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構陣師  作者: ゲラート
第1章 サミュノエル動乱
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城下町

「わあ。すごい活気ですね」

城から出た私は思わず感嘆の声を上げました。

「宴でも貿易で栄えてるとは聞いたけど…。ここまですごいとは思ってなかったわ」

沙夜ちゃんもかなりびっくりしてるみたいですね。表情はあまり変わりませんが。

「大規模転移陣があるからな。特に今は魔王軍の侵攻を逃れて避難してくる人もいるから必然的に人も多くなるわけだ」

イドルさんは遠い目をして言いました。

 

「大変じゃないですか!早くなんとかしないと」

「気持ちはわかるけどまだ無理ね。あたしたちはまだチートを授かっただけの一般人よ。魔法の初歩の初歩しかやってない状態で何が出来るっていうの?」

沙夜ちゃんは冷静に言いました。

「サヤの言う通りだ。まだ戦う準備が出来ていない勇者を動かすわけにはいかない。それに勇者パーティーは国の最高戦力が選ばれる。貴族派という内憂を抱えているのにホイホイ動かせる物じゃない」

イドルさんはなだめるように言いました。

「すみません。また私考えなしなことを…」

「いや、あの場で変な振りをしたおれも悪い。不安感を煽るようなことをしてすまなかった」

イドルさんはそう言って頭を下げました。

「謝り合ってても仕方ないわよ。せっかくのデートなんだから楽しみましょう?」

そう言う沙夜ちゃんの頬は少し赤くなってます。自分で言って照れてしまったんでしょうか?

「美少女2人とデートか。役得だな」

イドルさんはそう言って微笑みました。

「び、美少女なんてそんな…」

何だか誉められると顔が熱くなりますね。

「これだからスケコマシは…」

サヤちゃんはそう言って溜め息を吐きました。


「そうだ。忘れる所だった」

イドルさんは2つの袋と2枚のカードを魔法陣から取り出しました。

「この袋の中にはこの世界の金が入っている。異世界に来たばかりだから資金援助が必要だろう」 

何だか助けてもらって悪い気がします。でも確かにこの世界のお金持ってないのは事実ですし…。

「あ、ありがとうございます」

「ありがとう。…へー。銅貨と銀貨と金貨があるのね。ファンタジーっぽいわ」

確かにファンタジーっぽいですね。紙幣がある異世界もあるんでしょうけど何だか雰囲気が出ないような気がします。

「単位は100銅貨が1銀貨、100銀貨が1金貨だ。簡単だろう」

「そうね。クヌートとかシックルとかガリオンとかよりずっとわかりやすいわ。正直うろ覚えだもの」

あー。確かにそこまでわかりやすく区切ってなかったですね。イギリスの人ならわかるんでしょうか?


「これはアークウインド商会と提携店で使えるカードだ。これを出せば割引され、使う度にポイントが貯まる。ポイントに応じて色々なサービスが受けられるようだ」

イドルさんはカードを私と沙夜ちゃんに差し出して言いました。

「何だかすごく日本的な文化ですね」

「次元漂流物から着想を得たのか、それとも元からあるのか。判断がつかないわね」

沙夜ちゃんはカードを見つめながら考え込みました。

「チカゲによると五代前にはすでにあったようだが起源はよくわかってないらしい。君たちをこの世界に呼び寄せた魂の因果とは違って次元漂流物は完全にランダムだからな」

イドルさんがよくわからないことを言い出しました。


「えっ。私たちが召喚されたのって偶然じゃないんですか?」

「少なくともヒカリは必然だ。ヒカリは勇者召喚陣が作動した瞬間にこの世界との魂の因果が強かったから選ばれた。サヤはこの世界と魂の因果が強いヒカリと魂の因果が強かったから選ばれたんだ。対勇者召喚陣は召喚された勇者の魂の因果を辿って対勇者を召喚する魔法陣だからな」

私たちが召喚されたのはそんな理由があったんですか。魂の因果…。不思議な因果があるんですね。

「それはまた最悪なタイミングで勇者召喚陣を作動させたものね。だって召喚されたのが全く勇者っぽくない光とハリボテ勇者の金田よ?おまけにあたしというイレギュラーなひねくれ者まで加わるとか悪い意味で奇跡じゃない」

沙夜ちゃんは皮肉げな笑みを浮かべて言いました。

「確かに勇者のイメージとは程遠いのは認めるよ。勇者とはもっと自分の正義を疑わず、魔王を悪と断じて倒すことに使命感に燃えてる都合のいい存在だと思っていた。まさか泣き虫で繊細なくせに変な方向に振り切れているお人好しが来ると思ってもいなかった。正直勇者に向いているとは思ってない」

