暴走する吸血姫
「サンダーボルト」
おれは手始めに雷を放った。おれが持っている属性では一番速いから捉えられると思ったからだ。
「ガウ!」
だがおれの雷撃は地面から出た赤い柱に防がれた。
「カネダの血を操ったのか。ヴァンパイアは血を操るのは知っていたが、あの程度の量でもこれだけ使えるとは思わなかった」
「さすが真祖ですね。ただのヴァンパイアとは段違いです」
ジェシカはそう言いつつ鉄球を投げた。
「フン!」
ヴァンパイアは軽くはたいて弾き返した。
「聖属性の効果は薄いようだな。これはニンニクや十字架の効果を期待しない方がよさそうだ」
「日光も克服してますからね。吸血鬼の弱点は忘れた方がよろしいかと」
そうなるときついな。あのスピードじゃまともに当たりそうにない。少しでも弱体化出来ればそれに越したことはないんだが。
「ガァア!」
今度はヴァンパイアは血で鞭を作って叩いてきた。
「ブロックシールド」
おれは下のブロックを伸ばしてガードした。
「ブロックタワー」
更にヴァンパイアの下のブロックを伸ばして尖らせた。
「フン!」
ヴァンパイアはその場から後ろに飛び退き、蹴りで間のブロックを飛ばしてきた。
「エクスプロージョン」
おれは爆風でブロックの進路をずらした。
「スキルと物理攻撃しか使って来ませんね。操られているから魔法が使えなくなってるんでしょうか?」
ジェシカはそう言いながら鎖を握りしめた。
「自我が完全にないからかもしれないな。魔法陣を書くだけの知性も残ってないというわけだ。そうなると操ってるやつがどうにか遠隔操作で魔法陣を書くしかないんだが…。そんなことが出来るのはおれくらいだな」
「自慢ですか?…何にせよ逆に手強いですね。魔法を使ってくれれば『構陣師』様がどうにかしてくれるのでしょうけど」
ジェシカは溜息を吐いた。
「後洗脳されてる所からして反魔王派なのが問題だ。しかも真祖だからヴァンパイアの重要人物の可能性が高い。魔王討伐後の外交を考えると倒すのは色々都合が悪いかもしれん」
おれの言葉にジェシカは鋭い目で見てきた。
「魔物を滅ぼして何が悪いのですか。関係が悪化しようが魔族と切り離されている我がセインティアには何の不利益もありません」
「確かにセインティアに魔族との交流はないだろう。だが不利益を被ったサミュノエルがセインティアとのゲートを閉じる可能性はあるぞ。君を聖女の護衛につけた責任をとらされる形でな」
おれがそう返すとジェシカは一瞬固まってカネダを見た。
「この場には勇者がいます。命令されたからやったということにすれば責任を押し付けるのは簡単でしょう」
ジェシカの意見は一見正論のように聞こえるな。
「カネダの勇者特権は剥奪されているから命令を強制されたという言い訳は通らないぞ。そのことは全世界に周知されているから君も知っているはずだ」
「…チッ」
ジェシカは聞こえよがしに舌打ちした。
「…どこまで行っても平行線ですね。ならこうしましょう。私が先にヴァンパイアを倒すか、あなたが先にヴァンパイアを無力化するか勝負しましょう。私がヴァンパイアを殺したら全責任を勇者が取り、セインティアには何の責任も及ばないように取りはからって下さい」
ジェシカは開き直って暴論を飛ばしてきた。
「その代わりあなたが先にヴァンパイアを無効に出来たらヴァンパイアを見逃し、その上一度だけ何でも言うことを聞きましょう」
ジェシカはそう言っておれを指差した。
「面白いことを言うな。君が一度だけ従うのと、国が不利益を被ることが釣り合うとでも?」
おれがそう言うとジェシカは鼻で笑った。
「はっ。あなたにそこまで国への忠誠心はないでしょう。手間がかかるのと命令権ならむしろ私の方がリスクがあるかと」
凄まじい屁理屈だな。それでもあながち間違っていないのが腹が立つ。
「別に逃げてもいいですよ?あなたがどうしようもない腰抜けだと大切な人たちに伝えるだけですから」
ジェシカは不敵に笑った。
「…いいだろう。言い合いを続けて足を引っ張り合うよりはマシだ。その安い挑発に乗ってやる」
おれはジェシカに答えた。
「ふふ。女好きのあなたなら私の体を目当てに勝負に乗って来ると思っていました。いやらしい…」
ジェシカはそう言って自分の体を抱き締めた。
「ふっ。なら女好きらしくお姫様を呪いから解き放ってやろう」
おれは頭を回して作戦を考えることにした。
あまり話が動きませんでした。出来れば長引かないようにしたいです。