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童話キャラは○○だった  作者: 素元安積
三匹のこぶたは英雄だった
14/18

四:俺VSアレ

「うーむ……にしても、情報提供が少なすぎると思わないかね?」

「ですよねぇ。これで探せなんて、無茶が過ぎるとは思ってたんです」

「此方は敵国だから当然だろうが、其方も少ないのか?」

「君達と同じさ。此処ら辺と言う位置情報くらいだ。これは余程規模の大きい物なのか、それとも……」


 赤ずきんは真剣な顔付きで眉をひそめる。


「それとも何だよ」

「……ううむ、何だろうか」


 ボケか。俺は顔をしかめて肩を落とした。赤ずきんは宙を見上げ苦笑気味だ。何を考えているのか全く読めない。そんな赤ずきんの顔を隠す様に俺の前へ兄貴が現れた。


「それにしても、良い人と出会えたみたいで安心した。何だか仲良いみたいだしさ」

「ど、何処がだよっ!! なぁ!?」


 怒りで顔を赤くしながらランの方を振り返ると、ランは視線を逸らし、小さく唇を動かす。


「……私は、さっきので少しは仲が近づいたと思ったのだが。浮かれていただけらしい」

「さっき? は?」

「……私には構わず、兄弟水いらずで話すと良い」


 さっきと言われても。今まで思い出してみるが、仲良くなった様な記憶があまりない。なんせアイツずっと顔も声のトーンも変わんねぇんだから。


「つか! 俺お前と仲良く話す気無いからな!!」

「ま、まぁそうだよな……お前には苦労かけた。今更仲良くしてくれ、なんてわがままは言わないよ」


 ……ん? 何かかなり空気が悪くなった気がする。兄貴はわかるが、何故ランまで黙り込む? 顔色が全く変わらないから怒ってるかどうかもわからない。


「推理もクソも無いしな……要するに、体力削って調べろって話かね。けれどあまり多くの人には知られたくないか。それじゃあ手に入れるのも一筋縄じゃいかない様な場所が図星だろうね」


 この空気を壊してくれたのが赤ずきん。ちょっと前までイライラしていた相手にこれ程感謝することは滅多に無いだろう。兄貴もランも赤ずきんの言葉に反応してくれたしな。


「一筋縄でいかない場所?」

「もしかして洞窟とか巣窟ですか?」

「うむ。流石助手君! 私の考えがわかってきてるじゃないか!!」

「いやぁまぁ」


 赤ずきんに頭を撫でられ、兄貴は尾を振りながら微笑む。だけど俺のヒンヤリとした視線に気付いたんだろうな、顔を赤くして赤ずきんの手をサッと頭から避けさせた。何時もああやって兄貴にご褒美をあげているのだろうか、兄貴の対応に赤ずきんは不思議そうに首を捻っていた。


「い、行きましょうか……ね!!」


 兄貴はさっきのくだりを無かったことにする様に素早く地図を取り出し、足早に地図に載っていた魔窟へ歩を進めた。此処は赤ずきんや兄貴の後ろに続いた方が早く事が終わりそうなので、俺達も何も言わず兄貴の背を追いかけた。


 ・ ・ ・


 暫く黙々と進んでいたが、兄貴の動きが止まったので俺等も足を止めた。目の先にあるのは目的地であった魔窟らしい。固まった泥がそのままでかいトンネルを作っちまったって感じの野性味溢れる見た目だ。


「確かに、此処ならばありそうだ」

「しかし、こんなわかりやすい場所の中にあるのだろうか。言出しっぺではあるが、やはりどうも納得がいかない」

「まぁまぁ、無かったら戻れば良いだけですよ。赤ずきんさんだって言ってたじゃないですか、体力削って見つけろって話だろって」

「かったるいなぁ……仕方あるまい」


 はいはいと兄貴に背を押され、赤ずきんは如何にも怠そうな様子で中へ入っていった。続いて俺とランも入っていく。始めはランの持っていたランプ一つを頼りにした、暗く不安定な状態だったが、暫く歩いていると火のついた蝋燭が幾つも台の上に置かれて幻想的な空間を作り出していた。


