるほど。沙夜ちゃん色々考えてるんですね。
「とにかく。あたしはあんたたちの事情なんてどうでもいいわ。後は光が決めなさい」
沙夜ちゃんはいきなり丸投げして来ました。
「考えるまでもありません。私の力が役に立つのなら助けたいです」
ーーー
相変わらず光はお人好しね。まあわかってたからいいけど。
「でしょうね。これからよろしく」
あたしの言葉に護衛らしき騎士は面食らった顔をした。
「意外ですわね。もっと反発するものだと思ってましたわ」
「そんなつまらないこといちいち気にしてられないわ。あたしはただ暇つぶしと情報収集したかっただけ。光が答えるまでのタイムリミットが過ぎればゲームオーバー。ノーサイドよ」
あたしの言葉に光は溜め息を吐いた。いつものこと過ぎて呆れてるんでしょうね。
「それにしても割と冷静だったわね。てっきり図星さされて怒り出すと思ってたわ」
「そういう反応は予測してましたわ。むしろ物語の出来事とか浮かれられた方が心配でしたわ」
まあ気持ちはわかるわ。本当に現実受け止めてるのか不安になるでしょうね。
「あたしとしてはテンプレから外れ過ぎてて拍子抜けしたわ。無礼だとか勇者に選ばれるのは名誉だとか感情論並べ立ててくる相手を論破するのを楽しみにしてたのに残念ね」
「ご期待に沿えなくて申し訳ありませんわ。でもそちらとしては期待通りの輩だと後々問題があるんじゃありませんの?」
全くもってその通りね。そんなやつら光がいなければ確実に見捨ててたわ。
「そういう意味ではかわいげない巫女でよかったわ。異世界人に接するマナーの模範解答を示してくれてどうもありがとう」
「ほめ言葉として受け取っておきますわ」
チェリルはそう言ってニヤリと笑った。
「何で沙夜ちゃんはいちいち神経を逆撫でするようなことを…。心臓に悪過ぎます」
光はあたしに咎める視線を向けてきた。
「あたしだってこんなことしたくなかったわ。でも光が私利私欲のために利用されないようにするために相手のことを探るにはしかたなかったのよ」
「いや、ウソでしょう。さっき暇つぶしだって言ってたじゃないですか」
チッ。ごまかせなかったか。光意外と記憶力はあるのよね。
「およよ。親友を疑うだなんて…。昔の簡単にだまされるおバカな光はどこに行ったのかしら」
「全部沙夜ちゃんのせいでしょう!」
光は顔を真っ赤にして頬を膨らませた。やっぱりからかいがいがあるわね。
「うっ…」
光で遊んでると小さなうめき声が聞こえてきた。
書き直しと追加部分で遅くなりました。少し設定改変し過ぎた気がします。