開いた扉
「よくよく考えたらこの問題って後出しし放題なんじゃね?」
マニャちゃんは声を潜めて言いました。
「…確かにそうですね。どちらを選んでも違うと言えば不正解ということに出来るでしょう」
「卑怯な…。最初から我らを出す気はないのでありますね!」
リリエンヌさんとエリザさんは難しい顔をしています。一体どうすればいいんでしょう?
それからしばらく頭をひねっていると、ふとあることを思い出しました。
「そういえば沙夜ちゃんに貸してもらったマンガに同じ展開があったような…」
私の言葉にみんな顔を上げました。
「その時はどうなったんでありますか?!」
エリザさんが私に詰め寄ってきました。
「…すみません。あまりよく思い出せません。カードの効果を誤解したせいでライフが半減になったのはなんとなく覚えてるんですが…」
「あー。間違った効果でジュエラルが進行することあるよな」
マニャちゃんはしきりに頷きました。
「ジュエラルはいいですが…。肝心の攻略法については何か思い出せましたか?」
リリエンヌさんはおずおずと話に割り込んできました。
「えーと…。確かコインを2枚使っていたような気がします」
私は朧気な記憶をどうにか捻りだしました。
「コイン2枚でありますか。…こういうのはどうでしょう?」
エリザさんは私たちに作戦を説明しました。
「…本気か?そんなの出来るわけないだろ」
マニャちゃんは信じられないという目で見てきました。
「うちの神殿騎士でも出来る人いませんよ。…教義で刃物は使えませんけど」
リリエンヌさんも信じられないみたいです。
「フッフッフッ。どうした。早く扉を選ぶがいい」
「外れたら一生出られんがな。ハーハッハッハ!」
迷宮兄弟は高笑いしています。絶対突破されない自信があるんでしょうね。
「慌てなくても決めるでありますよ」
そう言ってエリザさんは2枚のコインを迷宮兄弟に見せました。コインにはそれぞれ迷と宮と書いてあります。
「今からこの2枚のコインをトスするであります。そのコインのどちらかをヒカリ殿が刀で受け止めます。そのコインに書かれている文字の扉が我らが選んだ扉であります!」
エリザさんはそう言ってコインを握りました。
「神頼みというわけか。面白い。やってみればいい」
「貴様らに神が微笑むことはないだろうがな!」
迷宮兄弟はふんぞり返っていいました。
「それでは行くであります。それ!」
エリザさんはそう言って2枚コインをトスしました。
「すー。はー」
私は深呼吸して紅雪を抜き放ちました。そして回りながら落ちてくるコインに意識を集中しました。
「ふっ!」
私はその場で一回転し、1枚のコインを受け止めました。
「地面に落ちたコインは…」
迷宮兄弟は落ちたコインを拾いました。
「宮と書かれたコインか」
迷宮兄弟はそう言って顔をうつむけました。
「「…ククク。ハーハッハッハ!バカめ!正解は宮の扉だ!」」
迷宮兄弟はそう言って高笑いを上げました。
「そう言うと思ったぜ。どうせ正解はあって正解なんてない。こっちが答えたのと逆の方を答えるのは読んでたよ」
マニャちゃんは冷静に言いました。
「ハッ。気付いた所でどうした!」
「今更選んだ物は取り消せんぞ!」
迷宮兄弟は勝ち誇った顔をしました。
「…残念でしたね。私が選んだのは」
私はそう言って紅雪の上のコインを見せました。
「宮の扉です」
私は宮と書かれたコインを見せました。
「「ば、バカな!確かにこのコインには宮と!」」
迷宮兄弟はコインを見てハッとした顔をしました。
「裏面の縁がない…。そっちのコインはどうだ?!」
迷宮兄弟は私の手からコインを引ったくった。
「こちらも縁がない。…迷の字のコインはどこだ?!」
迷宮兄弟は激しくうろたえています。先程までの余裕はどこに消えたんでしょう。
「簡単なことですよ」
私は紅雪の上の2枚の薄い金属を剥がしました。
「「迷の文字が書いてある…。まさか切ったのか?!」」
迷宮兄弟は驚きの声を上げました。
「はい。まず最初に抜いた時に1枚のコインの面を切り、どっちの面が切れたのか空中で確認します。後はもう1枚のコインの同じ文字の面を切り、紅雪の上で受け止めればいいだけです」
私は迷宮兄弟に説明しました。
「…よく考えたらどちらかの文字を書いたコインと、両方の文字が書いたコインの2枚用意すればよかった話もしますけどね。エリザ様なら見せた後に同じ文字が書いてあるコインに入れ替えも出来たでしょうし。そんな神業に頼らなくてもよかった気がします」
リリエンヌさんは冷静に分析しました。
「細かい話は気にしないで下さい…。さて。選んだ物は取り消せない、でありましたかな?」
エリザさんはそう言ってニヤリと笑いました。
「そうだな。あんたらは正解は宮の扉だと宣言した。言った以上やり直しは出来ない」
マニャちゃんの言葉と共に何かが動く音がしました。
「この勝負、私たちの勝ちです」
私が指差すと宮の扉が大きな音を上げて開きました。
ひねった結果意味がわからないことになってしまいました。反省はしています。