血戦終結
「ジュル、ジュルルル」
激痛が走った首筋を見ると、ヴァンパイアが一心不乱に血を吸っていた。
「この!離れなさい!」
ジェシカはちぎれた鎖でヴァンパイアに殴りかかった。
「ウガァッ!」
ヴァンパイアは左手で鎖を掴んで止めた。
「ぐっ。負けませんよ…」
ジェシカは必死に鎖を引っ張っているが、ヴァンパイアは放さない。片腕でジェシカと力比べ出来るとはさすが真祖だな。
「そんなに心配するな。すぐ終わる」
おれはジェシカに笑いかけつつ、ヴァンパイアの首筋に手を当てた。
「エンゲージ」
おれが魔法陣を書いて魔力を込めると、ヴァンパイアは目を見開いて震え出した。
「ウゥ…。頭が…割れ…」
ヴァンパイアはおれの首筋から牙を放し、意識を失った。
「契約完了。無力化したからおれの勝ちだ」
おれは契約印を光らせて勝利宣言した後、目眩がしてふらついた。
「チッ。そのままくたばればよかったのに」
ジェシカは舌打ちしながらおれとヴァンパイアを右腕一本で受け止めた。
「その割には必死でヴァンパイアを止めていたようだが?」
「目撃者がいるからです。ヴァンパイアを倒して合流した後に余計なことを言われては困りますからね」
ジェシカは憎まれ口を叩きつつマントを床にしいておれたちを横たえ、おれの首筋に回復魔法と浄化魔法を掛けた。
「まあそういうことにしておくか」
とはいえせいぜい嫌いでも死なれたら寝覚めが悪いという程度だろうけどな。今までの対応が照れ隠しと思うほどおれは楽観的じゃない。一応仲間だから義理を果たしているだけだろう。
「それにしてもどうやってヴァンパイアを支配する程の契約を上書き出来たのですか?いくらあなたでも抵抗されるでしょう」
ジェシカは不思議そうに聞いた。
「ヴァンパイアの血の契約を応用した。血に契約術式を書き込み内部から侵食すればヴァンパイアの抵抗力でも突破するのは可能だ」
おれは増血の丸薬を飲みながら答えた。
「確かに理論上可能かもしれませんが…。さすがに『構陣師』様とはいっても噛まれてすぐに術式を書いていては血がなくなって死ぬと思うのですが」
ジェシカは腑に落ちないという顔をした。
「あらかじめ仕込んでたんだよ。おれの血を吸うことは読めてたからな」
「…え?」
おれの言葉にジェシカはわけがわからないという顔をした。
「あのヴァンパイアは飢えていた。だから苦戦するとどこかで血を飲む必要が出てくる。血が足りないと力を存分に発揮出来ないからな。そうなるとカネダは血がまずいから論外。ジェシカは聖なる鎧に十字架を装備している上、血に聖水が染み込んでいるから避けたい。必然的に狙いはおれになるわけだ」
「私の血の評価に関しては言いたいことはありますが…。消去法で狙われるのは確かですね」
ジェシカは不満げながらも納得したようだ。
「まあ万全だったら血の補充の必要がないし、仮に腹が空いてても血のストックがあったらどうしようもなかった。そもそもヴァンパイアに知性が残ってたら血の補充が必要な程ダメージか与えられなかったかもしれない。正直真祖を大した損害なしで無力化出来たのは幸運だったよ」
「そうですね。本当によかったです。相手が『構陣師』様が手ごめにしたいと思えるような美少女で」
ジェシカは刺がある口調で言った。
「あくまで元は理性がありそうな魔物が操られていたから緊急措置をとっただけだ。性別は関係ない」
「どうだか。契約している魔物も雌が多いですし」
ジェシカは冷たい目を向けてきた。
「おれは見た目で性別が分かる程魔物に詳しくない。雌が多くても偶然だ」
「あら。見た目で判別がつく魔物は全て女性型じゃないですか。狙っていると考える根拠としては十分では?」
ジェシカはなおも追及してくる。言いがかりにも程がある。
「んん…。なんじゃ。騒々しい」
そんな不毛なやり取りをしていると、隣から眠そうな声が聞こえてきた。
戦闘後の話が長くなってしまいました。次はヴァンパイアについての話です。