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構陣師  作者: ゲラート
第1章 サミュノエル動乱
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パーティー選定

「ふう。極楽極楽」

あたしは城の大浴場に浸かりながらひとりごちた。

「さすがに何発も射ると疲れるわね。あの弓結構力使うし」

あたしは腕を伸ばした。

「後胸当てしてるとどうも苦しいのよね。肩も凝るからあまりいいことないわ」

正直弓を引くのにも邪魔なのよね。色々ちっちゃくてかわいい光がうらやましくなってくる。


「…イドルはどれくらいの大きさが好きなのかしら?」

あたしは湯の上に浮いている胸を見た。

「チェリルは極小、エリザは並、ロベリアは巨…。胸で選んでるわけじゃなさそうね」

全く参考にならないわね。あいつ節操なさすぎだわ。主要派閥のトップ級ばかりたらし込んでるのがよけい始末に負えないわね。

「まあみんな美女だから断る理由もないんでしょうけど。いつも冷静だけど性欲もあるみたいだし」

あたしたちの胸を触ったと気付いた時に顔を赤くして手を離してたもの。あたしのことを女として見てくれてることにとても安心したわ。


「…あたしイドルのこと好き、なのよね」

そう呟いて胸に手を当てたら鼓動が早くなった。あいつに誉められると胸が温かくなる。あいつに頭を撫でられると安心する。他の男にされると想像したら嫌悪感しか感じないようなことなのにあいつにはして欲しいと思う。この意味不明な状態異常が多分恋なんだろう。

「でも何で好きになったのかしら。そりゃイドルのおかげで光とも一緒にいれるし、あいつのことは頼りにしてるわよ。光のことも安心してまかせられるわ」

それでも信頼から恋まで至った理由がよくわからない。

「優しいし、気配り出来るし、好意も気付いてくれるし。面倒って言いながら助けてくれるし。…好きな所しか出てこないわね」

やっぱりあいつはかなりのジゴロでスケコマシね。釣った魚にエサを与えることでフラグ管理も出来てる。惚れたらもう落ちていくしかないわね。


「元の世界と行き来する方法が出来たら結婚しようって約束してくれたからにはイドルもあたしのこと好きなのかしら。あいつが言った以上結婚が嫌でごまかそうとしたわけじゃないでしょうしね」

あいつは送還陣も見てるでしょうね。おそらく召喚の間の奥にあった部屋にあるのが送還陣と見て間違いないわ。イドルならそこから新たな魔法陣を作ることくらい出来るはずよ。 

「まあ光込みなんだけどね。まさか光と同じ人を好きになるなんて思いもしなかったわ。まあ争わなくていいから問題ないけど」

ついでに調べたけど確かにこの世界は一夫多妻制だったわ。王女のロベリアと勇者どっちが序列上なのかしらね。

「日本人だから倫理的に微妙な所だけどね。でも婚約者があんなにいるのに独占するなんて無理だし、2人とも入れる隙間があるならそこにどうにか滑り込みましょう」

そうすれば光もあたしも泣かずにすむ。みんなも幸せになる。…もしかしたらハーレムの規模が増えるかもしれないけどね。

「…まずハーレム婚のためにも魔王をどうにかしましょうか」

拳を握りしめるとなぜか意識が遠のいていった。


ーー


「つまりその魔法使いを勇者パーティーから排除すべきってこと?」

メリットメガネは目の前の男をまっすぐ見ながら聞いた。透けてるから通信魔法か魔具でも使ってるのかしら。

『はい。彼は勇者パーティー最有力候補の3人全員と婚約を結んでおります。さらにもう1人の勇者と対勇者も彼のことを憎からず思っているように見えます。精神的支柱の彼がいなければ魔王軍に対する脅威は半減するかと』

