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序章2 『説得と選択』


 ──目が覚めるとそこは知らない天井でした。


 なんて言いたがってたのは何処の誰だったか。

 かくいう俺もいつかそう言えるのを期待してないわけではなかったのだが、今回に関してはできなさそうだ。


 何故なら天井が無い。


 星さえ見えない虚無で覆われたその果てしない空間(そら)は、無限に広がっていて終わりが全く見えない。


 ここは何処だろうか、と俺が口に出す前に、


「目は覚めたか?」


 鈴の音と聞き間違えるほど、透き通った綺麗な声が聞こえた。

 上体を起こすと、そこには鮮やかな黒紫色の髪を地面に付くまで伸ばした、艶やかな和風美人が立っていた。


「貴方は?」

「……我は「刀神」アマノショウブノアヤメ。アヤメと呼ぶがよい」


 っ!かっ神様!?っていうか頭痛と立ち眩みが……。


「……非常に遺憾なことだが、そなた神生彌弦には手伝って貰いたいことがある。故に此処に来てもらった」


 俺に手伝って欲しいこと?いやその前にこの場所……神界か何かか?嘘か誠か信じ難いが本当に今目の前にいるのは神様らしいけど……。だってこんな美女が日本にいるわけないし。

 夢にしちゃ現実味がありすぎるし、そもそも俺はどうやっててここに来て……?


「おい、その前に教えて欲しいことが……いや、教えていただきたいことがあるのですが……?

ここは何処で、どのように俺、いや私は此処に連れてこられた?のでしょうか?」

「おぉ、そうだった。すまぬな。我は頼まれただけで大した事情を知らないのだが……此処に来る前の記憶はあるか?」


 うん、慣れない敬語にして正解だったらしい。慣れないって言っても使い慣れてないだけで、その辺の教養は一通り学んだ……と思う。

 ちょっとおいって一声掛けただけで明らかに睨んできた。よくよく見てみると腰に二本刀が差してあったし、もし仮に神様じゃなかったとしても、それで首を刎ねられたら終わりだろう。


 と、そうじゃなくてここまでの記憶だったか。

あまり朧げだけど確か理久亜と別れたあとに路地裏に入っていって……?


「あ、あの。私の追っていた男性と女性はどうなったか、ご存知でしょうか?」

「む。自分の心配を前に他人を気遣う余裕があるのか?あの二人なら無事、というか実行犯だがな。心配は要らぬ。帰って来たら本人らに聞くがよい。

それよりもその後の事ことはどうだ?覚えておらぬか?」


 その後……あっ!?


「俺はどうなったんですか!?なんか焼け付くようなそんな感じで、意識が溶けていったんですが!?」

「そなた、あまり興奮するでない。安心せい、そなたは死んでおらん。生きておる。じゃがその代わりと言ってはなんだが面倒事にの……」

「そ、それってどういう……「おい、アヤメ!!今帰ったぞい!!」」


 何やら話が核心を突きそうだったところに、思わぬ声が乱入してきた。

 そしてこの声の主に、とても迷惑そうに顔を向けると、


「ああっ!?」


 俺は人差し指を向けて大きな叫びをあげた。

 そう、俺が助けようとした女性と、俺が止めようとした男性、その人達であった。




✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱-✱





「ふぅー」


 一旦話が落ち着いたところで、状況を整理しよう。


 まず始めに、俺が後をつけた二人組、鈍色の髪を持った若い女性が「鉄と歯車の神」フェルヌ・ティーン。そして赤黒い髪をしたイメージの暗いおっさんが「鍛冶神」クルツ・マッシ。二人は俺を此処に連れてくるために、あんなことをしていたようだ。一応軽く叱っておいた。

 そして、此処に来る前の最後の記憶、焼き付くようなあの閃光は、俺をここに連れてくるための所謂「神器」のようなものだったらしい。俺は光しか見なかったから、そんなこと言われてもピンとこないが。


 それで本題。彼ら二人が俺を攫った理由。それは──。


「悪神を滅して欲しいんだ(じゃ!!)」


 わかるだろうか。いきなり神を名乗る二人に、いきなり神を殺せと言われるこの気持ちを。

 大体あんな攫い方しておいて良く言えるな、と逆に感心してしまった。

 「何故俺がそんなことをしないといけない?」と言うと速攻で、


「お願いしますお願いします!!お主しかおらぬのじゃ!!」


 フェルヌに土下座された。

 ……あ、呼び捨てなのは別にいいよね。だって無理矢理拉致監禁されたからな。

 まぁ流石に神様にそうされると何もしないというわけにもいかないので、取り敢えず話は聞くことにした。

 でそこからの話を要約するとつまりは、「最近神様の利権を乱用して、下界を荒らす悪神や堕天使が増えてるから、異世界に行ってそいつらを滅して欲しい」ということだった。


 正直頭がクラクラした。何処のラノベ展開だよ、と突っ込みたくなる。

 別に異世界に行くとか、そういうのに憧れがないわけじゃない。むしろご都合主義大歓迎である。

 ……であるのだが、それとこれとは話は違う。


 チートは貰えるらしいがまず一つの世界に留まれない。

 一柱の神を倒したらまたすぐに一柱神を倒しに世界を飛ぶ。そんな感じらしい。


 それに何よりも、俺は元の世界でやりたいこと、やらなきゃいけないことが沢山ある。父や祖父の会社を継いで、大きくしなきゃいけないのだ。

 それに家族や友人、もう一生会えないと分かったら俺はどうすればいい。


「いや、それは心配無用じゃぞ。お主の世界とは時間軸の異なる世界に行ってもらおうと思ってるからの」

「それはつまり……?」

「うむ。事が済めば元の世界に、ほぼ寸分違わず帰ることができる」


 いや、そういうことを言ったんじゃないんだが。確かに帰ってきて皆が爺婆になってのは困るが、そこじゃない。俺が会いたいって言ってるんだが。


「その途中で元の世界に一旦戻るとかは?」

「……残念じゃが無理じゃ。上限や手続きの都合上、な。それにお主自身も掻き消えてしまう」

「それは……」


 生憎と、自分の命を犠牲にしてまでそんなことをする義理はない。そう言いたかった。


「じゃあお断りさせて「お主、話はまだ途中じゃ」」


 今度はなんだろうか。いい加減、怒ってもいいだろうか。


「……あちらの世界に悪影響が及べば、お主の世界にもその災禍は及ぶ。どうか、そこも考慮に入れんてくれんか」


 フェルヌの言ったことは嘘偽りだと、詭弁だと、そう割り切って捨てても良かった。

 でももしかしたら……そういう気持ちが俺の思考を引っ張っていた。


「俺からもお願いする」

「我も助太刀願いたい」


 クルツのおっさんと、アヤメ様に頭を下げられた。


「もちろん妾もじゃ」


 最後にフェルヌ、彼女が頭を下げて俺の目の前に三つの頭頂部が並んだ。……クルツのおっさん少し禿げてる?

 俺はふぅ、と再度長いため息を吐いて、


「わかりました、お受けします。御三方とも神様なんでしょう?軽々しく頭を下げるのはお辞めください」


 バツの悪そうな顔で、そう言った。

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