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童話キャラは○○だった  作者: 素元安積
野獣はゆるキャラだった
18/18

三:すごい

 地震の様な揺れ、沢山の陶器が割れる音。野獣が追っている気配が続く。ドールは手錠を付ける中も、必死に逃げ惑っていた。途中、妙に古ぼけた見た目の小さな扉を見つけた。


「……物置きかしら? 此処なら隠れられるかも」


 ドールは野獣がまだそう近くないことを察すると、即座にその扉を開けて静かに入っていった。


 中は真っ暗で、何も見えない。手探りで物を探ると、ボタンの様な物を押してしまった。それから数秒後、部屋の電気がつくと、中が鮮明に見えてくる。部屋は思った通り物置きの様になっていて、沢山の物が積み重なっている。その積み重なった物を腰を屈めながら見ていると、物と物の間に一つのノートが挟まっていることに気付いた。両手を必死に伸ばし、ノートを手に取ると、積み重なった物の上に腹を乗せ、前屈みになりながらノートを捲り始めた。


 ━━苦しい、辛い。私のこの体は何時になったら治ると言うのだろうか。人と人の子だと言うのに、親の身勝手な都合によって魔法をかけられたこの獣のような体。魔法をかけた魔女は私を愛する人が現れれば魔法が解けるだろうと言ったが、こんな姿の私を好きになる者など一人もいないだろう。


「そんな」


 思わずドールは声を発してしまった。その彼女の後ろから、大きくはみ出た影が現れると同時に低い声が聞こえてきた。


「……見たな?」


 まるでホラー映画の様な言い回しをしたのは、紛れも無い。ドールを追いかけていた野獣であった。


 ・ ・ ・


 野獣とドールの行き先を追う為、一先ず赤ずきん達は屋敷へと戻っていた。飛散したガラス片を確認すると、赤ずきんがダンテの方を向いて言う。


「助手君、早速指紋確認だ」

「かしこまりました」


 赤ずきんの合図により、持参した角ばった鞄から白い綿やピンセットなど、刑事ドラマでよくよく見かける様な道具を取り出し、パタパタと白い粉を付けるダンテ。それを土台に乗せ、パソコンにスキャンすると指紋が映し出される。


「指紋確認……警察の様だな。しかしこれで居場所がわかるのか?」

「いやまさか。しかし、正体はきっと掴めるはずだ。指紋の一説が正しければ……だがね」

「一説?」

「ああ。諸説あるが、指紋は例え姿を変えられても変わらないそうだ。つまり、野獣が幾ら成長しようと、余程のことが無い限りは正体が判明するだろう。もしかしたら獣の姿のままかもしれないし……その野獣も貴殿と同じ様な境遇だって有り得るよな」

「……私と? 呪いが付いている、と言うことですか」

「うむ。まぁ確実にそうとは言い切れないけど。此処の地域で全身獣の種族はそうそういないからね、一応さ」

「ご名答ですよ、赤ずきんさん!」


 ダンテが尻尾を揺らして答えた。立ち上がって赤ずきんとアレックスに見える様にパソコンを向けると、双方驚きに目を見開く。


「……こんな優しそうな顔立ちの青年が……」

「そうだね。急に姿を変えられ、きっと戸惑ったことだろう。貴殿と一緒だ」

「……私と、か」


 暫し画面に映る野獣こと、ロイの顔を見つめていたアレックスだったが、何かに気づいたらしく、赤ずきんの方を見て言った。


「だとすると、私の顔もわかるのか?」

「いや、無理だろう。彼の写真があると言うことは、彼が人の姿の時に写真を映されていると言うこと。君は生まれてずっとその姿だろう?」

「ああ……そう言えばこの写真、どうやって……」

「まぁ、政府と色々裏で取引して個人的に回収してるな。指紋だってそうだ。じゃないとこんな風に検出出来無いだろう?」


 赤ずきんは涼しい顔付きで答える。しかし答えがあまりにも想定外だったアレックスは、表情を引き攣らせていた。プライバシーも糞もありゃしない。ダンテはあちゃーと頭に手を当てて大きく溜め息をついた。