金髪の男がうさんくさい笑みを浮かべて答えた。

「あいつを差し置いてハーレムを作るやつがいるのか。でもどうすんだ?勇者パーティーなんて国が決めるものだろ。異議となえた所でどうにかなるものなのか?」

茶髪ヤンキーが割とまともな指摘をした。

『簡単ですよ。勇者特権を使って我らが勇者と勇者パーティー入りを賭けた決闘を申し込むのです。代わりに貴族派の誰かをねじ込めれば裏工作も可能かと』

男はかなりうさんくさい笑顔で言った。


「勇者特権があるなら何でそれで追い出さないんだよ」

茶髪ヤンキーは腑に落ちないという顔をした。

『強引な手段で勇者パーティー入りを拒否してももう1人の勇者の勇者特権で取り消されてしまうからお勧め出来ません。実力が足りないというのは選ばないいい口実になりますし、うまくいけば婚約者たちを幻滅させられます。決闘を挑ませるのが最善の選択肢でしょう』

結構説得力があるわね。あの男ヴィレッタの側近かしら。

「決闘の申し出が却下される可能性はない?」 

メリットメガネはニヤケ男をまっすぐ見ながら言った。

『彼は名の通った二つ名持ちです。そんな彼が決闘から逃げることは国の面目を潰すことになります。いずれ姫を娶る男としても民衆の期待に応えなければならないでしょう』

確かに王都歩いててもかなり有名だったわね。いくらイドルでも逃げるわけにはいかないわけか。

「そんな二つ名持ち相手にあいつが勝つ見込みあるのかよ?」

茶髪ヤンキーは金田の勝利を信じてるわけではないようね。 てっきりご都合主義でどうにかなると考えてると思ってたわ。

『すでに勝敗は見えています。仮に万が一負けても勇者の名が地に堕ちます。あなた方にとってはやらない理由がないと思われますが?』

男はうさんくさい笑みを浮かべて答えた。

「…わかった。作戦はそちらにまかせる」

メリットメガネは淡々とした口調で答えた。

『了解しました。さっそく細かい所を詰めますね』

男のホログラムが消えるのと同時に目の前が真っ暗になった。


ーー


「…風呂に卵とか持ってきてもよかったのかもね」

「なぜ卵なんですか?!」

声が聞こえたから見てみると小さな胸ごしに光の顔が見えた。頭の下にかなり引き締まっていながら弾力があるものがある。

「光に膝枕してもらえるなんてね。ここは天国かしら」

「縁起でもないこと言わないで下さい!お湯の中でぐったりしてる沙夜ちゃんを見て本当に心配したんですから…」

顔にポタポタと滴が落ちてきた。


「心配かけたわね。でもしかたないわよ。夢を見るタイミングなんてコントロール出来ないもの」

あたしは手を伸ばして光の頬を撫でた。

「また別の対勇者さんたちの夢を見たんですか…。対勇者さんは何をしてたんですか?」

光は心配そうに顔を覗き込んできた。

「貴族派っぽい胡散臭い笑顔の男と通信魔法で話してたわ。イドルに勇者パーティー入りを賭けて決闘させるという計画を立ててたわ」

あたしは光に聞いたことを説明した。

「決闘?!そんなの危険です!絶対にやめさせないと」

光は熱くなって大声を上げた。

