第一章6 『冒険者ギルド、ガルツの師匠に会う』
少し長めです
テンポよく話を進めたい……
スメラ村の民宿で一泊して翌日の朝、俺達2人はステリードに向けて南下し始めた。
距離にして約5キロ、昨日に比べると長い道のりだが、傾斜がないぶん楽に感じられる。
随分平たんな道のりで、視界を遮るのは所々生えているだけの大きな針葉樹のみ。
周囲に人の気配はなく、仮にここで姿を消しても誰も探す宛を見い出せないだろう。
で、そんなところで2人寂しくとぼとぼ歩いていれば、当然こういうことも起こりうるわけで、
「おい、金目の物を置いてけや。なに、言う通りにすれば命までは取らねえ」
まぁ所謂盗賊というやつである。いきなり襲ってこないあたり教育が行き渡っているが、それでも盗賊には変わりない。
お粗末な鎧をつけたつるっ禿の男が5人。いや1人だけふさふさである。彼らはこちらをニヤニヤしながら見下すようにしている。
武器は右から剣、剣、槍、手甲、槍。
魔法を使うやつはいなさそうである。
それにしてもこいつら……どう見てもボロボロの服着た2人に襲いかかるとかどんだけ貧しいんだ?これで金になるものを持ってるとでも?
まぁ実際は持ってるんだがひと目じゃわからないだろう。実力あるとかそういうわけでも無さそうだからきっと手当り次第ってところだろうな。
「おいどうする?」
俺は目の前の下賎な輩をどのように処するべきか、ガルツの耳に口を近づけて小声で聞いた。
「気絶でいいだろ。こんなの殺しても無駄に手が汚れるだけだ」
ちなみにこの汚れるとは物理的なものと精神的なもの両方含まれる。俺はまだ殺人をしたことはないのだ。
「おい聞いてんのかっ!」
痺れを切らした盗賊の1人が剣を振りかぶってきた。
俺はそれを瞬時に避け、背後に回ったところで手刀で「首トン」した。
気絶した仲間の盗賊を見て、その他4人は一斉にたじろいだ。そのスキを見逃さず、俺とガルツは同じ様に気絶させていく。
数秒後、死屍累々といった感じで気絶した5人の盗賊が寝転がっていた。
「やっぱりヤヅルの教えてくれた「首トン」、使えるな」
そう。そうなのだ。
通称「首トン」。俺が異世界に輸入したもの記念の第1号である。
力加減さえ間違えなければ一瞬に気絶させられるので、格下相手には特に重宝する。
「で、こいつらどうするよ」
「……」
ガルツの問いに、俺は無言になった。
正直連れてくのは気が乗らないが、多少の金にはなるかもしれない。
「一応……引き摺っていこう。懸賞金とか……ほらあるかも」
「……」
今度はガルツが無言になった。
気持ちがわかるがそのまま道でポイっと捨てるのもどうかと思うんだ。
そんな一幕があった後、俺達は遂にステリードに到着したのだった。
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白銀の王国スニエーク、「第二の都市」ステリード。
王都クレステルの北西に位置する、小さな都市だ。
都市なのに町。ガルツがそう言うのにはもちろん理由がある。
──単純に、規模が都市のそれではない。
ガルツが住処に選んだ雪山よりは遥かにマシだが、それでもやはり気候が安定しない。そのせいで人口もそんなに多くはない。
それでも、王都に次いで発展している場所のため、「第二の都市」と呼ばれる。
年中雪の降る、スニエーク王国ならではの弊害といえるかもしれない。
見た目は町の様相を呈しているのに、都市と呼ばれてしまう。
それが歪んだ二つ名の由来である。
つまるところ、小さな都市──ではなく大きな町。
そんなところに、俺は足を踏み入れた。
「おぉー」
町と聞いたからか勝手な想像をしていた俺は、 その広さと整った通路を見て、感心と驚嘆の声をあげた。
街道は人で賑わい、露店は張りのある声を出して客を呼び寄せている。でもやはり都市と言えるほどには人は多くない。
「おら、さっさと行くぞ」
道の真ん中で突っ立っていた俺は、ため息を漏らしたガルツの後を付いて行った。
