ヴァンパイア
ピラミッドの中を進んでいると上に穴が空いたのを察知した。
「何か来る。用心しろ」
おれは2人に注意を促した。すると程なくして上からボールが降ってきた。
「魔物球か。おそらくここで一番弱い勇者を潰そうという魂胆だろうな」
「だ、誰が一番弱い勇者だ!」
カネダが返す間にボールが開いて光が出てきた。
「アァ…ウゥ…」
光が収まった時そこには赤いドレスを着た銀髪の少女がいた。その目は血走っていて、よだれを垂らしている。明らかに正気を失っているな。
「…ヴァンパイア。しかも真祖だ。見るからに洗脳されているのを見ると相当強力な術式だな」
「真祖とは…。聖女様なしだと厳しいかもしれません」
ジェシカはモーニングスターの鎖を握りしめた。
「ふん。何が来ると思ったら丁度いいくらいの相手じゃないか。あの程度の子どもの魔物ぼくでもやれるよ」
カネダは調子に乗って大剣を構えた。もはやプライドもないようだ。
「よせ。お前では」
「君たちはすっこんでなよ。ぼくは安全に名をあげたいんだよ」
カネダは大剣を持ち上げた。
「ぼくはそこそこの魔物を狩って脱出するよ!オラァ!」
カネダは大剣を持ってヴァンパイアに向けて駆けた。
「フン!」
ヴァンパイアは向かってくるカネダの顔を引っ掻いた。
「ギャー!くっ。よ、よくもぼくの顔を!」
ヴァンパイアは逆上しているカネダの腹を蹴った。
「グゲェ!」
カネダは吹っ飛んで壁に激突した。
「さすがヴァンパイアだな。凄まじいパワーだ」
おれはカネダを回復しながら分析した。
「鎧もひしゃげてますね。まともに戦うと私でも厳しいかもしれません」
ジェシカはそう言いながら鉄球を回している。かなりやる気だな。
「ウゥウ…」
ヴァンパイアはおれたちを見ながら自分の血についたカネダの血を舐めた。
「グッ。ぺっ、ぺっ」
しかしすぐ吐き出してピラミッドの壁にこすりつけた。
「飢えているはずなのに吐き出したな。よっぽどまずいのか」
「性根の悪さが血に滲み出てるんでしょうね。かわいそうに」
ジェシカは哀れみを込めた目でヴァンパイアを見た。
「ぼ、ぼくの血はまずくない!アンデッドだからぼくの輝きを受け付けないだけさ」
カネダは胸を張って言い切った。どこからその自信が来るんだろう。
「茶番はこれくらいにしておきましょう。今は目の前の敵を倒します」
ジェシカは手始めに鉄球を勢いよくヴァンパイアに投げた。
「フッ!」
しかしヴァンパイアは余裕で避けた。そしてそのまま引っ掻いてきた。
「くっ」
すかさずジェシカは爪を鎖で弾いた。
「ウゥウウ!」
ヴァンパイアは手をおさえて距離をとった。手はちょっと赤くなっている。
「あまりダメージないですね。私の聖属性では焼け石に水でしょうか」
ジェシカは鎖を掴みながら悔しそうに言った。
「さすが真祖だな。足手まといがいるとかなり厳しいぞ」
「だ、誰が足手まといだ!」
カネダはおれに怒鳴った。
「落ち着け。冷静にならないと死ぬぞ」
「うるさい!誰のせいでイラついてると思ってるんだ!」
わめくカネダを無視して、おれはヴァンパイアに意識を集中させた。
さすがに金田をサイコロステーキにするのはやめておきました。
次からは本格的な戦闘に入ります。