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**01**

 


 *******




 音原澄衣おとはらすい、21歳。

 運のいい人生だとは思わないけど、何もこんなにロクでもない事が重ならなくてもいいじゃない。

 友人のめでたい結婚の日に。

 ロマンチックな船上結婚式で。

 学生時代から付き合っていた恋人にふられた挙句に。

 その船から落ちる、なんて。



 遠くなる空、だんだんと奪われる体温、呼吸、そして意識。

 死んで、しまうんだろうなあ。

 むしろもう死んでしまったのかなあ、だって全然苦しくないし。

 ああでもなんだかもう、考えるのも……面倒臭い。

 自暴自棄っていうのかなあ、これ。

 沈んでいく自分の体をどこか他人事のように感じながら、もがく事も浮き上がる事も諦め私は目を閉じた。




 ーーーーぱりん……



 沈み始めてどれくらい経ったのかわからなかったけれど、気づけば体は地についていた。

 探る指先が何かに触れ、そしてそれは小さな音とともに割れた。

 か細くて、何だか寂しげな、悲しげな音。

 一瞬熱を持ったそれを探そうとしたけれど、指先には何もなくて。

 気のせいだったのかと思う。

 体を起こすのもだるくて、仰向けのまま私は瞬きを二度ほど繰り返した。


 ……私は、死んだの、かな?

 確かに船から落ちた。

 確かに海に沈んでいった。

 確か、海の上にあがった記憶はない。

 なのに周りに水はなく、呼吸も苦しくはない。

 それに、上空は一見空のように見えるけど、あれって空じゃなくて……えっと、水じゃない?

 ぼんやりとした思考が何の結論も得られないうちに、私はふいに視線を感じることに気づいた。

 だるい体を起こして、そちらに視線を向けると、そこにはふわふわとした羽織ものを着た数人の少年少女たち。

 目が合った瞬間、彼らの瞳がきらきらと光り始める。

「ねえ、きみたち。ここってどこ……」

「ひめさま!」

 どこかな、と聞こうとした言葉を遮りながら彼らは走り寄ってくる。

 ん?今、何て?

 ひ、め、さ、ま?

「乙姫さま!」

「やっぱり乙姫さま戻ってきてくれたんだね!」

「はやく、はやく」

「雅さまが、死んじゃう」

「竜宮城が、消えちゃう」

 口々に言いながら私の手を引き始める。

 気になる単語が耳に届きながらも、見た目以上の彼らの力に逆らえず、ずるずると引っ張られる。

 ちょっと待って。

 乙姫?竜宮城?……って、あの、浦島太郎の?

 ん?私、今、乙姫さまとか言われてる?えっ、完全に人違いだよ、ちょっと!

 そもそも私、ただの一般人だし、地上の人間だし、ねえ!

 私の混乱をよそに、どんどん引きずられついに竜宮城とやらの前まで連れてこられてしまった。

「……これが竜宮城……?」

 目の前の建物は確かに立派だけど、何だか……うっすらとしているというか。

 比喩じゃなく、透きとおっているような……。

 目をこすりながら確かめると、少女が小さな声でそうだよ、と言う。

「乙姫さまが急にいなくなっちゃったから、雅さまの力だけじゃ竜宮城を保てなくて」

「乙姫さまの力がないと、竜宮城消えちゃう」

 そんなに深刻なこと……!

「で、でも私、乙姫さんとやらじゃないから……」

 その言葉に、少女は潤ませていた瞳から大粒の涙をこぼした。

「おっ、乙姫さま……じゃ、ないの……?」

「竜宮城、消えちゃうの?」

「雅さま、死んじゃうの?」

 涙を皮切りにみんないっせいに泣き始め、合唱のようにさめざめと悲しげな声が響き渡る。

「ちょ、ちょっとみんな泣かないで!」

 その空気に耐えきれず思わず声を出してしまった。期待の眼差しが再びいっせいにこちらを向く。

 し、仕方ない……。

「い、行くだけ行ってみるから……」

 何だかとても曖昧な返事だったような気もするけれど、みんながそれで泣きやみひとまず空気が落ち着いたので……まあよしとしよう。

 竜宮城消滅とか雅さま生命の危機とか重すぎるけど、とりあえず行くところもないわけだし、ここで立往生していても事態が変わるわけでもないだろうから……うん、行ってみよう。






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