「この火、一体誰が……」

「此処の地域の人じゃ無いですか?」

「こんな寂れた場所にか?」

「きっとそうですよ」


 静寂な洞窟の中、赤ずきんと兄貴の会話がよく響く。俺はその様子を目で追うくらいだ。ランと話そうにも何だか話しかけられる雰囲気じゃない。さっき構うなって言われちまったしな……。


「凄く静かだな。獣の呻き声が全然聞こえ無いぞ」

「魔獣がいないなんてラッキーでしたね!!」

「……やはり君はまだ出来損ないみたいだな」

「ええっ!?」


 兄貴の間抜けな声に赤ずきんは呆れ顔を此方へ向けた。というよりかは、ランにだな。


「あまりにも静かだ。人気すら感じない。それなのに灯りがあるなんて……奇妙だとは思わないか?」

「ええ。……まるで……」


 ランは其処で言葉を止め、突然先頭に立って歩き始めた。一瞬見えた横顔は闘士に燃えている様に思えた。何やら嫌な予感しかしない。


「今回はさして時間はかからんだろうさ」

「え? さっきと全然違うじゃないですか!?」

「大丈夫。今回の推理は決定打だからね」

「ほぉう」


 ニヤついた顔で自信満々に言う赤ずきん。肝心の推理を教えてくれないので全く根拠が無いのだが、不思議と彼女から溢れ出る知性が周りを納得させる雰囲気を作っている。


 灯りの点いた道を見つけた、その先は一本道になっていたので、俺等はこの道をガンガン進む。しかし、魔窟と書かれているのに魔獣がいないのが妙に怪しい。もともとは魔窟でした、ってことなら展開が楽で良いんだが……。


 暫く歩いていると、今まで人の手なんて一切加えられてなかった様な道に大きな扉を見つけた。それも、扉には幾つもの白い札が当てられているのだ。ただでさえ分厚そうなこの扉に。目の前の光景は不気味な他無かった。


