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構陣師  作者: ゲラート
第1章 サミュノエル動乱
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王都の闇

「はっ」 

私は城壁の上を走って城門の前の堀を飛び越えました。

「ふっ」

木の枝を蹴り、そのまま民家の屋根に着地。前回りして衝撃を殺します。

「とりあえず初のフリーランニングで堀池に落ちなくてよかったです」

別に勇者がいやだから城から脱出して逃げようとしてるわけではないです。ちゃんと王様から許可もとってます。

「それにしても訓練のためとはいえ城から自由に出れるとは思ってなかったですね」

私は屋根から屋根に飛び移りました。


「…ちゃんと居場所がわかるようにはなってますけどね」

私は胸元の首飾りを握りしめました。イドルさんが持たせてくれた物です。

「私が逃げたらいけないという事務的な判断でしょうか?それとも私のことを心配してくれてるんでしょうか?」 

イドルさんのことが頭に浮かんできました。初めて私と一緒にいてくれると言ってくれた人。今まで危険なことはやめろと止めてくれる人はいました。でも私の力になってくれる人はいませんでした。

「まあ勇者に戦うのやめろなんて言うわけないでしょうけど」

イドルさんは立場や役目をわきまえてる人ですから。それを盾にめんどくさがって逃げる所はありますが、とても優しくて頼もしい人です。

「沙夜ちゃんはイドルさんのことをどう思ってるんでしょう?…自分の気持ちもわからないのにわかるわけないですね」

少なくとも心を許してるのは確かですね。沙夜ちゃんのお眼鏡にかなう男の人は今までいませんでした。私に悪い虫がつかないように警戒してたのもあるかもしれませんが。


「考えてもしかたないですね。今はフリーランニングの続きをしなくては」

私は気を取り直して周りを見ました。

「…ここはどこでしょう?」

気がつくと私はいかにもスラム街といった感じの所にいました。


ーーー


「サヤ。ちょっといいか?」

弓の訓練所になぜかイドルがやってきた。

「おっ。兄貴じゃねーか」 

「ようこそお兄様。お姉様を見にきたんですか?」

アマゾネスのタニアとエルフのシアがイドルに話し掛けた。

「少し用があってな。来てくれるか?」

イドルは少し焦っている。何かあったのかしら。

「わかったわ。ちょっと待っててね」

あたしは射た矢を拾いに行った。

 