「無理ね。パーティーに入れる前に実力を見たいというのは割と正当な要求だわ。それに金田がイドルの実力を知らなくてもおかしくないでしょう」

「…確かに見ないとわからないかもしれません。でもイドルさんに危険な目にあって欲しくないです」

光は心配そうな顔をした。

「心配いらないわ。あたしたちの未来の旦那を信じましょ。金田なんて軽く蹴散らしてくれるわよ」

「そ、そうでした。お嫁にもらってくれるんですよね」

光は赤くなった頬を押さえた。

「私もイドルさんを信じます。だって私と沙夜ちゃんが好きになった人ですから」

光は力強く言い切った。

「あ、金田さんの心配もした方がいいでしょうか?」

「…優先順位が出来たのは進歩かしらね」

あたしはそう呟いて光の髪を鋤いた。


ーー


「何で決闘しなくちゃいけないんだ。そこまでして勇者パーティーに入りたくないぞ」

あたしの夢の説明を聞いたイドルは憮然とした顔をした。

「でしょうね。でもそういう展開になっちゃったからしかたないじゃない。騙されやすい金田なら絶対に言われるがまま条件をつきつけてくるわ」

あたしが返すとイドルは額に手を当てて溜め息を吐いた。

「…対勇者に作戦を説明していたのはどんなやつだった?」

「金髪のニヤケ面の男だったわ。多分貴族派の参謀か軍師だと思うけど」

「金髪のニヤケ面…。ネルキソス・ジニエ・リュベリオンか」

イドルは意外な名前を口にした。

「ネルキソス・ジニエ・リュベリオンって確か貴族派のトカゲの尻尾切りの総司令官よね?もっと年いってるのかと思ってたわ」

「基本的に貴族派の年寄りは老害だ。まともに指揮がとれる人間なんて数える程しかいない」

イドルは吐き捨てるように言った。よっぽど貴族派が嫌いなのね。


「トカゲの尻尾切りですか…。貴族派の罪を被せて滅ぼすなんてひどいです!」

光は怒気を滲ませながら言った。

「資料見る限り本当に悪どいことしてたわよ。穴埋めに優秀な若手貴族が赴任したから領民にとっても悪い話ではなかったと思うわ」

「それでも同じ派閥の仲間を倒すなんて…」

光はまだ納得がいかないという顔をしている。本当にお人好しね。

「証拠がこれでもかという程上がってるから建前上責任を持って処断するしかない。内心派閥の害にしかならない連中は仲間でも何でもないから葬るのに躊躇はないんだろうさ。『味方殺し』の忌み名持ちのジェノス・アポトシス・パニシェなんて嬉々として腐敗した貴族を粛清してるぞ」

イドルは淡々とした口調で告げた。


「…貴族派って一体何なんですか」

光はポツリと呟いた。

「無能なクズと有能なクズが幅をきかせてる最悪の派閥だよ。まともなやつは有能なクズに巻かれた方がまだマシだろうな。…まあ無能なクズ筆頭が貴族派派閥長で有能なクズ筆頭が娘のヴィレッタとかいう時点で救いようがないのはわかるだろう」

イドルは遠い目をしていった。

「ヴィレッタさんっていう程悪い人ではないと思うんですが」

「見かけ上はな。少なくともいいやつではない。選民思想に凝り固まっていて、打算的で、能力や権力を誇示したがる血も涙もない典型的な悪役令嬢だ。あの冷血女に良心なんて期待するだけ無駄だよ」