うっ。自覚はありますが面と向かって言われるとなかなか来ますね。

「でもだからこそおれはヒカリの力になりたいと思っている。こんな泣き虫を放っておけるわけがないからな。おれが君の力になりたいと思うくらいだから君の仲間を奮い立たせる力はとても強い。君のパーティーを結束させて意思を統一するリーダーとしての素質は誇っていいものだろう」

…誉められてるのか貶されてるのかよくわかりません。こういう時どんな反応をしていいんでしょうか?

「何だかごまかそうとしてませんか?」

「気のせいだろう。とりあえずまずは服を見ようか。その制服は戦闘には向かないし、元の世界に帰ることを考えると大事にした方がいい」

イドルさんは話をはぐらかしつつ私たちが着いて行けるようにゆっくり歩き出しました。


「いらっしゃいませ!あ、イドルさん。また新しい女の子引っ掛けたんですか?」

店員のお姉さんがイドルさんに軽口を叩きました。

「勇者と対勇者だ。今日は戦闘用の防具と私服を探そうと思って連れてきたんだ」

「ほう。チカゲ会長が言った通り白と黒なんですね。カードはもうもらいました?」

お姉さんは営業スマイルを浮かべて言いました。

「はい。これですね」

「もらったのはついさっきだけどね」

「確かに。2人はどのような服をお求めですか?」 

お姉さんは完璧な笑顔を浮かべて聞いてきました。

「私は着物がいいです。袴の方が動きやすいでしょうね」

「あたしは闇に紛れる感じの服がいいわ。後弓掛ってあるかしら?」

ああ。確かに弓掛は必要ですね。弓道で弓掛がないと爪を痛めてしまいます。

「もちろん。ヤマト式弓でも使いますからね。ではお二人とも、担当の者が来ますので少しお待ち下さい。所でイドルさん。今日は何体ステルスしてるんですか?」

店員さんは意味深な目でイドルさんを見ました。

「そんないちいち展開してるわけないだろう。大体おれはそんな下衆な目的に使わんぞ」

イドルさんは冷めた目でお姉さんを見ました。

「いつでも絶世の美女たちのあられもない姿を見れるんだから必要ないわけですか。余裕ですねー」

「言ってろ」

イドルさんはそっけなく返しました。


「さて、どう着せ替えますかね…。とりあえず脱いで下さい勇者様」

担当として呼ばれた店員さんが舌なめずりして手をわきわきさせました。

「えっ、あの」

「グヘヘ。よいではないかよいではないか…ぐっ」

店員さんの言葉はそこで途切れました。

「やめい。男の前でひんむくやつがあるか」

店員さんの後ろからチョップを食らわせた店員さんが呆れた口調で言いました。

「痛いですよ先輩。…はあ。真面目にやればいいんでしょう。んー、袴は短い方がいいかもしれませんね。とりあえずまずこれなんかどうでしょう?」

そこから私の着せ替えタイムが始まりました。


「白地に赤い椿のキモノか。白い髪に合っているしベニユキを振って戦う時も映えるだろう。短いハカマで動きが阻害されない上に美脚も強調されてるし、足元のグソクは機動性を奪うどころか反動を利用しての跳躍や蹴りの補助にもなる。左手に巻き付けてある守りの数珠もいいアクセントになっているな。色々な意味で似合っているぞ、ヒカリ」

いきなりイドルさんに誉め殺しされちゃいました。なぜかわかりませんが顔が赤くなってしまいます。

「誉め慣れてるわね。あたしはどう?」

そう言って沙夜ちゃんはイドルさんの前でくるりと回りました。

「黒髪と黒い目に合った黒づくめだな。所々ほどこされた禍々しい髑髏がワンポイントになっている。マントには魔法視無効の術式が施されていて景色に溶け込めるし、ユガケもサヤのパワーの補助になっている。似合ってるぞ、サヤ」

「やっぱりいつもみんなに言ってる口振りね。まあうれしいけど」

沙夜ちゃんはそう言って微笑みました。


「色々買っちゃいましたね。あの人たち商売上手です…」

あれから私服を何着かを買いました。この世界の服を見るとつくづくファンタジーって感じがします。

「空間魔法があってよかったよ。あの量を持つのは魔法使いにはきついからな」

イドルさんは手ぶらで答えました。

「空間魔法って個別登録する物だったんですね。何だか不思議です」

「でもそういう仕様でよかったわ。自分の下着を人の持ち物と一緒にされるのはいやだもの」

そういえば下着もあったんでした…。沙夜ちゃんには胸囲の格差を見せつけられました。本当に何を食べたらあんなに体も胸も大きいんでしょう?