「それに、過去の自分より、呪いを解いた自分の姿を見たいと思わないか? 最低でも私は、貴殿の本当の顔を見てみたいな」

「お、俺もです。ドールさんも事情話したら教えたら喜んでくれると思いますよ」

「どうだろう? 彼女は可愛いものが好きな様だし、年を考えれば私はそこそこ良い年だ。顔次第では寧ろガッカリするのでは?」

「おお? やはり気になっているのか?」

「どうだろうな……」


 真剣に思い悩むアレックス。これではキリが無い、赤ずきんは両手を叩いて話しを終えると、次の展開を話す。


「では、次は地道に……は、駄目か。少し人を増やして探すとしよう。ダンテ、人は君が呼べるな?」

「ええ、たまには手伝ってもらいましょうか!!」

「……?」


 ダンテが更に鞄から連絡機器を取り出すと、二人から離れて何者かと連絡をする。話しを終えて戻ってくると、赤ずきんに向かって頷く。


「何者なのです?」

「そう慌てさんな、来たら分かるんだから」

「うむ……」


 ・ ・ ・


 赤ずきん達が待つこと三十分弱。ダンテが頻りに時計を気にしだす。その様子を伺っていたのか、アレックスが心配そうにダンテを見る。


「……遅くはないか?」

「大勢で来てるから……時間、かかるのかな?」

「そもそも、一体誰が来ると言うのだ? 大勢と言ったが……呼び出し費用は其方負担だろうな?」

「其処は心配しなくて良い。知り合いだから安価で済む。……それに、もうそろそろ来るだろうしね」


 赤ずきんが呟いてから数分後、多くの足音と振動が襲った。


「な、何だ!? まさか兵でも呼んだのか!!」

「そのまさかだね」


 轟音と振動の来る先を見つめると、沢山の騎兵がやって来た。馬の目は闘士に満ちている。馬に踏まれそうな勢いにアレックスとダンテが尻込みすると、三人の手前で馬主が手綱を引き上げ、馬を停止させる。


「た、助かった」

「へっ、兄さんは相変わらず屁っ放り腰だな」


 涙目で安堵するダンテに、上から見下して一人の青年が言う。


 ダンテと同じ藍色の毛、ふさふさの尻尾、狼の耳を持った少々幼い顔をした青年。彼の隣にはキラリと光る宝石を身に付け、キリリとクールな表情をた肌色の髪をした女性がいた。


「兄さん?」

「此奴は俺の弟のハイネです。綺麗な服に身を包んでますけど、もともとは普通の家の息子だったんですよ。彼の隣にいる、ランさんと出会ったことで今はこうして一国の重鎮的立場になれたんです。昔は兄貴って呼ばれてましたしね」

「……うるせーよ。何かのらねーな、折角助けに来てやったのによ」


 こうして話をするのは久々だったのだろう。兄から視線を逸らしたハイネの目は不思議と輝き、二人の様子を見ていたランは嬉しそうにニコニコと笑っていた。折角の兄弟水入らずの会話を邪魔するのは野暮だが、事態が事態。赤ずきんがハイネに尋ねる。


「その割に遅かったね? 交通の邪魔でもあったのかい」

「まっさか。兄さんから聞いた情報を元に、事前に場所探しといたんだよ。感謝しろよー」


 ハイネが腰に下げていた鞄を取り出すと、機械で事前に作られていた様な地図を三人に向ける。屋敷どころか、屋敷の内部まで分かり易く載っている。


「どうしてこんな精巧な……」

「まぁ、さっき助手君が言った通り、彼等は一国の重鎮的立場だからね。国と国を通じて物件を始めとした個人情報を得るなんて空気を吸うようなものなのだよ。これくらいなら私が頭を働かせることなんて無いのさ」

「だとしたらお金……」

「駄目だ。彼らを呼んだ手数料だ」


 アレックスは呆れて絶句した。ハイネ達は赤ずきんがアレックスから大金を貰い受けることを知らないのだろう。何食わぬ顔でアレックスを手招きする。


「兄さんと話してて気づかなかったけど、お前変な身なりだな。まぁ良いや、落ちたら大変だから俺の後ろ乗りな」

「あ、ああすまない」


 騎乗するとアレックスはハイネの腰から手を回し、腹の前で手を握る。同じ様にランの後ろに赤ずきんが乗り、ダンテは騎兵の一人に後ろへ乗せてもらった。


 ・ ・ ・


 野獣ことロイに捕まり、薄暗い部屋の中でドールは手足に手錠を掛けられていた。


「もうこれ以上は逃げられないぞ。傷つきたくなければ、今すぐ俺に愛を誓え。お前も見ただろう、俺のあの日記を」

「確かに見たわ。貴方に対する見方も変わった。……だけれど、貴方を心から愛することは出来無いと思う。……ごめんなさい」

「━━━━っ!!!」


 抑えられない怒りにかられ、ロイの目が血走る。ロイが素早く手を振り上げると、その先に横長の画面が映し出される。映っているのはロイの屋敷へと急いで向かうアレックス達だ。