「ほれみろ! 星、確定だろう!!」

「って言うか……この先何か色々怖いことになってそうですけど……」

「だろうな。だから、この先は私一人で構わん。皆に迷惑をかけたからな」

「……だそうだが?」


 赤ずきんが俺へ視線を向け、ランの代わりに返答を誘う。兄貴も遅れて俺の方へ顔を向けた。


「馬鹿、何言ってんだ」


 赤ずきんと兄貴の間を割って入り、ランの下へ行って俺は答えた。


「これはもともと俺への仕事だ」

「だが、この先の相手は恐らく」

「何が恐らくだ、恐れてる場合じゃ無いだろ。女一人で戦いに行かせたら男が廃る」

「しかし!」

「大丈夫だ! お前となら!!」


 ランは数秒固まり、眉をひそめて俺を凝視した。ランの両手を握り、目を見てもう一度説得する。


「俺も行かせてくれ!!」


 少しの間俺の言葉に返答が無かったが、やがてサーベルを鞘から抜くと、俺に言った。


「剣を取れ」


 これは……きっと一緒に行っても良いってことだよな!? 俺はニィッと笑い、短剣を抜いて答えた。


「オウ!」

「……結構けっこう。そんじゃ、私達も二人の勇姿を見届けるとしますか」

「戦えるのか?」


 俺もランも意外そうに赤ずきんを見る。そんな俺等に対し、赤ずきんは腕を組んで仁王立ちすると、強気な表情で答えた。


「私をなめるな。……全然戦えないぞ!!」

「此処で待っていて下さい」


 赤ずきんへの返事は早かった。赤ずきんが全ての言葉を言い終える前にランは答えていた。何せ見た目通りの答えだ。


「待てまて早まるな。私達だってお荷物になる気は無い。自分の身は自分で守るから。どれ、私の好奇心を満たさせてくれたまえ」

「そんなこと出来るわけ」

「えいやっ!!」


 呆れるランを強引に退け、赤ずきんは次々に御札を引っペがし始めた。赤ずきんの行動を見て、兄貴も急いで剥がしにかかる。


「そう言われるだろうとは思ってたさ! ああ!! だから私達は自分の意思で行くことにする!!!」

「……ご勝手に」


 ランは額に手を当て、溜息混じりに答えた。


 数十枚あった御札を二人で剥がし終えると、心の準備も無しに赤ずきんが分厚い扉を押し開いた。


「うわっ!? そ、そんないきなりっ!!?」

「時が経つ程恐怖心は募るもの。だから……ほれ、行くぞ皆の衆!」


 赤ずきんを先頭とし、全員が扉の中へと入った。つっても中には誰もいる様には思えなかったが、赤ずきんが開けた扉が閉まり、轟音を立て終えると空気が一変した。


「何……この空気」

「余程の威圧だなぁ」


 警戒心を隠せないランと、予測していたのかニヤケ顔を隠せない赤ずきんが喋る。俺と兄貴は無言でその威圧を放っている方向を見る。


 ドシン! 音と共に大きく揺れる魔窟。天井から微かに砂埃が落ちた。震えの起こった場所は当然俺等の見つめる先だ。魔窟は何度も揺れ、その度に振動は俺等へと近づいてくる。赤ずきんと兄貴の前へ立ち、俺等は現れた魔獣を目に焼き付けた。その魔獣は剛毛に覆われ、象の様にガッチリとした体型をし、二つの角を生やしている。顔に嵩張る毛の向こう側から目を光らせて俺を睨みつけた途端、俺等の方へ突進してきた。


「行くぞハイネ!」

「あ、ああっ!!」


 つっても俺、こんなちゃんとした戦闘初めてだ。……まずどう動けば良いんだ。って! んなこと考えてる間も無いのか、んじゃどうすれば……。


「二手に別れろ! 幾ら早くても、向こうは体重がある。一度スピードを出せばなかなか止まれないはずだよ!!」


 後ろから聞こえてきたのは赤ずきんの声だ。……流石、名探偵と呼ばれるだけある。相手を見て一瞬で判断するなんてな。話を聞いた俺とランはそれぞれ魔獣の右、左に回った。


 俺等が避けた直後、魔獣は大きな鼻息を立てた。思い通りにならない体に怒りを覚えているみたいだ。


「はぁっ!」


 ランの力強い唸り声が聞こえてきた。反対側にいるので様子がわからないが、恐らく攻撃を仕掛けたってことだろう。続けて俺も力強い発声と共に短剣を体に突き刺した。


 ……はず、だった。だがオカシイ。


「……かってぇ!?」


 全然刺さらないのだ。俺の力不足と言うことなのか。そう思ってもう少し魔獣の様子を伺ってみる。ランの攻撃が魔獣にどう影響するか確認する為だ。


「くっ、何だ此奴は!」


 ランの苦言が聞こえてきた。魔獣の方は全く様子が変わらない。蚊に刺された程度とはまさに此奴の状態なのだろう。顔を覆う毛がウザったいのか、重たそうな頭をぐるぐると振り回して俺を見る。……また、狙いに来るか。


「赤ずきん! コイツめちゃくちゃかてぇぞ!!」

「もう少し様子を見たい、時間を稼いでくれ!」

「お、おう……」


 一度避ければ魔獣は一直線にしか動けない。体力はさほど減らないだろう。それもランもいるとなれば……赤ずきんの洞察に賭けるしか無いな。


「早くしろよっ!」


 俺は一直線に飛び掛ってくる魔獣から避けながら、赤ずきんに叫んだ。魔獣の方も俺等が何を考えているのか少なからずわかるらしい、さっきよりも走り出してから止まるまでの距離が短くなっている。


「ハイネ、大丈夫か」

「大丈夫だ。けど……この戦い、楽じゃ無さそうだな」

「ああ。弱点が何処かにあれば良いのだが……私の目は節穴の様だ」


 ランと合流し、共に魔獣を睨み付ける。二人が近づくことで、どちらかが逃げ、どちらかがその間休める様にと思ってくれてのことだと思う。体力はまだまだあるけど、やっぱり早いに越したことはない、赤ずきんに期待する。なんやかんやで、赤ずきんには一緒に入ってきてもらって正解だった。兄貴は華奢な赤ずきんの手を握り、もしもの時に備えてるし、危険性も恐らく無い。


 一二三(ひふみ)……俺等は数回同じ様なことを繰り返した。だが、赤ずきんは渋い顔付きだ。まだ駄目か。


「ぶるるるッ」


 魔獣が鼻息を荒げると、今まで狙っていた俺等から向きを変え、赤ずきんと兄貴の方へその体を向けた。


「走れますか、赤ずきんさん」

「……いいや、まだ良い」

「はい?」


 俺もランも動く様子の無い二人を不審そうに見る。……一体何を渋ってるんだ?