「あ、もしかしてごまかして自分の空間魔法に入れたの?…変態」

「人聞きの悪いことを言うな。ちゃんと君たちの魔力で登録した空間だからそんなことは出来ないさ」

イドルさんはそう言って魔法陣に何かを書き足しました。

「ほら、これで中身を確認出来る。空間魔法を習った時にも確認すればわかるだろう」

試しに魔力を込めてみるとさっき私が入れた物が確かに入っていました。

「でもそのパスワードみたいなのどうやったらわかるんですか?」

「魔法文字で自分の名前だからわかりやすいだろう。どうせ自分の魔力でしか発動しないんだからそこまで複雑にする必要はなかったからそのままにしておいたんだ」

そういうものなんですね…。それなら自分で空間魔法使えるように気合い入れて魔法文字を覚えないといけません。


「服の次は何を見るの?」

「本はどうだ?魔法の教科書くらい用意した方がいいだろう。おれにも印税が入るしな」

イドルさんは真顔で言いました。

「魔法に関する本出してるんですね。すごいです」

「そりゃそうでしょ。魔法の新理論なんて作ったんだから。自分の本を買わせるのはどうかと思うけどね」

沙夜ちゃんはジト目でイドルさんを見ました。

「まあ冗談はさておき文字を翻訳魔法を通して読むと単語の意味が頭の中に流れ込んでくるから少しでも軽い本で慣れた方がいい。勇者召喚陣の修正の時勇者の日記を読んだが凄まじかった。おれやサヤみたいに頭脳労働向きのギフト持ちならいいが、ヒカリは下手したら知恵熱を出すぞ」

…確かにイドルさんの鑑定では私起動力と回避力が高い戦闘マシンみたいな感じになってましたね。明鏡止水まであるんだから否定出来ないのが悲しいです。

「なぜ他の言語なんてないのにそんなことわかるの?」

「チェリルの受け売りだよ。勇者召喚を司る無限神教の巫女姫は代々勇者に関する異世界の言葉で書かれた記録を読むそうだ。チェリルも今よりも小さい時に次元漂流物の絵本で慣れていったらしい」

イドルさんは今よりも小さい時にという部分に力を入れて言いました。

「まあ普通に本も理解出来そうなだけいいのかもしれませんね。普通は読み方から習わないといけないでしょうし」

「そうね。異世界転移物でも文字は1から習うパターンはあるから楽な部類かしら」

沙夜ちゃんはそう言ってニヤリと笑いました。


「これはこれはイドルさん。新しい本を書かれたんですか?」

メガネをかけた男の人がイドルさんにあいさつしました。

「今の所特に予定はない。勇者と対勇者の異世界言語入門にいい本を探しに来ただけだ」

イドルさんの言葉さんの言葉で私たちの存在に気付いたのか目を丸くしました。

「これはよくいらしてくれました。なるほど。翻訳魔法の反動は凄まじい物ですからね。私も昔次元漂流物を不用意に読んで鼻血を出したことがあります」

そ、そんなにすごいんですか?翻訳魔法にはリスクもあるんですね。

「どうせエロ本か官能小説でも読んだんでしょう」

「おー。当たりです。店長ムッツリなんですよ。よくわかりましたね」

沙夜ちゃんの失礼な推測に女の店員さんが答えました。

「だ、誰がムッツリですか!給料減らしますよ!」

「そんなことしたらチカゲ会長に訴えますよ」

「ぐっ」

店長さんは店員さんとそんなやり取りをしています。仲いいんですね。


「コホン。失礼。見苦しい姿をお見せしました。入門編としてはやはり『勇者物語』は外せませんね。魔王を倒すヒントにもなりますし」

店長さんは少し顔を赤くしていいました。

「後は魔物図鑑ですね。絵で魔物の特徴が書いてありますから持っておいて損はないかと。あ、カード使えるのでイドルさんの著書の『サルでもわかる魔法入門』もあったらいいと思いますよ」