「アレックス!!」

「……お前は、俺と奴、何方を愛しているのだ。答え次第では、奴をどうするか分からないぞ」


 ドールの瞳が揺れた。暫し声を出すことが出来ずにいた。


「奴の無残な姿を見たく無ければ、俺に一生の愛を誓うことだ。さぁ、誓え」

「……」

「何故答えない? 奴がどうなっても良いのか?」

「……そんなこと無いわ」

「ならば」

「だけど! 私は愛していない人間を愛してると言えないし、例え言ったとしても、貴方の呪いはきっと解けないわ!!」

「五月蝿い、黙れ!!」

「私が愛しているのはアレックス! 彼一人よ!!」


 私が愛しているのはアレックス! 彼一人よ!! その言葉が、アレックスの脳裏に瞬時に走った。


「━━……!!」


 するとアレックスの体が光り、徐々に変化をし始める。ハイネ達はその変化に即座に気づき、馬を止まらせた。


「え!? まさか……こんな早く!?」


 ダンテの言葉の通り、まさかの出来事が起きた。


 ダンテが、人の姿へと戻ったのだ。


「……な、何なんだこの手は……」


 自身の白く細長い五本指を見たアレックスは、衝撃のあまり硬直した。


「あ、あの」


 ダンテの声で我に返ると、急いで自身の体を触り出す。


「オイオイ! そんな慌てるこたぁ無ェって!! ほら、ラン」


 ハイネの指示で、ランは裏ポケットに忍ばせていた手鏡を取り出した。ハイネの力を借りてランも騎乗すると、馬が苦しそうな声で呻いていた。


「ごめんね、リゼ。すぐ終わらせるわ」


 ランは馬にそう言ってアレックスに手鏡を見せた。其処に映ったのは、茶色く、首元まで伸びた髪。細く、切れ長な目。まるで乙女ゲームのヒロインを一人拝借したかの様なイケメンさであった。


「……」

「あら、素敵な人」


 ランは素直な感想を言った。すると、ハイネがムスっとした表情でアレックスを睨んだ。アレックスは蛇に睨まれた蛙の様にしゅんと肩をすくめた。空気を読まず、ランはすぐさま馬から下り、元の馬に騎乗する。ハイネは表情を変えないまま、素早く前を向き、苛立ちを発散させる様に声を荒げた。


「城へ急げーっ!!!」


 ・ ・ ・


 たちまち姿が変わってしまったアレックスを見て、ロイはドールの愛が本物なのだと理解し、嫉妬の炎を燃やした。


「え……アレックスの姿が……まさかアレックスも、貴方と同じ……」


 ドールは画面上のアレックスからロイの方へ視線を変えたが、今のロイに理性など無かった。


「アレックスゥゥゥゥゥッッッ!!!」


 目を血走らせ、憤怒したロイは瞬時に姿を消した。ドールが驚いていると、ロイが残していた画面上、アレックス達の下へとロイは移動していた。皆が驚愕し、ロイの方を見る。我先にと口を開いたのは、赤ずきんだった。


「お、野獣だねぇ」

「で、でも何だか怒ってらっしゃいません……!?」


 ダンテの言葉通り、ロイは怒りに満ちている。


「まぁまぁ落ち着きたまえ……と言っても聞こえる状態じゃ無いだろうね。どうする? アレックス殿」

「な、何故私に振るのだ!?」

「ふむ? 貴殿に問うのが妥当だと思ったのだが」


 呑気にも聞こえる赤ずきん達の会話によってロイの怒りが完全に着火した。ロイはカッと目を見開くと、両手を前へ出し、目の前の人々へと向けた。


「え、えっ!?」

「んだよコレ!! 体が……透けてる……」


 狼兄弟が顔を青ざめさせて言ったと同時、皆の体が透け、そしてそのまま姿を消してしまったのだ。ただ一人、アレックスを残して。


「……貴様、何をした!?」

「何をって……貴様の力を消し去ったまでだ。貴様は元の姿を得た、もう彼女に会いに行く必要も無いだろう…!」


 震えながら威嚇する様に話すロイの姿に、もはや人の面影など無かった。ただ一人の、嫉妬に狂った獣だ。


 暫しの沈黙が流れた。アレックスには迷いがあったのだ。確かに、元の姿を得た自分ならば、もう城へ向かう情も要らない。だが、今まで協力してくれた仲間は……そしてアレックスを心から愛し、呪いから解き放ってくれたドールを見捨ててしまって良いのか。そんなことすら迷う自分は、非常に無力だと痛感していた。


