幕間 よくわかる旧代魔法
今回は金田視点が入ります。そこまでヘイトはたまらないです。
「ファイア!」
老魔法使いが魔法を唱えると火がぼく目がけて飛んできた。
「ふん。そんな火効かないよ!」
ぼくは吹き出す火に向かって突っ込んだ。そのまま無傷で老魔法使いに突進する。
「な、何じゃと?!ぐふっ」
ぼくは老魔法使いを剣の腹で軽く叩いた。一般人を殺す気はないからね。
「お見事です勇者様。元宮廷魔術指南役をここまで圧倒するとはさすがですね」
ネルキソスは笑顔を浮かべてぼくを誉めた。
「ふん。気持ちはまだ現役じゃ。あの小僧がインチキ理論をでっち上げなければクビになることもわかったわい」
老魔法使いは顔を赤くして吐き捨てた。
「インチキ理論?」
「現在の魔法理論ですね。私が入学した頃にはもう学校で教えてました」
…ネルキソスが入学した頃?あいつはネルキソスとそう変わらない年のように見える。入学した頃とか確実にインチキだね。
「教科書として使っていた彼の魔法理論の本がありますが読んでみますか?」
ネルキソスは笑みを崩さずに言った。
「あいつの教えなんて必要ない!ぼくは真の魔法であいつを倒してみせる!」
ぼくは高らかに宣言した。
「頼みますぞ勇者様。必ずや魔法の伝統と貴族派の高貴さを証明して下さい」
老魔法使いはにっこり微笑んでぼくに懇願した。
「ああ。任せてくれ!」
絶対にあいつの魔法理論のインチキを打ち破ってみせる。ぼくは大剣にそう誓った。
ーーー
「魔法って進歩が遅かったのね。昔に確立したものをなぞってるだけじゃない」
図書館で昔の魔法書を読んでいた沙夜ちゃんは呆れた顔をして本を閉じました。
「進化は必要がないと起きませんからね。もちろんミアーラさんのために新たな魔法理論を作り上げるイドルさんもすごいですが」
「その分複雑になったけどね。魔力量や属性だけで無双出来てた連中の地位は落ちたでしょうね。それだけじゃ勝てなくなってるもの」
沙夜ちゃんはイドルさんが書いた魔法理論の本を取り出しました。
「旧理論の本では単純に魔法陣が大きい方が強いとしか書いてないけど、イドルは魔法を書き終えて伝導し終わる前に潰せばいいって書いてるわね」
「つまり下級連発した方がいいってことですか?」
私が聞くと沙夜ちゃんは首を振りました。
「そう単純な話でもないみたいね。基本よっぽど魔法が届くころには魔力伝導が完了するから上級魔法に弾き飛ばされるそうよ」
「なるほど。詠唱とかしなくていいからそんなに時間はかからないんですね」
「詠唱といえば古い本では中級以降は詠唱が必要と書いてあったわね。多分魔力伝導まで時間がかかるのをごまかそうとしてるんだろうけど。後魔法はちゃんと何使わないか言わないと発動しないとも書いてあるわ」
沙夜ちゃんはふと思い出したように言いました。
「私たちイドルさんが書いた魔法陣に魔力込めただけで発動出来てましたよね?」
「そうね。イドルの本にも属性さえ合えば誰が書いても発動出来るとあるわ。基本自分が使う魔法しか書かないからイドルと組んでない限り無視していいらしいけどね」
沙夜ちゃんはイドルさんの本に目を走らせながら答えました。
「なら敵の魔法に魔力を込めたら相手攻撃出来るんでしょうか?」
「それは無理みたいね。魔法陣には裏と表があるわ。基本書いた人の前側が表だから自分に相手の拳銃を押し付けて引き金を引くようなものよ」
沙夜ちゃんは物騒なことを言いました。
「つまりイドルさんの魔法陣を利用する時はイドルさんがいる位置も考えないといけないわけですね」
「イドルなら魔力込めた時点で修正出来るでしょうけどね。さすがにそこまで面倒かけるのもあれだわ」
本来なら面倒以前に出来るわけないでしょうけどね。魔法を知れば知る程イドルさんのすごさがわかります。
「金田さんは本当にイドルさんの本を読まないんでしょうか?昔の理論を学ぶにしても対策で読んだ方がいいですよね?」
私が聞くと沙夜ちゃんはこめかみをおさえました。他の対勇者さんからもらった記憶を整理してるんでしょう。
「あいつに気に入らない相手から教えを乞う度量はないわ。それどころかフェアじゃないとかいう理由で相手の情報も聞こうとしないしね。それで聞いてないとか教えないのは卑怯だとか後で騒ぐから始末に終えないわ。そもそも相手にハンデつける時点でフェアも何もないこともわかってないわ。あいつにとって正々堂々なんて自分だけに都合がいいルールで負けた時に相手を責めるための言い訳なのよ」
ぼ、ボロクソですね。まあ確かに戦う相手のことを全く知ろうとしないのは怠慢だとは思いますが。
「何にしても負けても貴族派に何のリスクもない以上金田の意識を変えようとはしないでしょうね。このまま得体の知れない勇者から魔法かじっただけの重装兵になってほしいわ」
沙夜ちゃんはイドルさんの本を大事そうに空間魔法に収納しました。
「…少しは金田さんも応援してあげてもいいんじゃないでしょうか?」
私の呟きは自分でも驚く程空虚に響きました。
短い割に説明ばかりになってしまいました。次は話を進めたいです。