表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
構陣師  作者: ゲラート
第1章 サミュノエル動乱
12/185

光VSエリザ

「待ってましたぞヒカリ殿。さあ早く始めるであります」

木の剣を構えたエリザさんが気合いを込めて言いました。

「落ち着いて下さい、団長。まずはルールを説明しなければなりません」

長身の騎士さんがエリザさんをたしなめました。

「そうでありますね。ルールは単純であります。魔法と技以外のスキルは使用禁止であります」

「えっ?それだと換装出来ないエリザさんが一方的に不利じゃないんですか?」

思わず疑問が口に出てしまいました。

「あくまで模擬戦だからいいのであります。実戦ではルールがどうとか言ってたら死にますからな」

一理ありますね。卑怯な真似をするのがいいとは思いませんが打ち破れない限り負け惜しみでしかないですから。

「それにヒカリ殿が使えるのは無属性の魔弾だけでありましょう?条件は大体同じであります」

普段使ってる技を使えないのは勝手が違うと思うんですが…。まあエリザさんがいいなら胸を借りさせてもらいましょう。


「なあ。お前どっちに賭ける?」

沙夜ちゃんみたいな地獄耳ではありませんが周りの騎士さんたちの会話が聞こえてきました。

「そりゃ団長だろ。あの人の強さは化け物だからな」

化け物ですか…。エリザさんやっぱり強いんですね。

「でも模擬戦だぜ?勇者様なら勝ち拾えるんじゃないか?」

「確かに模擬戦なら勝ち目はあるな。勇者様も身のこなしや気からしてただ者ではないだろう」

気…ですか。概念としては理解出来ますが感知出来る物なんでしょうか?