「わかったのであればさっさと帰れ、これ以上は関わるな。そしたら貴様のことは忘れてやろう」

「しかし、姿を消した彼等はどうなっている? そしてどうするつもりなのだ」

「……決まっているだろう。女共は我に愛を捧げるのだ。もし本物の愛を捧げることが出来なければ、奴等は皆我が手で滅してくれる。そして男共には、それを協力してもらう。逆らう者は男女関わらず皆滅するがな」

「そんなこと!」

「そんなこと、何だ? 貴様に何が出来ると言うのだ!!」


 ロイの鋭い言葉に、アレックスは返す言葉が無かった。ロイはアレックスを鼻で笑うと、そのまま姿を消した。


「……愛……まさか、奴も私と……? いやまさか……」


 ロイの血走った目、獣の様な佇まいは、どうしても自分と同じだとは想い難かった。今の彼はドールをさらった際とは少し雰囲気が違ったが、彼自身も激しく愛を求めていることには変わり無かった。そして、今はそれが強く出ている。


「……まさか」


 まだ、にわかには信じ難かったが、ロイはもしかしたら自分と同じなのだろうか? そう思うと、真実を確かめざるを得なかった。力など無いことは重々承知している。しかし、此処で引き返してはそれこそ自分が人間では無くなるのでは無いかとアレックスは思った。いや、確実に人では無くなるだろう。


「皆、私が着くまでどうか耐えてくれ……!」


足がガクガクと震える中、アレックスは足を叩いて城へと走らせていった。


 ・ ・ ・


中に入ると、アレックスは驚いた。


まるで既に何者かが侵入したかの様な部屋の散乱の仕方だったからである。これが、ドールが必死に抵抗した証なのだろう。


散乱する物を飛び越えた時、アレックスは感じた。人の体はこんなにも軽いということを。華奢な体、細い毛並みは頼りないが、アレックスからすると、不思議と心強かった。これが、ドールが自分に向けてくれた愛の力なのだろうか。


 ・ ・ ・


 場所は屋敷の中の隠された地下倉庫。此処に赤ずきん達は監禁されていた。


「アイツ……あんな細い体でのこのこと現れるとはな……そんなに殺されたいのか」


 宙に映し出させるアレックスを食い尽くすかの様に画面に張り付いてロイは睨みつけた。


 その間、赤ずきんが皆に目配せをして呟いた。


「時間を稼ごう。皆、嫌だとは思うが命令を聞くんだ」


 男性陣の表情は苦いものだったが、女性陣は真摯に頷いた。怒りから荒々しい動きで振り向いたロイが、女性陣を舐め回す様に見て言う。


「さぁ、早く! 早く愛さないか!!」

「私が愛そう……愛せるものであれば」


 早々に答えたのは赤ずきんだった。ダンテを筆頭とした男性陣は驚きと動揺を隠せないが、誰一人として抵抗の声を上げることは無かった。


「ほぉう、ただし愛せなければ……分かるだろうな?」

「ああ。しかし旦那、そのドールと言う娘はもう旦那を愛せないと分かったはずだ。では、もう要らぬのでは? あの依頼者に返してやれば、きっと奴も引き返してくと思うぞ」

「わ、私……!?」


 赤ずきんと同様、ロイの魔法によって瞬間移動させられていたドールは困った様に赤ずきん達を見る。それは自分と彼が助かる手段ではあるが、もし彼女がロイを愛せなければ彼女は殺されてしまうかもしれないのだ。


「そうだな、それは名案だ。私を愛せないのならば……構わん、消えろ」

「まっ」


 待ってと言おうとしたが、ロイにその声が届くことは無かった。気がつけばドールはアレックスの目の前に移動していた。


「アレックス……何てかっこいい姿に……あっ」


 ドールは自分の発した言葉の意味に気づき、改めて顔を赤らめた。アレックスもつられて顔が赤くなる。

 暫しの沈黙が続いた時、ロイの声と映像が宙に浮かんだ。


「娘は返してやる。だから、もう私の邪魔をするな。私には時間が無いのでな」


 二人が言い返す間も無く、画面はプツリと消えた。二人が顔を見合わせて困った顔つきになると、やがてドールが思い出したかの様にロイの手を引いた。


「初めて見た部屋だったけど、地下だったと言うことは分かったわ。地下へいけそうな場所は……庭だと思うの。あの庭のお花、全て造花だったから」

「そうだったのか。しかし、私達だけで行って大丈夫だろうか?」

「分からない。だけれど、皆を放っておけないもの。……あの人もね」

「……人、か。やはり私と同じで……」


 ドールは一度頷き、あの部屋で見つけた日記のことをアレックスに話しながら、二人は庭へと移動した。


 ・ ・ ・


「……まだ、なのか」

「うむ。まだ私は旦那の性格を殆ど知れていない。愛すると言うことは、お互いを知ると言うことだと思わないか?」


 赤ずきんが上手いことロイの気を引こうとする。オーディエンスと化した他の面々はただただ頷く。しかし、ロイもそうそう騙される程馬鹿では無かった。痺れを切らすと、近くにあった物を壁へと蹴飛ばして、目を血走らせる。


