デブ専王子とオーク姫
「おおっ!噂に違わぬ巨体!肥え太ったブタを思わせる肉体に、厚い脂肪で潰れた容姿!手指まで肉を纏いしその見た目はオークの姫と呼ばれるに相応しい!!是非余の正妃となっていただきたいオーク姫!!」
流石に酷すぎるんではないだろうか。
この国は腐っている。
権力を振りかざす貴族に、傀儡の愚王。宰相は代々の王を徐々に腐らせていった家系。裏では国庫を掌握し、自身の派閥に流している。
民は重税に苦しめられ、既に何度かクーデターを起こし疲弊と絶望をしている。
切っ掛けは3代前の王だった。
「ミスリル銀を回収せよ。それらは全て元々この国の物である。」
この言葉が巻き起こしたミスリル戦争。
自国のみならず他国までもを範囲としたその命令は恐ろしい事にほとんど成功してしまった。
3代前の王……メリファーレン・オルトラクル12世には腹心の部下、大魔法使いロロイロ・ローロクルがいた。
大魔術師は誰も知らない魔術を使い5万もの軍勢をたった一人で退け、古の書物からドラゴンを呼び出したという英雄である。
そう、最も余計なことをしてくれた英雄である。
そうして国土を増やしに増やし……増長に増長を重ね……
身の丈に合わぬ領土を手に入れ、意に沿わぬ諸侯を処断し、そうして。
13世の時代にクーデターが頻発し、14世の時代には完全に鎮圧されてしまったのだ。
閑話休題
今目の前にいる、オルトラクル14世の長男、マリクフェード・オルトラクル王子。
肥え太った大臣達に教育された次期王。
彼は美的感覚を拗らせていた。
・・・・・・・・・・
さて、私について紹介しよう。
『噂に違わぬ巨体!肥え太ったブタを思わせる肉体に、厚い脂肪で潰れた容姿!手指まで肉を纏いしその見た目はオークの姫と呼ばれるに相応しい!!』
これは正しく私の姿である。
王子にだけこう見える訳でも悪い魔女にこういう姿にされたわけでもない。
まぎれもなく私である。
薄い金の髪に青い瞳の、まぎれもない辺境伯爵令嬢。
父譲りの骨格を持ち、顔の面積に対して髪の面積が少なく、目は瞼の肉でつぶれ、高いはずの鼻は頬肉でわからず、唇がぼってりしていて全体的に肉。
首は肉でうずもれ何処が首だかわからなく、少し開いたドレスから見えるはずの鎖骨はこれまた肉で覆い隠されている。
そして太っているために少しばかり大きめの胸はそれ以上に大きなおなかでその存在感を異様にさせ、腹に乗っている。
太ももは横に太く、立てば膝に盛られる。足の指先まで肉。
腕も手もそのような感じなのである。
……おわかりだろうか。
私は所謂醜女と呼ばれる令嬢なのだ。
キラキラしいオーラを撒き散らす目の前の王子様を一体どうしようかと汗をダラダラと流しながら考える。
そうなる事で醜い見た目が更に醜くなる事を感じていた。
すると王子はス、と純白のハンカチを取り出して私の手を取ってその男性らしい薄い唇を開いた。
「オーク姫。どうぞこちらを。」
「あ、ありがとうございますわ、マリクフェード様。」
肉に覆われて籠ってしまう声をなんとか絞り出して返答する。
どうしようが頭を巡って、私の思考がストップする。まさかこんな事が起こるだなんて正に埒外の事だった。望外ではない。
そしてそのまま王子の唇がハンカチを持った私の油まみれの手に押し当てられ、更に私の思考が氷結した。
「本日は急な事にオーク姫を惑わせてしまい申し訳ない。しかし余の心は偽りではないのだ。どうか考えてほしい。」
「は、はぃ……」
「そうだ姫、姫は花が好きだと聞いた。花を贈らせてもらってもよいだろうか?」
仄かに染まった顔で目に熱を灯して麗しい存在が歩く危険物のようになりながら、私に請うてくる。
私は……。
去りゆく王子の乗った馬車を眺めながら、私は一体どうしたらよいのだろうと自領の青い空を眺めた。
次はあの馬車に沢山の花を積んでやってくるのだろうか。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
以下所感。
美醜逆転ものは嫌いではないけれど慰め小説過ぎて好きになりきれない自分がいる為、自分の気に入る設定で書いてみました。
「豚でもハーレムを作れる」のではなく、
「豚だけど愛してくれる人がいる」の方面で。
異世界ものだと王子は美しいのに周りからは醜くみられるらしい。というのがヒロインになっただけですが。
オーク姫は異世界トリップ者かどうかは私にもわかりません。個人的には現地人の方が雰囲気的には合うかなとは思います。
どこかにありそうな内容ですね。なろうさんを漁っていたらそのうち見つけるかもしれません。
再度ですが、ここまでお読みくださり、ありがとうございました。