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童話キャラは○○だった  作者: 素元安積
白雪姫は老婆だった
6/18

二:肉食系女子

 気を取り直し、僕は五月蝿いあの八人衆と別れて一人城の兵士やメイドなどに事情聴取をしてみる。すると、案外良い情報が溢れ出る。


 特にメイドの方は、継母は自分より綺麗な人を見ると自分はもっと美しくなる努力をしているとかって見栄を張ってくるとかで、今までの恨みが篭った若い女達の醜い悪口を聞かされてしまった。


 ・ ・ ・


「と言う訳で継母さん! 貴女の罪はとても重い!!」

「と言う訳でって何ですの!? ちゃんと説明しなさいよ!!!」

「いや、今そう言う細かいこと言わなくてもいい流れなんで。今までの流れを説明してきたので」

「いやしてないから!!」


 せっかくこうして此処まであらすじ風に説明してきた努力を水の泡にする辺りが、とても継母っぽい。そうだな、この口煩さはメイドにあそこまでボロクソ言われても仕方ないな。


「それに、私が赤ずきんを殺そうとしたとかありえませんわ。だって実の娘よ?」

「貴女の実の娘は白雪姫ですよ。貴女、自分の娘の名前間違えてる辺りが本当に怪しい」


 ギョッと継母が追い詰められ、ジリジリと後ろに下がる。


「こ、この鏡が悪いのですよ!? だってこの世で一番美しい私を差し置いて……」


 何言ってるんだ。お前はゴリラと目くそ鼻くそじゃないか。


 いや、そんなもんゴリラや目くそと鼻くそに失礼なくらいだ謝れ。


 僕が心の中でそう毒を吐いていると、僕の言葉を読み取ったかのように鏡が、「何言ってるんだゴリラ」と言う。


「な、何ですって!! こ、こんな鏡!!!」


 鏡を投げ割ろうとした継母の腕を掴み、顔をぐいっと近づける。一瞬ときめき頬を火照らせる継母の手の力が弱まった瞬間に、鏡をさりげなく奪い取る。


「おいで」


 指パッチンすると、小人と老婆がゆっくりとそれを鉄の箱に入れて荷台に乗せてやって来る。


 ……そう、その中にあるのは真っ赤に焼けた鉄の靴。


 継母が死ぬまでそれを履き踊らされたと言われる、あのグロテスクの老中辺りを担いそうなあの地獄の靴である!!


 僕がほくそ笑んで振り向き、それを見ると、荷台の上には鉄の箱。そして、中にはとても熱そうなお湯。


 ……お湯?


「何処の倶楽部だよ!!!」

「ダチョウだよ!!!」


 僕が怒鳴ってつっこむと、老婆の白雪姫が的確なツッコミ返しをしてきた。……コイツ、なかなかやるじゃないか。


「な、何ですの? コレは」

「コレ、良くないですか? あ、おでんもあるよ」

「完全に仕上がってるじゃないか!! あーっ! もういいっ!! 僕が聞こう。白雪姫を元の若くて美しい姿に戻す方法は!?」


 その質問に継母が反応し、鏡を奪い取ろうとすると、小人達が継母を捕まえて熱湯風呂に入れ、「水! 水!!」と懇願する継母に白雪姫がおでんの大根をくわえさせた。……いい時間稼ぎには、なってくれているみたいだ。


「ああ~白雪姫とキスをすればいいよ」

「嘘を付け。僕はさっきキスをされたが彼女はおばあさんのままだ」

「何言ってんだ、ディープな方だよ、ディープな方」

「……」


 ぞっと背中に寒気がした。


 狙われている。僕は確実に狙われているんだ。


 ……老婆に。


 振り返った時にはもう遅い。彼女が僕に飛びかかり、そのおいた唇をひっつけ……いいや、もう細かくは言わない。……言いたく、ない。


 狂おしい程の口づけの後、確かに彼女は美しく、可憐な白雪姫に戻ったが、僕は老婆とあんな激しい口づけをしたのかと思うと悲しみと絶望と吐き気が襲い、もう何だか涙がボロボロに溢れて出た。


 その恥ずかしさに思わず城を出て、森までやってくると木陰にもたれて本格的に涙を流し始める。


「男なのに弱っちぃなぁ~」


 当本人白雪姫はケロッとしている。反省の色なんて微塵も無い。お前なんて継母に葬り去られてしまえば良かったんだ。


 それだと言うのに、当の継母は、あの熱湯風呂やアツアツおでんのせいで、なんか別の趣味……と言うか道に花開いてしまった様で。これからは体を張った一発芸で笑いの一番になるとか言い出して、小人を連れて行ってしまった。本当にあの継母は訳分からん。


 ただ、嫌われオババよりかは笑わせオババの方が断然良いとは思うがな。あのワケわかんない感じはこの娘にもよく似ていると思う。


「……ねっ、二人きりになったんだよ? 続き、もっと楽しみましょうよ。」


 肉食系ヒロインが、ニヤリと笑い、僕の唇に今度はぷるっとした唇をゆっくりと近づけてきた。


「ひっ……!」


 その後、森には僕の悲鳴が響き渡った。


(三話了)

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