「模擬戦模擬戦うるさいであります!…あ、ヒカリ殿。戦い終わったらベニユキに血をあげるであります。武器の強化は大事でありますからね」

エリザさんの言葉に腰に差した紅雪から白い糸が出てきました。

「ダメですよ紅雪。模擬戦が終わってからです」

私の言葉に紅雪は糸を引っ込めました。

「そこまで生きてる武器はなかなかないでありますな。意思を持つインテリジェンスウェポンはたまにありますがそこまで動かないであります」

やっぱり紅雪って珍しいんですね。私も糸が出た時はびっくりしました。

「もう武器っていうか魔物みたいですね。勇者様の言うことは聞くので安心ですが」

細身の騎士さんはそう言って肩をすくめました。

「細かいことはいいからそろそろ始めましょうか~。あ、怪我は私が治すので大丈夫ですよ~」

白衣を着た女の人が胸を張って言いました。この世界にもナースさんっているんですね。

「紅雪、少し大人しくしていて下さい」

私は腰に差した紅雪を床に置き、騎士さんから木刀を受け取り青眼に構えました。  


「それでは、始め!」 

「まずは先手必勝であります」

審判の騎士さんが合図をした瞬間エリザさんが切りかかって来ました。

「とっ」

軽くバックステップしたらかなり距離が出ていました。

「ほう。サヤ殿の言うチートというやつでありますな」

「そうみたいですね」

少し慣らす必要がありそうですね。私は軽く地面を蹴ってエリザさんとの距離を詰めました。

「はっ」 

私はエリザさんの左脇腹を横凪ぎしました。

「おっと」

受け止められてしまいましたか。居合いが使えないとタイミングが外せないですね。


「ならこれはどうでしょう」

私は剣で受け止められた木剣の刃の部分を蹴り、その勢いのまま左手を地面につき、斜め上に跳んで鳩尾に飛び蹴りしました。

「くっ」

今度は左手で止められたので蹴り上げてとんぼ返りしながら木刀を右斜め上に振り上げました。

「つっ。動きが読めませぬ。かなり変則的な流派でありますな」

エリザさんは右手でガードしながら言いました。急所への直撃は避けてるのはすごいですね。

「いえ。今の動きは白峰流は関係ないです。色々習ってきたものを併用してるだけですから」

「引き出しが多いのでありますね。武器の申し子ではマーキングした自分の武器の真価しか引き出せないので羨ましいであります」

 マーキング…。そういえば金田さんを拘束していた鎖や銃に剣と雷の紋章があったような気がします。木刀にないからエリザさんの素の剣術はすごいということですね。


「くっ。攻撃が当たりませぬ。そのスピードと目は厄介ですな」

エリザさんは息一つ乱さずに剣を構えました。

「エリザさん剣を振った瞬間に狙いを外すなんてすごいです。間合いを完全に把握してるんですか?」

「大体そんな所であります。それでもかわしきれないのは初めてでありますが」

まだまだ余裕そうですね。私も全速力は出してないからまだいけます。一応当てられてはいる分こちらが有利ですが、些細なきっかけでどうなるかわかりませんね。


「お喋りはここまでにしましょう。はっ!」

エリザさんは木の剣を横に一閃しました。

「おっと」

私は剣を左手で白刃取りして、剣をこちらに引っ張りました。

「なんの!」

エリザさんは剣から手を離しました。

「…あっ」

エリザさんは何かしようとして硬直しました。

「白峰鏡月流、月衝」

私は無防備なエリザさんの鳩尾に突きを入れました。

「ぐはっ」

攻撃を受けたエリザさんは仰向けに倒れこみ、頭を打って気絶しました。


「そこまで!勝者、ヒカリ!」

審判さんが宣言するとナースさんが小走りで来ました。

「オールヒール~」

ナースさんが治癒魔法を使うとエリザさんは意識を取り戻しました。

「不覚!換装禁止なのを忘れて剣を手放してしまったであります」 

エリザさんはそう言って額を押さえました。 

「実力が拮抗するとよくありますよね~。…あら、勇者様泣いてますけど大丈夫ですか~?左手ひねったりしてません~?」

ナースさんは心配そうに左手をつつきました。

「心配ないです。戦うといつも涙が出ますから」

私は右手の指で涙を拭うと、指先で雫を弾きました。

「本当に戦うのが苦手でありますね。勇者の役目から逃げようとは思わないのですか?」

エリザさんは神妙な顔で言いました。

「どうせ逃げても見捨てた罪悪感で泣くだけです。どちらにしても勝手に傷付くなら私が泣くことで全てが済むならそれが一番いいんですよ」

私が答えるとエリザさんに抱き寄せられました。

「なら自分はあなたが泣かなくて済む世界を実現するための刃になります。必ず魔王を倒しましょう!」

エリザさんは力強く宣言しました。


「ありがとうございます。でも出来れば倒すかどうかは魔王さんに会った時に見極めたいですけどね。もしかしたら話し合いの余地があるかもしれません」

「それはどうだろうな。今まで帰ってきた使者はいない。少しでも話し合う気があればそんなことは有り得ないはずだ」

いきなり訓練所に入ってきたロベリアさんがそう言い放ちました。

「そうなんですか…。魔族はもっと話が通じると思ってました」

「今の魔王になるまでは通じていたよ。会ったことはないが好戦的で政治能力が低いのは確かだ。まともな経済感覚があるならサミュノエルを敵に回すわけがない」

辛辣ですね。ロベリアさんは今の魔王さんが嫌いなようです。

「魔王が代替わりしたのは最近の話なんですね。譲位でもしたんですか?」