「もういいから避けろお前等!」


 俺が叫び声を上げても、二人は動く様子を見せない。何でだ、恐怖で身がすくんでいるのか? 兄貴はさておき、赤ずきんはそんな風には見えないんだが。だからと言ってああだこうだ言ってはいられないだろう。俺、そしてランが赤ずきん達を救い出そうと駆け寄ると、赤ずきんが俺等に手の平を向けて静止させた。そしてその直後、魔獣が赤ずきん達に襲いかかる直前だ。二人がしゃがみこんで魔獣の腹部へと潜り込んだのだ。


「な、何してんだお前等っ、早く出てこい!」

「待てまて。そう慌てなさんな」


 あの巨体の下に潜り込んで避けるなんて。踏まれたら簡単にぺしゃんこになるはずだ、慌てずにいられるわけが無い。俺等の心配などさておいて赤ずきんは魔獣の腹部に手を触れる。


「おお……これはっ!」


 魔獣の腹部を触った後、赤ずきんは楽しそうな笑顔に変わる。だが兄貴に手を引かれて魔獣の腹部下から脱出すると、二人は俺等の下へと駆け寄ってきた。


「自ら危険を冒してまで探ってきたのだ。収穫はあったのだろう?」


 ランはさっきの赤ずきんの行動で何やら感じ取っていたらしい。俺は魔獣に気を取られてばかりでそれどころじゃ無かったな……。ランの問いかけに、赤ずきんは笑顔で、「うむ!」と答えた。


「奴、外側は硬いみたいだが、腹部は外側に比べれば断然柔らかい。まぁちょっと硬いと言えば硬いが、何度か狙えば確実に仕留められるはず!」


 魔獣をよく見ると、外側の長い毛は腹部を覆い隠すかの様に長い。弱点をそう簡単にさらけ出しはしないってことか。言われてみればこんなにも単純な話だったとは、気付けなかった俺に軽く失望した。


「ならば早速行こう。危険が伴うが……今まで奴の正面攻撃を避けて来た私達ならきっと出来るはずだ」

「そうだな。赤ずきんに先越されてばっかじゃ俺等のいる意味が無ェ!」


 腰を低くし、魔獣の腹部下へと飛び込む体勢になる俺とラン。問題は飛び込んだ後、奴がどう動くかだ。体格の割に動きが早いから、あまり時間をかけているとまた赤ずきんと兄貴を狙いかねない。仕留めるならさっさとしないと。


 そんなことを考えつつ、まずは腹部の下へと入り込むことに成功。サラッと触れた毛並みは(のり)でくっつけた様に若干の硬さがあったが、確かに何度か攻撃すればいけそうだ。早速短剣を振り上げて束になった毛を切り外していく。


 だが、俺とランは異変に気付き、すぐさま腹部から脱出した。俺等が毛を切り落としたことにより、魔獣が過剰に反応し、地団駄を踏み始めたからだ。


「やはり、弱点はそう簡単に狙え無いか……」

「あそこも外側程じゃ無いが結構毛が硬いからね。それが逆に、内側の柔い肉の皮に強い反動を起こさせているみたいだ」

「要するに何だ……鼻毛を抜こうとしたら痛いのと一緒か?」

「まぁ大体そんな感じかな」


 確かに鼻毛は抜いた後も痛いが、抜けるまでの間も相当痛い。……何だか、気持ちがわかると少し同情しちまうな。


「あの状態では忍び込みづらい。どうすればいい?」

「攻撃したの君等だって覚えちゃっただろうしね~時間がどうこうしてくれる問題では無さそう。何とかあの魔獣の動きを止めないとね」

「ならばハイネに囮になってもらって私が中へ行くか……」

「もし私が狙われた場合は? さっきみたいに何度も上手く避けられる自信はあまり無いぞ」

「ふむ……」


 顎に手を添え、顰めっ面になるラン。確かに俺一人で二人を抱えて避けられないな。せめて兄貴が怪我してなけりゃあもっと不自由無く戦えそうなんだが……とは言えない。それを一番思っているのはランだろうからな。


