第一章2 『狭きボロ小屋、男が二人』
第一異世界人と無事友誼(?)を結んだ俺は、荒ぶ吹雪で窓が揺れる小屋の中、ガルツと彼の作った野ウサギの肉のソテーを食べていた。
このおっさん、なかなか料理が上手い。しっかりと、先程の血生臭さは消えている。
それにしてもこのおっさん……初対面の怪しい人に早速美味しいご飯を振舞ってくれるとは太っ腹だ。
だがしかし、それでいてその怪しい俺からは目を全く話さない。
ただの気のいいおっさんでは無さそうだ。
雪山に建つボロ小屋に一人で住んでいるのも何かありそうだ。
「それでおっさ……ガルツはどうしてこんなところで住んでるんだ?もしかして逃亡中とか?」
今の俺に考えられるのは二つ。
一つは今言った通り逃亡中。
どっかで犯罪やっちゃって、見つからないように雪山にひっそりと隠れている。
でもこれだともう少し適した場所があるだろうから、わざわざこんな厳しい自然の中で生きる必要は無い。
二つ目はなにか雪山でやることがある。
彼が冒険者とかなのかは知らないが、その仕事で調査に来たとか、この冬の時期にここでしか取れない幻の薬草を取りに来たとか。こっちの方がまだ可能性の芽がある。
「あ?俺が犯罪者だとして騎士の詰所にでも連れてくか?」
「いや、そんなことはしないが……ちょっと気になっただけだ」
「まぁ別に、そうなっても構わない身の上だがな」
ワケあり、か。
いや最初からそんな感じはしてたけどな。
さっきからずっと思案顔だし……この件はおっさんが自分から話してくれるまで待つとするか。
「それにしてもこの雪。全然収まらないな。春はそろそろか?」
俺はおっさんが暖炉の上で温めてくれた山菜スープを飲みながら言った。
すると、おっさんは一瞬目を見開いてからすぐに表情を元に戻した。
「……お前本当に転移で来たらしいな。
ここは白銀の王国シニエーク。年中ほぼ雪の降る国だ。だから春は滅多に来ねぇ。1年に10日あればいい方だ」
今度は俺が目を見開き驚いた。
本当にそんなところがあるとは。
国ってことは結構この辺にも人が住んでたりする?そう聞くと、おっさんは首を横に振った。
「白銀の王国、なんて大層に名乗っちゃいるが、実際国民がいるのは王都だけだ。そこらだけ気候が安定して過ごしやすいからな。
積雪地帯を領土にしてんのは、金や銀、鉱山資源が取れるからだ。だから俺みたいな物好きはそういねぇよ」
自嘲気味に、ふんと鼻を鳴らすおっさん。
「で、あんたはどこから来た?自分の国の名前くらいわかるだろ?」
笑顔で聞いてくるおっさん。ちなみに目は笑っていない。
「えっと俺は……東の方の国……だな」
なんとなく異世界転移あるあるを口にしてみた。
おっとおっさんの警戒度が増してしまったようだ。さっきより険しい表情になっている。
「は、教えてくれねぇんなら別いいんだ。困りやしねぇ」
どうでもいいとばかりに短く吐息を漏らすおっさん。おっさんの吐息など要らない。
でも何だかんだ言って怪しい俺を家に入れてくれたおっさん。ツンデレのようだ。デレてるところをまだ見てないが。
それにしても、素人目の俺でもおっさんの身のこなしが尋常じゃないのが窺える。きっとこの人はどこかの騎士団や傭兵団所属なのだろう、と予想を立てた。
対して俺は現代日本に毒されたただの一般人……かどうかは別として、おっさんのような人達から見たらいいカモだ。
おそらく俺を家にいれたのも、こいつなら暴れても大丈夫、と思ったからだろう。いきなり俺が、背後からナイフで襲い掛かっても、すぐに無効化できると。
おっさんの信頼を得るためにも、ここではあまり暴れない方が良さそうだ。
くくく、きっと俺が半分神様だと明かした日には驚いて腰を抜かすに違いない。
まぁ能ある鷹は爪を隠す、っていう言葉があるくらいだし、おっさんのこの過剰な警戒は念の為、ということだな。
……そういえば「神力活性」とか検証してないけど大丈夫なのか?
後でおっさんが出掛けてるときに、それで暇を潰しておこう。
「おい、ヤヅル。夕食を狩りに行くぞ。お前は荷物を持て」
せっかく神力検証しようと思ったのに、早速小間使いか。人使いの荒いおっさんだ。約束だし断る理由もないけど。
それにしても今名前呼びだった?距離が縮まった証か。
おっさんから持たされたのは、ナイフ、獲物や採取物を入れる袋、あと革製の胸当てだ。
「怪我でもされたら夢見が悪いからな、一応着けとけ。あとお前火魔法使えるか?身体を暖めるやつだ」
「あぁ、たぶん使える。鎧……はありがとう」
そう言えば火魔法を使える設定になってたな。でもあれは「半神格化」したからであって……あ、「神力活性」で似たようなの使えるか?
イメージ、イメージだ。
魔法は想像力が基本だって田舎の爺ちゃんが言ってた。
何かがカチッとハマるような感覚がして、神力を使った魔法が発動した。
「熱っ!」
「あっ、すまん。温度下げてくから丁度良くなったら教えてくれ」
温度調整に失敗し、おっさんが絶叫した。
こちらをすごい睨んでいる。
少しずつ温度を下げたあと、丁度いい温度に達した。らしい。
「お前はしばらくその魔法の練習と、俺の狩りに付いていって剣を持て。そんなひょろひょろな動きじゃすぐにどっかで食い殺される」
なんか物騒なことをおっしゃっている。
まぁ剣なら普通に使ってみたいしいいか。「神力活性」は後回しにしよう。
「わかった。よろしく頼む、師匠」
片手を上げ、軽く敬礼の真似をする。
……ふと彼の顔を覗くと、とても悲しげな目をしていた。
「あ、あぁ」
短く返事を返したおっさんはどことなく寂しそうだった。
しばらくむさいおっさん回が続きます。
勇者や女の子、その他はもう少しお待ちください。