「それで何があったの?」

あたしは声を潜めた。

「ヒカリがスラム街で迷子になった。大体の位置は首飾りでつかめるが見つけるのには君の力があった方が確実だからついてきてくれ」

イドルはそう言って手を差し出してきた。光の近くに転移するつもりね。

「方向オンチなあの子なら有り得る話ね。スラム街は見てみたいからついていくわ」

あたしはイドルの手を取った。

「デートか。姐さんもやるねえ」

「お兄様。お姉様をよろしくお願いします」

タニアとシアのからかう声と一緒にあたしとイドルはスラム街に転移した。


ーーー


「見た所他の国の人や他種族が多いですね。難民があふれて雇用がないんでしょうか?」

何だかじっとしてられなくてスラム街を歩いてみることにしました。

「売ってる物のラインナップも何だかあやしいですね…。カード使える期待はしない方がよさそうです」

いや、チカゲさんなら有り得るんでしょうか?…さすがに闇市に手を出してもいいことはないかもしれません。

「それにしても異世界チート凄すぎます。何だかスリに体が反応してるみたいですし」 

さすがに何度も勝手に体が動いてすれ違いざまに舌打ちされたら状況はつかめます。

「私も沙夜ちゃんも恵まれてたんですね。日本でもこういう面はあるんでしょうか?」

豊かな国に潜む闇。それを目の当たりにしたらとても他人事とは思えませんね。


「ようお嬢ちゃん。ここはあんたみたいな子が来る所じゃねえぞ。迷子にでもなったかい?」

頬に三本の傷を持った大きな男の人が話しかけてきました。隣には子分みたいな人が3人います。

「恥ずかしながらその通りです。よければ道案内していただけませんか?」

私の言葉に男の人たちは顔を見合わせてにやつきました。


「ならもっといい所に案内してやるよ。突然オラァ!」

大きな男の人がいきなり殴りかかってきました。わたしは勢いを利用して地面に叩きつけました。

「ぐはっ!」

『お、お頭ー!』

子分さんたちは慌てて大きな男の人に駆け寄りました。

「くっ。よくもお頭を!ファイヤーボール!」

子分さんたちが一斉にファイヤーボールを放ちました。


「遅い上に弱い。何より魔法陣に無駄しかない。所詮は野良犬の魔法ね」

私が紅雪を抜こうとした時に風が吹いてファイヤーボールをそれぞれに跳ね返しました。

「ぬわー!」

子分さんたちは断末魔をあげてたおれました。火傷はありますが大丈夫そうですね。

「だいじょう…何だ勇者様か。恩を売って馬車馬のように働かせようと思ったのにあてが外れたわ」

ヴィレッタさんは扇を手に叩きつけながら言いました。

「いえ、助かりました。まだ魔法は覚えたてでよくわかりませんから」

「感謝されても何の足しにもならないわ。勇者様が貴族派に協力してくれるというなら話は別だけどね」

ヴィレッタさんは口を扇で隠しながら言いました。


「そんなことおれたちが許すと思うか?」

少し息を弾ませたイドルさんがヴィレッタさんをにらみつけました。側には沙夜ちゃんもいます。

「そんなこと言うなら自分のペットくらいちゃんとしつけときなさい」

ヴィレッタさんは首飾りに視線を向けて言いました。

「ぺ、ペットじゃないです!」

「ただからかってるだけよ。とにかくヒカリを助けてくれてありがとね。エメラルドゴキブリバチさん」

何ですかその蜂?わざわざ出してきた以上あまりいい蜂ではないことはわかりますが。

「貴様、よくもお嬢様に」

護衛らしき騎士さんが剣に手をかけました。

「ハウス。相手は勇者と対勇者よ。大体騎士団長が攻撃を当てられなかった相手をあんたがどうにかできるわけないじゃない」

ヴィレッタさんは冷静に騎士さんを制止しました。

「ぐっ。承知いたしました」

騎士さんは歯ぎしりしながら沙夜ちゃんをにらみつけました。すごい忠誠心ですね。


「また奴隷あさりか。よくそこまで余裕があるな」

イドルさんはヴィレッタさんが連れている人たちの首輪を見ながら言いました。

「奴隷って…。人を売買するなんてひどいです!」

私は思わず声を荒らげました。

「異世界はずいぶん平和ボケしてるのね。この世界では犯罪者を制御したり、貧乏人が金のために身売りするのは当然のことですよ。他に金を得る手段がないならしかたないことでしょう?」  

ヴィレッタさんは諭すように言った。

「で、でも」

「ヒカリ。奴隷の取引は厳密に法で定められている。正規のやり方で購入している以上第三者に出来ることは何もない。買い戻す金も今手持ちにはないからどうしようもないんだ」

イドルさんは私の肩に手を置いて首を横に振りました。

「…そういうのあると異世界転移って感じがするわ」

沙夜ちゃんはそう言って溜め息を吐きました。私ほどではないにしても憤りはあるみたいですね。


「どうしても奴隷をなくしたいならまずは魔族との戦争を何とかすることね。さあ、行くわよ。私の家畜としての心構えをしっかり叩きこんであげるわ」

ヴィレッタさんの口調には不思議な程何の感情も込められてませんでした。まるで当然のことを行ってるようでした。

「そいつらを衛兵につき出したいならまかせるわ。ではさようなら勇者様。もうここでは会わないことを祈っておりますわ」

ヴィレッタさんは扇で口を隠しながら去っていきました。


「なかなか根深い闇ですね。いい経験が出来ました」

「迷子になったことを正当化するな。おれが首飾り渡してなければ脱走扱いされてたんだぞ」

イドルさんは私の頭を軽くチョップしました。

「はうっ。すみません」

「…何にせよ君が無事でよかった。あまり心配かけるな」

イドルさんはそう言って私の頭をポンポンと軽く叩きました。

「…はい」

私はうつむきながら言いました。そうしないと真っ赤な顔を見られてしまいそうだからです。


「帰る前にちょっとスラム街歩いてみましょうよ。イドルがいれば変な物売りつけられることもないでしょ」

沙夜ちゃんは軽い口調で言いました。 

「いいぞ。ルーシーに仕事押し付けてきた手前帰りにくいからな」

イドルさんは表情を変えずに言いました。

「それは帰ってあげた方がいいんじゃないですか?」

そう言いつつ闇市に付き合ってしまった私は悪い子ですね。  

展開が少し雑になってしまったかもしれません。そこまで重い話にしたくはないからこんな感じにしたんですがバランス難しいですね。

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