「貴様……はなから愛する気など無いだろう」

「いや、ただ私は旦那を愛する為に」

「五月蝿い! 黙れ、だまれ!!」


 ロイは両手を広げると倉庫の中の重量感ある物が宙に浮く。どうやら赤ずきんにぶつけようとしているらしい。

「待って! 私が、私が代わりになる!! ハグでもキスでも何でもすれば良い!!!」

「ラン!!」


 赤ずきんの前へ両手を広げて立ち、ランがロイに言った。ハイネも思わず声が荒げた。ロイはハイネの方を睨んだが、すぐにニヤケ顔になると、ランへと近づき、獣の口元を近づける。ランも薄らと目を閉じつつ、手元にあるサーベルを静かに抜いて構えた。その時である。


「待ってくれ!」


 ロイの背後から、あの忌々しい声が聞こえてきた。ロイが振り向こうとした時、腹部の近くで光るサーベルが目に入ってしまった。


「貴様ァ……騙したな!!」

「くっ」

「もう良い、一斉で襲いかかるぞ!!」


 ハイネが声を上げると、此方も痺れを切らして全員が立ち上がる。この中には魔法を使える者もいる。ロイ一人を相手にするには充分すぎる数合わせだろう。


「貴様ら……!!」


 裏切りの様な感覚を覚えながらも、ロイは一人魔法で抵抗しようと尚も両手を上げる。その背中はどうしたものか、小さく、弱々しく見える。


 そんな背中があまりにも寂しくて。アレックスは思わずロイを後ろから抱きしめていた。


「な、何を……」

「お前は私と一緒だ。ずっと……ずっと……」


 アレックスが呟く中、ロイの体は少しずつ変化を遂げていた。それは、アレックス同様の五本の手足、引き締まった体。


「お前も私も、ずっと一人ぼっちだった」


 その言葉を言った頃には、ロイの体は完全なる人の姿へと戻っていた。


「何故、男のお前が愛など……お前にはドールがいると言うのに」

「愛には色々あるんだよ。でも、その色々な愛も、貴殿を深く知れないと捧げられないのさ。私達もドールさんも」


 赤ずきんの言葉に、誰もが頷いた。すると、ロイもハッとした顔つきになり、素直にアレックスを抱きしめて涙を流した。


 ・ ・ ・


 二匹の野獣の問題は無事解決し、監禁されていた人々もやっとのことで解放された。


「あの時はどうなることかと焦りましたね、赤ずきんさん」

「だねぇ」

「それはそうと……良かったんですか? 長期休暇なんてとって。それも、こんな異国の地でバカンスだなんて」


 解決をした赤ずきんとダンテは、現在異国の暑い土地にてバカンスを楽しんでいた。此方で言うハワイの様な場所だ。水色のトロピカルジュースを口に含みつつ、普段とは打って変わってビキニ姿に身を包んだ赤ずきんはあどけなくニカッと笑った。


「それは大丈夫だ、簡単な依頼は奴らに任せているしな」


 ダンテは苦笑いした。奴ら、それは二人が出かける前に託したアレックス、ドール、ロイの三人組のことである。あの一件以来、三人はとても仲が良い。アレックスとドールは互いを愛し合い、ロイも純粋に、二人を親愛する様になった。その三人だが、アレックスが依頼でお金を大半使用した影響もあり、赤ずきんの依頼を受け持つ役割を担っているのだ。とは言っても、彼等に事件を解決する頭脳は無い。雑用に似た事件で荒稼ぎさせる予定らしい。


「でもまぁ良いか……たまにはこういうのも」

「そうだなぁ。こういうのの間に、出来ることも沢山あるぞ? ……ダンテ」

「はい?」

「……鈍いなぁ、君は」


 赤ずきんはそう言うとダンテの手を引いて海へと飛び込んだ。


「まぁ、今はこれくらいで良いか。なぁ、楽しいだろう?」


 赤ずきんの問いに、ダンテは笑顔で答えた。


「はい!!」


(童話キャラは○○だった了)

今まで読んで下さった方、本当に有難う御座いました!!

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