検問所を難なく通過した俺達は、お昼すぎにまず第一目的地である冒険者ギルドに足を運んだ。
「ようこそ。冒険者ギルド・ステリード支部へ」
ギルドに入ると、受付嬢のお姉さんの落ち着いた声が聞こえた。セオリーに則ってかもちろん金髪美女である。
冒険者ギルド──言わずと知れた、一癖も二癖もある冒険者たちを統括、そして彼らに仕事を斡旋し、依頼主との間を取り持つ機関。
世界中に支部を構える冒険者ギルドは、国や種族といった勢力に次ぐ、第三の権力を持った機関だ。
またその戦力に関しても強大で、小さな国なら軽く捻り潰せるという。
故に常に中立を訴える冒険者ギルドは、特に民間からの支持が多い。
故にそんな機関の建てた施設の中での喧嘩、暴力沙汰など自殺に等しい。
「おいてめ、ここはガキが来るところじゃねえんだよ。あぁん?」
いきなり地方のヤクザみたいなノリで喧嘩を売られた。メンチ切られている。
まぁ俺は、これはお約束みたいなものだと思っているので別に手を上げたりとかはない。もしかしたら新米冒険者を気遣ってくれる優しい先輩冒険者かもしれないしな。
と思ったところでその人が、
「あぁん?なにこっち見て……あ、すみませんっすなんでもありません」
いきなり萎縮してしまった。
ちなみに俺はなにもしていない。
なにかしたのはガルツである。……行きに返り討ちにした盗賊5人を引き摺ってギルドに入ってきたのだ。
それにしても良かった。どうやらこの先輩冒険者は自殺志願者ではなかったらしい。
周りのこちら見る視線が痛いが、半分以上はガルツの方に向いている。
「やっぱりそいつら表に置いてきた方が良かったんじゃ……」
「何言ってんだ。気にすることもないだろ」
ガルツは慣れているのか、気にも留めない。
ガルツが受付嬢に声を掛けると、彼女は彼を見て察したような顔をして、後ろの棚から書類を取り出した。
「恐らく、こちらがその盗賊の頭目かと。ご確認ください」
俺はガルツと一緒に、横たわる盗賊と書類の手配書みたいなものにある似顔絵とを比べた。
「こいつだな。仲間の4人と、得物も一致している」
「そうですね。間違いないかと。
……最近被害が増えて、こちらも対策しようと考えていた盗賊です。ギルドを代表して感謝を申し上げます」
ぺこり、と頭を下げる受付嬢さん。金色のポニーテールが揺れる。
ていうかこの盗賊たち、意外と仕事熱心だったようだ。その情熱を別のものに注げばいいのに。
「ギルドカードの提示をお願いします」
「あぁ。ついでにこの素材の買取と」
そう言ってガルツは持っていた袋から、その体積以上の毛皮やら牙やらの素材を取り出した。……それ魔法の袋(?)だったのか。
それからギルドカードを手渡すと、俺の頭を左手でポンポン叩いて、
「こいつの登録も頼む。実力なら保証する」
右手で指差しながらにたぁと怪しい笑みを浮かべた。
素材の山と、ギルドカードと、ガルツに指差された俺を順繰りに見て、受付嬢は次々と表情を変えていった。……面白い。
「しょ、少々お待ちください!」
彼女はそれだけ言うと、受付横の二階へ続く階段へと駆けていった。
「ガルツ……何したんだ?」
「別になにも?」
ガルツはそう言ってるが、ニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべてるし、明らかになにかを隠している。なかなか自分から話さないので俺も聞かないが、そろそろいいだろうか。
まぁ隠し事してるって点ではお互い様だけどな。
しばらく待つと、受付嬢が後ろに男を連れて帰ってきた。
白い髪の毛と髭を生やした、仙人みたいなお爺さんだ。でも杖はついてないし、腰も曲がってない。
「おぉ、やっぱりお主じゃったか。久しいの」
「あんたもだいぶ老けたな。師匠」
……は?師匠?まさかガルツに師匠がいるとは思わなかった。完全に独学でやってますって感じだったのに。
「ヤヅル、紹介しよう。俺の剣の師匠でここのギルドマスターでもある、カルノス・ダースエティだ。
で、師匠。こいつがヤヅル。なかなかに……いやかなり骨のあるやつだ」