イドルは無表情で言い切った。

「よく知ってるのね」

「チェリルとよくやりあってるからな。大体はわかっている」

イドルはあたしの目をまっすぐ見ながら言い

「へー。そう」

あたしもイドルの目を見つめ返した。

「むー。二人だけ通じ合っててずるいです」

光はやきもちをやいて頬を膨らませた。 

「こうすればいいのか?」

イドルは光のあごに指を当てて光の目をじっと見た。

「は、はわわわ?!」

「…あんた本当に女たらしね」

もう呆れを通り越して笑えてくる。一番笑えるのはそれでいちいちうれしくなってしまうあたしの心だけどね。

「はうぅ。そんなに見つめられると私…」

とりあえず顔を真っ赤にしてる光をどうにかした方がよさそうね。


ーーー


「これより勇者パーティーを発表する。我らの代表となる者たちだから国を上げて全力で支援するように!」

王様は高らかに宣言しました。

「まず1人目は…『飛槍姫』ロベリア・グングニール・ティメア・サミュノエル第二王女!」

ロベリアさんの名前が呼ばれると周りから大歓声が上がりました。

「やっぱり槍の名手のロベリア姫様は外せないよな!」

「遠くの敵も槍投げれば瞬殺だぜ!」

「最初にロベリア姫様…。これは」

やっぱり実力認められてるんですね。手合わせした時もすごかったです。


「2人目は…『桜花』チェリル・フロラル・ブロッサレム巫女姫!」

チェリルちゃんの名前が神殿の人たちから一際大きな歓声が上がりました。

「変幻自在の木属性は強いですよね」

「巫女姫様がいれば食料の確保に困ることはまずないだろう」

「やっぱりこの流れか」

木属性便利ですもんね。よく訓練中に果物やジュースを差し入れてくれるからおいしさも折り紙つきです。


「3人目は…『紅の武装姫』エリザ・ウェポニア騎士団長!」

騎士さんたちから大きな歓声が上がりました。

「やはり剣の腕は捨て難いよな」

「武器が多いから様々な状況に対応出来るのが最高」

「ふむ。やはりそういうことか」

換装ありでやったら反らして体勢崩すことも出来ませんからね。目だけでは全てを捌くことは出来ないなんてすごすぎです。


「最後に4人目…『構陣師』イドル・マギスニカ魔法陣課課長!」

イドルさんの名前が読み上げられると魔法使いの集団から大歓声が上がりました。

「やっぱりマギスニカハーレムじゃねえか!」

「でも実際魔族相手なら最強だろ」

「パーティー戦では便利過ぎるよなあいつ」

どうしても美人揃いのハーレムだと嫉妬くらい受けますよね。それでも実力認められてるのはすごいと思います。


「以上で勇者パーティー選定を終わる」

「ちょっと待った!」

話を遮ったのは金田さんでした。かなり派手な鎧で身を包んでます。貴族派からの贈り物でしょうか?

「何事だ?勇者ヒデオよ」

王様は訝しげに金田さんを見ました。

「他の3人はともかくなぜその魔法使いが選ばれてるんだ!そんなにステータスが低いのに!」

ステータスってゲームでよくあるあれですよね?鑑定とか使えるんでしょうか。

「イドル・マギスニカは間違いなく我が国が出せる最高の魔法使いだ。魔王討伐にその者以上の適任はおらんぞ」

「なら実力を見るために決闘で決めよう。勇者特権を使うから拒否は出来ないぞ!」

金田さんの言葉に思わず反応しかけた私にイドルさんは目配せして首を振りました。

「まだ魔法もろくに習ってないのにか?なめられたものだ」

イドルさんは金田さんを挑発しました。

 

「なめてるのはそっちだ!お前なんてこの鎧があれば」 

「お待ち下さい。我らが勇者よ」

金田さんの後ろから金髪の笑顔を張り付けた男の人が出てきました。もしかしてこの人が?

「ええ。夢の中で見た男で間違いないわ」

沙夜ちゃんは耳元でささやいて来ました。

「『構陣師』相手に魔法の知識なしで挑むのは無謀です。1ヶ月鍛える期間を頂きたいです。それと決闘にあたりハンデをもらいたいです」

「ほう。それはいかなるハンデであるかリュベリオン伯爵」

王様は面白そうにネルキソスさんを見ました。

「『構陣師』殿が使えるのは火属性だけにしてはいかがでしょう。手札を制限されると辛いですよね?」

ネルキソスさんは笑みを浮かべながら言いました。

「いいのか?負けた時の言い訳がなくなるだけだぞ」

イドルさんは意味深な視線でネルキソスさんを見ました。

「ふざけるな!どっちにしてもぼくが負けることなんてない!」

金田さんは大剣に手を当てながら宣言しました。


「言質はとったぞ。1ヶ月後に勇者ヒデオと『構陣師』イドルの決闘を執り行う。イドルは火属性以外使用禁止。イドル、汝に条件はあるか?」

王様はイドルさんを見ながら言いました。

「ならば負けたら勇者特権剥奪でいいでしょうか。平気で濫用する勇者が持っていては周りに被害が及びますから」

イドルさんは皮肉げな笑みを浮かべて言いました。

「ふん。いいだろう。どうせ勝つのはぼくだからな!」

金田さんは大きな声で怒鳴りました。

「では双方1ヶ月後の決闘まで準備を整えておくように。解散!」

王様の宣言で勇者パーティー選定はお開きになりました。

少し夢の中で明かし過ぎたかもしれません。都合がいい能力は扱いが難しいですね。

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