店員さんはノリノリでイドルさんの本を薦めてきました。

「異世界でも使うのねそのフレーズ」

「かなりハードルが低くなるからだろうな。魔物ならともかく普通のサルにわかるなら人間にもわかるはずだと考えるのが人の常だ」

確かに何となく簡単な気はしますね。少しおさるさんに失礼な気はしますけど。


「またいっぱい買ってしまいました。…あのイドルさん、そんなに入れて空間魔法破裂したりしないんですか?」

「面白いことを聞くんだな。空間魔法は入れる度に成長してるから問題ない。そうでなければエリザの武装空間なんかとっくの昔に破裂している」

イドルさんは真顔で言い切りました。

「銃があれだけあったんだから他の武器も多いんでしょうね。特に剣はすごいことになってそうだわ」

「メインは剣だしな。剣以外の立ち回りは本人が言ってる通り一流の壁に阻まれてるようだ。まあ元々エリザはそこまで器用じゃないし、武器の申し子のギフト分だけで戦闘力としては事足りている。対処力も抜群だからそれで十分だろう」

イドルさんも他の人の魔法陣まで書けるからとれる手段が多そうですね。頼りきりではいけないですが戦術の幅は広そうです。


「…もうこんな時間か。そろそろ昼食にしよう。何か希望はあるか?」

時計塔を見たイドルさんはそんな提案をしてきました。

「ヤマトの料理がどんな物か見てみたいです。和食が恋しくなってきましたので」

ヤマトのことがふと思い浮かんだ私の口からそんな言葉が出てきました。ヤマトと交流があるならありそうですからね。

「いいわね。米は日本人のDNAに刻まれてるわ」

沙夜ちゃんも同意してくれました。日本人ならよくわかる感覚ですよね。

「それならいい店を知ってる。当然カードも使えるぞ」

「本当にすごいのね。アークウインド商会」

沙夜ちゃんはしみじみとした口調で言いました。


「いらっしゃいませー!あ、イドルさん。また新しい女の子ですか?」

着物を着た女店員さんが開口一番そんなことを言いました。

「あんたやっぱりいつも連れて来てるのね」

「ヤマト料理を食べたいなら大体ここだ。勇者と対勇者の口に合うかは知らんがな」

イドルさんの言葉に店内の空気が一変しました。

「ほう。あなた方が勇者様と対勇者様ですか。ヤマトの威信をかけて負けられませんね」

厨房から料理人さんが出てきました。どうやら本気のようですね。

「そうピリピリされても困るのですが…。異世界で文化も違うかもしれませんし」

「別にあたしたち美食家でもないしね。よっぽどマズくなければ文句はないわ」

沙夜ちゃんは辛辣な口調で言いました。これでも気を使ってるんでしょう。…多分。

「まあひとまずメニュー見て考えよう。少しは勉強にもなるだろうしな」

イドルさんはなだめるように言いました。

「そうですね。とりあえず席につきましょうか」

「そうね。お腹空いたわ」

私たちは案内されて席につきました。


メニューを見た瞬間本当に頭の中に単語の知識が入ってきました。何だかすごい頭痛がしてきました。

「キュア」

イドルさんが私の頭に手を当てて魔法陣を出すと何だか痛みが引いて来ました。

「それはバカにかける魔法?」

沙夜ちゃんは真顔でひどいことを言って来ました。

「状態異常回復魔法だ。翻訳魔法のリバウンドにも有効だとチェリルに聞いた。…それにしてもメニューでそんなことになるんだな」

イドルさんは念のため沙夜ちゃんにも状態異常回復魔法をかけながら言いました。

「固有名詞が多いからじゃないかしら。単語の知識がどんどん流れ込んできたわ」

「…だから文字数が少ない絵本が最適なわけか。盲点だったよ」

イドルさんはそう言って額を押さえました。


「えっと、唐揚げ定食、肉野菜炒め定食、牛丼、親子丼…。日本の大衆食堂って感じですね」

本当に日本みたいですね。見たことない言語で書かれてることを除けばですけど。

「ハンバーグ定食やフライドポテトがある辺りそうね。異世界チェーン店とか言われても驚かないわ」 

沙夜ちゃんも私と同じ感想を持ったみたいです。見た所定食屋か何かのチェーン店ですよね。

「おれは天ざるそばにするよ。2人は決まったのか?」

「あたしはトンカツ定食にするわ。光は?」

「私は海鮮丼にします」

私たちは近くの店員さんを呼んで注文することにしました。


「注文した物が来るまでこれでも読むといい」

イドルさんが沙夜ちゃんの前に魔法陣を出しました。沙夜ちゃんが魔力を込めると

「…勇者物語ね。光、ちょっと読んでみましょうか」

「はい」

私は沙夜ちゃんの方に椅子を移動しました。


~むかしむかしあるところに、わるいまおうがいました~


「異世界でもこの書き出しで始まるんですね」