「ほっほっほ、よろしく頼むの少年。ガルツは儂が白銀騎士「むぐっ」」
「今その話はいい」
……今なにを言いかけたかは知らないが、この爺さん相当な手練れだな。ガルツに匹敵か、それ以上だ。
「そ、そうかの。それにしても少年……1度お手合わせ願いたいのじゃが「お断りさせていただきます」」
即答した。
こんな爺さんと真剣勝負した日には地形が変化してしまいそうだからな。
ガルツとだって雪崩が起きたんだし、この爺さんとだったらなおのことだろう。
「で、素材の買取と盗賊の懸賞金じゃったな。しめて大金貨1枚と金貨7枚でどうじゃ?あ、アデリーナはギルドカードを作る準備をしておれ」
「あぁ、それで構わない」
ガルツはこくりと頷き、お金を受け取った。
ちなみに金銀銅貨を円に換算すると、白金貨:1000万円、大金貨:100万円、金貨:10万円、銀貨:1万円、大銅貨:1000円、銅貨:100円、が妥当っぽい。
昨日スメラ村で軽く買い物したときに、銅貨や大銅貨の価値はわかったので、あとは何枚で上の貨幣にいくかをガルツに聞いた。
つまり今回受け取ったのは170万円相当、か。
……どちらにしろよく分からなかった。
そして話に置いてけぼりにされていた受付嬢は、また後ろの書棚から紙を取り出した。
「こちらが登録用紙になります。名前と、職種は必ずお書き下さい。その他は空欄でも構いません」
そう言われたので、名前「ヤヅル」と職種「剣士」だけ素直に書いておいた。
「ではこちらに血を一滴垂らして頂ければ登録完了になります」
意外とあっさり登録できるんだなーと思いながらも、左手の人差し指の先を、剣で少し切って血を垂らした。
「ではこちらがギルドカードになります。最初はGランクからのスタートです。ご利用規約などに関しては……そちらの方にお聞きください」
ニコッと営業スマイルをしながら、受付嬢アデリーナはガルツの方をチラッと見た。
この娘、意外としたたかなようだ。丸投げしやがったぞ。
「ありがとう」
ちょっと久しぶりの女性にどぎまぎしてしながらも一言だけ礼を言うと、俺はガルツへ向き直った。
ガルツはカルノス師匠と楽しそうに昔のことを語り合っているようだった。
しばらく話が終わるのを待っていると、
「お主、どれくらいここに滞在するつもりじゃ?」
「まぁ1週間くらいだな。買いたいものが沢山あるのと、あと依頼を少し受けようと思ってな」
「おぉそれは有難い!丁度割のいい仕事があるんじゃ!」
そうしてカルノスが依頼板から剥ぎ取った依頼は、
─依頼内容─
・森に巣くう魔獣の群れを倒して欲しい
─報酬─
・大金貨3枚
─依頼主─
・ヴェルデーク伯爵
大金貨3枚!太っ腹だな。まぁ伯爵様だしこのくらいどうってことないんだろうけど。
「ヴェルデーク伯爵……王都の近くの森か?」
「そうじゃ。あの辺で最近魔獣が増えての……通行もままならないのじゃ。領主の伯爵様も非常に困っておる」
俺は即決で受けてもいいんだが、反面ガルツはなにか苦い顔をしている。
「お主……まだ引き摺っておるのか?その歳になってうじうじとみっともない……。それにな、もう許されていいと、儂は思っておるぞ」
カルノスは諭すように、ガルツを真剣な眼差しで見つめている。
「わかった。行こう」
決して晴れやかとはいえないが、それでもガルツはなにか決意した顔で言い切った。拳を強く握っているようにも見える。
その後、俺たちは依頼受諾の手続きをしてからギルドを出た。
なかなか受ける人がいなかったとかで、他の冒険者に感謝されたが。
午後はそのまま少し遅い昼食を食べたあと、目的の1つである香辛料や穀類の買い溜めをした。商店街には珍しいものも沢山あって、見ているだけでも楽しかった。
ついでに俺とガルツの2人は髪が乱雑に伸びてしまっているので、整えに美容院にも行った。
久しぶりにオシャレをしたような感覚に囚われて少し浮かれてしまったが。
夜、取った宿の看板娘に熱い目を向けられた気がするのはそのせいじゃないよな?




