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異世界旅行者 ~神殺しがお仕事ですから~  作者: 深縹いぐ
第一章 『召喚勇者と幸福の女神』
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第一章3 『初めての狩り、獲物が大漁』


 ポロポロと、まばらな雪が降っている。


 視界を覆うほどの雪が降っていた雪山は、今は雲が薄くなり太陽の光も細く射さっている。




 そんな中俺とガルツのおっさんは、生い茂る草木を掻き分けながら、夕食の調達のため魔獣狩りをしていた。


 ……実際剣を振るうのはおっさんだけだが。

 俺はいきなり剣はあれだろうからって、まずは刃物──ナイフの使い方から教わることになった。


「おいヤヅル!スニークロリクがいたぞ!5匹の群れだ!」


 スニークロリクとは先程俺が不法侵入した際に、おっさんが手に持っていた野ウサギ、のような魔獣である。

 見た目は普通のウサギだが、額に短く角がついていて、跳躍力が高い。


 まぁおっさんほどの剣の使い手なら相手にもならない。

 さっきもスニークロリク2匹に遭遇したが、おっさんが剣で脳天を貫き瞬殺だった。


「はっ!」


 そして今回も、先程のシーンの繰り返しになってしまう。


 そして狩りが終わったら俺の出番になる。

 ナイフでスニークロリクを解体する作業だ。

 普段おっさんは家に帰ってからやるらしいが、今回は俺の場慣れのためと、初心者がやって血が部屋に飛び散らないように外でやっている。


 ちなみに俺は動物の血を見ても意外と大丈夫な体質らしい。吐きそうになることも無かった。


 ……少し可哀想な気もしたが、生きるためだと自分に言い聞かせた。

 直接手をかけたのは俺じゃないと言い張ることもできるが、やはりそれは偽善でしかない。

 いつかは自分も生き物の命を奪う。これはきっとこういう世界で生きていく限り避けられない。


 でもだからこそ、自分は他の命の上で生きている。色んなものを犠牲にしてここに立っている。

 そう考えないと、きっといつか迷ってしまうのだ。


 ……現代日本と比べると残酷で生きにくい世界かもしれないが、今日俺は命の繋がりを実感できた。


「おい、どうした?」


 そんなことを考えていると、おっさんが心配そうに顔を覗いてきた。


「いや、なんでもない」


 ふと感じたものを押し殺して、俺は目の前に置かれたスニークロリクの亡骸に祈りを捧げた。




✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱




 ウサギの解体作業、なんて元の世界ではもちろん経験したことは無い。

 あったら、先の感慨も薄れてしまっていただろう。


 というわけで、俺は小屋の近くの比較的なだらかな場所で、ガルツのおっさんによる雪山流解体術を教わった。


「最初は血抜きだ。腹から肛門までナイフで裂いて、内蔵を取り出せ。そしたら真ん中の太い血管を切るんだ」


 おっさんは慣れた手つきで、隣で実践指導を行っている。

 ……これは想像以上にグロい。

 俺は少しビクビクしながらも、黙々と作業をこなしていった。


「次が重要でな、開いた腹を雪に押し付けろ。そしたら勝手に雪が血を吸ってくれる」


 言われた通りに、近くの雪の塊にスニークロリクのお腹を下に向け、それに押し付けた。


「おぉ……」


 少し感心してしまった。これが雪の中に生きる狩人の知恵か。


「何回か繰り返して血が抜けたと思ったら、今度はその腹の中を固めた雪で拭き取るんだ」


 数個雪玉を作り、お腹の中をきれいにしていった。


「したら次は皮を剥ぐ。スニークロリクの毛皮は、町で売ればそれなりに売れるからな」


 これはお得情報かもしれない。

 というかおっさんはずっとここにいるわけじゃないんだな。


「ガルツは町に行くのか?何しに?」


 少し早口になってしまったが、俺もできれば人里に降りたい。おっさんといつまでも2人きりは御免だ。

 今はなにやら有用な情報を持ってそうだから付いていってるが、なるべく早く別れたいものだ。


「別に……そうだな。さっき言った魔獣やらの毛皮を売ったり、他にもここで暮らすのに最低限のものを買いに行ったりな。1年に2、3回行ってる」


 あぁそう言えば昼食べたソテーのソース、あれはここで取れそうなものじゃないからな。きっと町で買ったものだろう。


「それよりさっさと解体終わらせるぞ。あと5匹も残ってんだ」


 話しながら一匹ずつ解体を終えた俺とおっさんは、少し急ぎ足で解体を進めた。





✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱




 夕方、日が沈み始めた頃。

 雪はまた強くなり始め、狩りと解体を済ませた俺たちは、あのボロ小屋目指して歩いていた。


「やっぱり人が1人多いだけで随分効率がいいな。あんたに色々教えて良かった」


 今日の戦果はスニークロリク10匹、スニーアレーニ(鹿の魔獣)2匹、スニーメア(熊の魔獣)1匹、その他山菜、であった。思ったより大漁だ。

 そのせいか、おっさんはほくほく顔である。……おっさんの笑顔はきつい。


「あんた飲み込みが早いな、刃物も意外と慣れてそうだし……」


 小屋に着く頃、おっさんはそう呟いた。


「よし、明日から剣を教えてやる。まだ持ったこともないだろ」


「おぉ!」


 これは純粋に興奮し、声を上げた。


 しかし出会って1日目、気がかなり早い気がする。

 自分で言うのもあれだが、未だ得体の知れない人間に剣を教えるとか、よくそんな気になる。

 これは俺の人徳……では無いな。

 おっさんはほぼずっと雪山で、独りで過ごしてきたんだ。きっと人恋しいのだろう。


「よろしく師匠」


 昼も似たことを言った気がするが、気にしない。

 そう言うと、おっさんはまた一瞬悲しそうな目をしたが、すぐに気を取り直したらしく、


「おう、任せとけ!」


 空元気かもしれないが、威勢は前より良かった。


 その後豪華な夕食を食べたあと、俺とおっさんはすぐに眠りについた。

 ……もちろん同じベッドとかではなく。机を仕切りに、2人とも床で寝た。毛皮の毛布をかぶって。





 怒濤の1日目。

 「幸福神」メルザドを倒すという仕事は、どうやらヤヅルの頭から抜けてるようだった。

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