「ランなら二人抱えられるか? だったら俺が行く」

「……平気か? 今の奴は錯乱しているのだぞ?」

「けど、他に手は無いだろ。やるだけやってみるさ」

「わかった」


 ランが赤ずきん達の前に立つと、錯乱状態の魔獣がラン達を狙って走り出した。その足取りはかなりよたよたしていて、逆に攻撃しづらい。それ以前に忍び込めるかも不安だ。一足先に避け、魔獣の近くに移動して入れるタイミングを伺う。数分様子を伺ったが、外側の硬い毛が大きく揺れ、しかもあの巨体を支える四本の足が不規則に上げ下げされる。目の前が凶器に溢れている……ヤバイな、これじゃあ何時までも飛び込めないぞ。


「ハイネ! やはり私が!!」

「俺に任せろ!!」


 此処で女に任せたら男が廃る。もう此処まで来たらなる様になれ! 俺は僅かに空いた隙間に賭けて飛び込んだ。


「くっ……」


 腹部下に入ることには成功したが、腕に奴の剛毛が掠った。血が滲んではいるが、傷が浅い。動くには十分だ。入る途中で死んじまうんじゃないかと思ってくらいだし、この程度で済んだのなら有難い話。それより問題はこっからか。暴れる此奴に攻撃をすれば、更に暴れるはずだ。そうなれば、俺の危険性は確実に上がる。攻撃すればする程、リスクも上がる。そんでもって仮に倒すことに成功したとしても……出られるのだろうか? 横に倒れてくれれば幸いだが、そのまま俯せになられたらこっちまで潰されて窒息する。


「しゃらくせぇ、どうせこんな頭じゃ考えるだけ無駄だ。やるっきゃない!」


 俺は一人声を荒げて短剣を振り回した。まずは此奴が派手に動く前に動きを止めないと。硬い毛に向かって何度も腕を振り上げ、刃を滑らせる。骨が折れそうな程何度も。もう二の腕がパンパンだ。


 ギュルギュルと気味の悪い悲鳴を上げ、魔獣は地面を壊しそうな勢いで地団駄を踏む。言葉通り危険と隣り合わせな状態だったが、幸い逃げ惑いはしない。


「……いけるっ!」


 なるべく一箇所を集中して狙ったこともあって、壁となって立ちはだかっていた毛も殆ど地面に落ち、もう少しで地肌に辿り着く。もしかしたらこの一撃に力を込めて当てればそのまま貫通出来るかもしれない。いや、きっと出来るはず。俺はこの一撃にこれでもかと力を込めて腕を振り上げた。


 しかし、一転した。今までその場から移動しようとしなかった。魔獣が数十センチ程動いた。攻撃は勿論外れたけど、問題は其処じゃない。このまま中にいれば、俺は確実にこの中で……。無慈悲に激しく揺れだす魔獣。不規則な凶器達に、俺はなすすべなく立ち尽くしていた。


「は、ハイネ!」


 ランの声と同時に、凄まじい轟音が聞こえてきた。其奴は俺の見えないところから、俺がハッと視線をあちらこちらへ変えると、足元が水浸しになっていた。


「……水?」


 俺が呟いた直後、あの大きく、硬く、重たい魔獣が吹っ飛んだ。屈んでいた俺は、想定もしなかったイレギュラーな光景に目を点にした。


「姉さん!?」


 ランの声で俺は即座に振り返った。そして、同時に納得した。俺の視線の先には子豚ちゃんことロンさんと、麗しきレンさんがいたのだ。彼女等はあくまでも何時もと変わらぬ態度だった。ロンさんはおどおどとし、レンさんはニコニコと微笑んでいた。

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