「いや、先代魔王の闇のコアを奪ったそうだ。闇のコアを持つ魔族は他人の闇のコアを吸収することで強くなる。更に魔王の闇のコアを吸収すると魔王の座につけるらしい」

力と権力を求める魔王候補にとっては吸収一択なわけですか。世知辛い話ですね。


「それで何しに来たのでありますか?まさか偶然してた魔王の話に割り込むためでもありますまい」

エリザさんは首を回しながら立ち上がりました。

「なに。私もヒカリと手合わせ願いたいと思ってな」

ロベリアさんは木の槍を私に突き付けて宣言しました。

「いいですよ。槍とやるのもいい経験です」

私は木刀を青眼に構えました。

「ロベリア姫様。これは模擬戦でありますよ」

エリザさんは神妙な顔で言いました。

「何を今更。そんなことわかっている」

ロベリアさんは槍を前に突き出してニヤリと笑いました。


ーー


「はっ!」

私はロベリアさんが投げてきた木槍の刃の近くの柄をつかみました。

「ほう。魔法なしとはいえ受け止めるとはな。…戻れ」

ロベリアさんは手を前に出して宣言しましたが何も起こりませんでした。

「…あっ」

ロベリアさんが呆けている間に私は距離を詰めました。そのまま視界から消えるように身を屈めます。

「白峰鏡月流、朧月」

そのまま飛び上がってロベリアさんの左のこめかみを打ちつけました。

「ぐうっ」

ロベリアさんは意識を失い倒れこみました。

「勝者、勇者ヒカリ!」

審判さんが宣言するとナースさんが小走りで来ました。


「くっ。木槍がクロノグングニルではないことを失念するとはな…。エリザのことを言えないな」

ロベリアさんはそう言って苦笑いを浮かべました。

「勇者パーティー候補って案外抜けてるんですね~。ちょっと安心します~」

ナースさんは微笑みながら言いました。

「これは模擬戦だ。実戦ではこうはいかんさ」

「そうであります。実戦ではよけいな縛りはありませんからね」

エリザさんは力強く宣言しました。

「はい。期待しています」


それから二つ名持ちの人たち相手に無傷で連勝しました。終わった後に皆さんの血を紅雪に飲ませてあげました。

「…紅雪の刀身に刻まれた文字もすごいことになってますね…」

最初は少なかったですが今では細かい模様のように刻み込まれてます。これからもまた増えるんでしょうね。

「空いてる時にイドルさんに見てもらわないといけませんね」

私が文字をなぞると紅雪はうれしそうに糸をくねらせました。


ーーー


「ここね」  

私は王に渡された地図を持って弓兵隊の訓練所に来た。

「へえ。あんたが対勇者か。ずいぶん長い弓を使うんだね」

褐色の肌をした女が話し掛けてきた。

「和弓に近い物を選んだからね。アマゾネスの弓とは違うのは当然でしょ」

あたしの言葉に女は目を見開いた。

「な、なんでアタイがアマゾネスなんてわかるんだい?」

「だって見た所部隊全員同じ種族の女だし、装備も民族衣装っぽいじゃない。弓使いでどう見ても人族なら消去法でアマゾネスになるわ」

あくまでファンタジーの話だけどね。まあこの世界自体ファンタジーだから別に当てはめても問題ないはずよね。


「大した洞察力だね。あんたの世界にアマゾネスはいるのかい?」

「ファンタジーだけどね。とりあえず右乳房はあるようで安心したわ」

あたしの言葉にアマゾネスは顔をしかめた。

「弓引くのに邪魔だからかい?すごいこと考えるね」

「同感よ。創作とはいえ古代の人の考えはよくわからないわ。所でアマゾネスがなぜこの国の弓兵隊なんてやってるの」 

あたしはアマゾネスに質問した。

「住んでいた森の危機を救ってもらった礼に里から希望者を戦力として提供することになった。それにアタイたちは志願者したってわけさ。おっと。自己紹介が遅れたね。アタイはタニアだ。よろしくな対勇者様」

「あたしは沙夜よ。好きに呼んでいいわ」

あたしはタニアと握手した。

 

「それじゃ使わせてもらうわ」

あたしは矢筒から矢を取り出し、一足開きの足踏みから銅作りして正面に構えた。

「それがサヤの国の弓の構え方かい?」

「ええ。ヤマト式とは少し違うかもしれないわね」

次に正面に打起こして、引き分ける。…射法八節の説明めんどくさいわね。とりあえず見栄えよくする場面でも、戦闘で射型が崩れる場面じゃないからちゃんと描かないといけないだろうと思いながら会の姿勢を維持する。

「鎧袖一触。問題ないわ」

そう呟いて矢を放つと中離れになった。

「ま、真ん中に穴が?!」

あたしはタニアの叫びを聞きながらしばらく残心した。


残心が終わってからもう一度空いた穴に矢を通した。

「どうやら小離れする強さを意識した方がいいようね。…やっぱり的壊したのまずかった?ちょっと慢心しすぎたかしら」

あたしはしばらく固まってたタニアに問い掛けた。

「すごい弓だな!姐さんと呼ばせてくれ!」

タニアを筆頭にみんなが姐さんと呼んできた。 

「別にどうでもいいけど」

あたしは気にせず射た矢を拾いに行った。


結局これと同じ茶番が次に来たエルフの弓兵隊との間に繰り広げられることになった。

「これも百合園ギフトのせいなのかしら?」

元の世界でも同じだからもう慣れたわ。あたしは気にせずに穴に矢を射ち込んだ。

力の底は見せずに決着をつけてみました。本気を出すのはまだまだ先になりそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