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ところどころ消えかけている豪華な回廊を通って案内されたのは、これまた豪華な部屋。
案内してくれた少年少女たちよりやや年が上に見える青年に囲まれた中央には、恭しく横になっている人物が見えた。
「雅さま、乙姫さま戻ってきたよ」
「いや、違うって」
「もう大丈夫だよ」
「私は、」
「また元どおりになるよ」
「人の話を聞こうね」
再びずるずると引きずられ、雅さまとやらの前に連れられる。
連れられ、横たわる人物を見て息を飲んだ。
流れるような銀髪に、白い肌。その端正な顔立ちの青年がゆっくりと目を開ければそこには吸い込まれそうな薄青の瞳。
長い指がそろりと私の方へ伸ばされる。
「乙姫……」
「いえ、人違いです」
「戻ってきてくれたんだな」
「私は、乙姫さんではなくて」
「会いたかった……」
全員揃って話を聞かなさすぎる。
自分の言いたいことだけを言い、しなやかな体躯が私を抱きしめる。ん?
「ーーーーーーっ!?」
抱き、しめ、てる!?
理解した瞬間、声にならない悲鳴で勢いよく突き飛ばし後ずさる。
まるで心臓が喉にあるみたいに、どくどくと跳ねる鼓動を感じながら目の前の青年を見据えた。
じ……と私を見る青年の目がだんだんと悲しげに伏せられていく。
うっ、……罪悪感。
ただでさえ、先ほどまで寝込んでいた相手だ。突き飛ばしてしまってはまずかったかもしれない。
「あ、あの、ごめんなさい。……大丈夫ですか……?」
恐る恐る近づくと、長い睫毛がゆっくりと揺れてきれいな双眸が私を捉えた。
再び伸ばされた手にびくりと身構えたが、青年の表情があまりに切羽詰まっていて跳ね除けることができなかった。
それに今度は抱きしめられることはなく、ただ手を重ねているだけだったから、私もそのままその様を見ていた。
「あの、私は……音原澄衣と言いまして、乙姫ではありません。そもそも海の上で暮らしている人間ですし」
「?何を言っている?君は乙姫じゃないか。ほら、現に私に生命を送っている」
示された手を見ると、重なった手がほんのりと光っている。確かに心なしか、体温よりも温かい。
だけど私にそんな大それた事をしている自覚はなく、何かの間違いではないかと思ったが、よく見ると雅青年の顔色はみるみるうちによくなっていた。
「ほら、竜宮城も蘇った」
瞬きしながら周りを見回せばうすらぼんやりしていた部屋の中が煌めいている。
気のせいでなければ少年少女たちの言っていた、竜宮城消滅の危機と雅さま生命の危機、どちらも救ってしまったらしいということになる。
とりあえず。
「乙姫……私の愛しい婚約者」
「乙姫さまー!」
「乙姫さまー!」
喜び踊るそこの全員、まずは人の話を聞こうか。
気になる言葉をそこここに散りばめられ、どこから話をすればいいのかわからず頭を抱える私と、復活に嬉々と浮かれる周りの温度差は天と地だった。