「単純に決まり文句だからそれっぽい書き出しに意訳しただけでしょ。英語ならOnce upon a timeになると思うわ」

なるほど。そういう見方も出来るかもしれませんね。


~わるいまおうはみずからにやどるやみのコアのちからにおぼれ、せかいをしはいしようとしました~


「「闇のコア?」」

「魔王に発現する魔王の証のような物だ。魔王の力の源であり、命の源でもある」

イドルさんは私たちに淡々と説明しました。

「力に溺れるってことは闇のコア自体が何か邪悪な物というわけではないの?」

沙夜ちゃんはイドルさんに尋ねました。

「正直専門家じゃないからよくわからん。だが今回のように勇者を呼ぶような事態は滅多にない。仮に邪悪な意思のような物があったとしても正しい心があれば屈することはないということなんだろう」

要は力を持つにふさわしい器がないといけないわけですか。なんとなくわかります。


~わるいまおうのせんせんふこくにたいしてかっこくはぐんをはけんしました。

しかしなんどにくたいをはかいしてもやみのコアをはかいできずまおうはよみがえりつづけました~


「ええっ?!闇のコアがある限り魔王って復活しちゃうんですか?」

「ああ。しかもこの世界の人間の攻撃では闇のコアに一切傷をつけることは出来ないんだ」

この世界では、ですか。何となく話が見えてきました。

「厄介な化け物ってわけね。大体わかったけど続きに行くわ」

沙夜ちゃんはページをめくりました。


~こまりはてたまおうとうばつぐんのもとにかみからおつげがありました。

そのおつげによりいせかいのにんげんがもつひかりぞくせいのまほうでやみのコアをこわせることがわかったのです~


「神のお告げねえ。あたしたちの世界の常識からしたら眉唾物だわ」

そうですよね。そういう信仰があるのは知っていますがいまいち信じてないです。

「干渉がなくて平和な世界なんだな。この世界ではいやでも神の力を目の当たりにするから信じざるを得ない状況なんだよ」

イドルさんはうんざりした口調で言いました。何かいやな経験があったのかもしれません。


~そのおつげにしたがいしょうかんまほうがさかんなサミュノエルでいちばんのまほうつかいがゆうしゃしょうかんじんをかき、むげんしんきょうのみこひめがゆうしゃしょうかんじんにいせかいとこのせかいのかみのしんりょくをこめました~


「巫女姫って神の力も使えるんですね」

「ごく一部だがな。神が司る力を使ったり、人に与えられている加護を強めたり弱めたりすることも出来るぞ。まあ使うようなことはないに越したことはないが」

気持ちはなんとなくわかります。神様に頼るようなんてよっぽどの非常事態でしょうしね。


~するとあたりがひかりにつつまれて、いせかいからゆうしゃがしょうかんされました~


「勇者召喚陣って辺りが光に包まれるものなんですか?」

「ああ。確かに勇者召喚陣に神力を込めたら光に包まれた。君たちが降り立つ直前に光はおさまったがな」

そうだったんですか。知らなかったです。


~なかまたちとともにゆうしゃはまおうじょうにたどりつきました。

ゆうしゃはまおうとたたかい、やみのコアをひかりぞくせいまほうをまとったせいけんできりつけました。

するとまおうのやみのコアはくだけちりました~


「なるほど。光属性だけが闇のコアに効くのね」

「そういうことになる。聖女の聖属性すら通用しないしな」

イドルさんは沙夜ちゃんの言葉に頷きました。

「聖女…。リリエンヌさんですね。なんで通じないんですか?」

「わからん。一応光の神の力を元にした魔法で光属性その物じゃないという仮説はあるが全く確証がない」

謎が多いですね。何で異世界人にしかない属性魔法でしか倒せないんでしょう。


~まおうをたおしたゆうしゃはもとのせかいにかえり、せかいはへいわになりました。

 めでたしめでたし。

 おしまい~


「ふと思ったんだけど勇者の子孫を残さなくてよかったの?光属性の人がこの世界にいればわざわざ他の世界から呼ぶ必要ないじゃない」

沙夜ちゃんは不思議そうな顔をして言いました。

「チェリルから見せてもらった記録によると勇者はほとんどが君たちと同年代らしい。元の世界に帰りたい気持ちが強いだろうし、行き来する手段がない以上こちらに愛する家族を残させるのも不憫という理由もあったんだろうな。まあ勇者の血筋が後々の火種になるとか、召喚する必要がなくなればサミュノエルの権威が失墜するとかいう打算的な理由もあるだろうな。そもそも魔法属性は確実に受け継がれるものじゃない。勇者の存在理由の光属性もないのに権力だけ持った子孫に従うのが嫌だという貴族もいたんだろうさ」

イドルさんは冷静な顔をしてぶっちゃけました。


「これからも誘拐の被害は続くわけね。それにしても対勇者全く出なかったわね」

沙夜ちゃんはそう言って本を閉じました。

「対応する魔法陣なしで共鳴石を使うわけがないからこの時代にも対勇者はいたはずだ。おそらく都合が悪いから物語から消されたんだろう。勇者の敵を生み出したのが勇者召喚陣を書いた魔法使いというのは不名誉だろうしな」

確かに…。サミュノエルとしてはどうしても表沙汰にしたくないことだったでしょうね。

「これまでの対勇者の人たちはどうなったんですか?」

「…知らない方がいい。サヤはかなり運がよかったとだけいっておく。カネダの方も洗脳されてないのはいいことだろう。元の世界に戻った時どうなるかは知らんが」

「金田がどうかは知らないけどヤンキーもメリットメガネも相当恨んでたわ。離れられるならむしろ好都合じゃないかしら」

沙夜ちゃんは同情するように言いました。 

「沙夜ちゃんは何でいつも助けてくれるんですか?普通巻き込まれたくないものですよね?」

「あたしからしたら光から目を離す方が心配だからよ。いちいち抱え込もうとするからこっちから行くしかないのが面倒だけどね」

 沙夜ちゃんは苦笑いしながら言いました。

「方向性が真逆だな。どちらにしても心労はたまりそうだ」

イドルさんの言葉を私は否定出来ませんでした。


「お待たせしました。海鮮丼、トンカツ定食、天ざるそばです」

話が終わるタイミングで頼んだ料理が来ました。

「「いただきます」」

「我が魔力となる全てに感謝を…」

イドルさんは片手を上げて言葉を唱えました。わたしはさっそくおはしで赤身に手を伸ばしました。

「わあ。おいしいですこの海鮮丼」

普通にお寿司屋さんで出てきても遜色ありません。素材がいいのはもありますが包丁技も冴え渡ってます。

「醤油もあってよかったです。日本人の血は醤油ですからね」

「少し大げさな気はするわね。…このトンカツ衣サクサクで中はジューシーでおいしいわ」

沙夜ちゃんもトンカツに舌鼓を打ってます。音からしておいしそうですね。

「生魚か…。ヤマト人が食べてるのは見るが正直抵抗があるな」

イドルさんはそばをすすりながら言いました。はしづかいうまいですね。

「食文化の違いね。自分の国で食べない物は抵抗があってもおかしくはないわ」

そうですね。私も正直虫は抵抗あります。エビやカニとほとんど同じなのに不思議ですよね。


「どうです?お気に召しましたか?」

料理人さんが固い表情で出てきました。

「おいしいです。慣れ親しんだ味が食べられるなんて思いもしませんでした」

「そうですか!それならよかったです」

料理人さんはニッコリ笑いました。よっぽど緊張してたんですね。

「ご飯もおいしいわね。日本のブランド米にもひけを取ってないわ」

「チェリニカ米ですね。その名の通り巫女姫様が生み出したお米です」

チェリルちゃんお米も生み出してるんですね。本当にすごいです。

「このお魚はサミュノエル産ですか?」

「いえ。ヤマトの物です。大規模転移陣を通して現地から直接仕入れてるんです」

どこからでも新鮮な物を仕入れられるんですか。大規模転移陣すごいですね。


「城下町すごかったわね。しばらく厄介になる所としては最高ね」

しばらく店を巡ってから城に戻った沙夜ちゃんはそう言って微笑みました。

「でも世界には傷付いている人もいます。早く幸せを取り戻さないといけませんね」

「なら今は力をつけることだ。安心しろ。おれが君たちの魔法を鍛えてやるよ」

イドルさんは力強く言いました。

「あたしは資料室いくけど光はどうする?」

「素振りしてます。やらないと落ち着きませんので」

かなり精神が乱れてますからね。素振りしないとやってられません。

「そう。程々にね」

 沙夜ちゃんは軽く手を振って資料室に向かいました。

設定ぶちこむと長くなりますね。飯テロは難しいです。

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