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童話キャラは○○だった  作者: 素元安積
赤ずきんは探偵だった
10/18

二:解決しよう

 人呼んで赤い頭巾の奥の真実こと赤ずきんであるが、彼女だって決して天才では無いのだ。


 彼女は至って普通の父や母から生まれている。


 鳶が鷹を生んだとよく言うモノだが、優れた鷹と呼ばれるまでも、そう呼ばれるまでの努力が伴う。


 赤ずきんは他の事件を同時進行でこなして行くその間も、次はダンテの父親は何処に盗みに入るかを今まで盗みに行った場所から候補を絞り出していった。


 それも、あくまでダンテの見えない所で。


「……分かった」

「え、な、何がですか!?」


 赤ずきんが振り向くと、夕暮れに伴って逆光状態になる。


 その状態で、赤ずきんはずんずんとダンテに近づき、ダンテの手首を握った。


「急ごう。もしかしたら……もしかしたら」


 強引にダンテをつれ、走り出した赤ずきんは明らかに焦っていた。父親のことを考えて動揺しているダンテから見ても分かる程。


 ・ ・ ・


 着いたのは、ダンテの見覚えのある場所だった。


「此処は……」


 父親が始めて貧困者達と出会い、そして父親が此処の貧困者のためにと盗みを働き出した場所。


 この世界はあまり平等格差は少ないが、この場所に関して言えば覆されてしまう。


 貧困者は激しい労働、貧しい女性は裕福者に体を売る世界だった。だからこそ、始めは父親の正義をダンテは誇りに思っていたのだ。


「ここら辺で一番裕福なのは、此処の一番上。(クニ)だな」


 父が幾ら金品を盗んでも、此処を収めている国の上の者達がその増えた金を税金として巻き上げる。

 どんなに正義を尽くしても、一時の時間稼ぎにならない上に、此処の一番悪い人間達に結局は儲けが言ってしまう。


 国もコレがその盗まれた金である事は当然気づいているだろう。


 だが、国は気づかないフリをして儲けとしてがっぽり頂いているのだから。もはや父親にはダンテも呆れしか感じられない。


 しかし、そんな事を言っても聞いてはもらえない。それどころか母親の様に父親の暴力の的となってしまう。


 無駄なことはするに越したことは無いと、ダンテもあえて口にはしなかった。


「オヤジさんだってもうそろそろ気づいているよ。こんなもの、何度繰り返しても意味が無いと。だからこそ、根本を叩きなおそうと思っているに違いない。……むしろ、これだけ金持ちの家漁ってたら、此処を狙わない方がおかしい」


 まさか、こんな形で親父と顔を合わせる事になるとは。


 複雑な気持ちを隠しきれないダンテだが、胸に手を当てて唇をキュッと噛む。


「心の準備は出来ているな?」

「はい。急ぎましょう」


 ダンテの言葉に、赤ずきんは頷き、二人共国の収める城へと走り出した。


 ・ ・ ・


「良きことかな良きことかな。何処の誰がこんな馬鹿な事をしているか知らないが、お陰様でこっちはボロ儲けだ」

「そうですね王様」


 美しい女性を周りに集め、肉々しい体型の王は汗を札束で拭き、その金を女性へと渡している。


 もらえる金なら何でもいいと言うところだろうか。女性達はこぞって取り合い、満面の笑みで、「有難う御座います」と王様に肌をすり寄せている。


 扉の隙間から見える光景はダンテにとっては残酷なものだ。


 予想はしていたが、実際に父親が一生懸命盗んだその金をタオル代わりにされているのを見ると、ダンテは怒りのあまり額に血管が浮き出る。


「入るぞ助手君。なので、その顔は何とかしてくれ」


 赤ずきんの言葉にハッとし、ダンテは正気を取り戻し、表情を先程の緊張感のある状態に戻した。


「すみません」


 赤ずきんが振り向き、一回頷くと、扉に手を当てて二回ノックする。一人の男性執事が扉を開けると、探偵の赤ずきんである事を説明し、執事に中に入れてもらった。


「む!? ……その赤い頭巾、まさか貴方様は」


 王は冷や汗をかき、焦っている様子がよく分かる。女性陣も粗方事情を知っているのか、困った様に王の腕を掴んだり、王の後ろに移動したりとする。


「探偵社“RED HOOD(レッドフード)”所属の赤ずきんです。此方は私の助手のダンテです」


 二人はペコリと頭を下げた。


「探偵様が一体此方にどの様なご用件でしょう?」


 引きつった笑みで王が尋ねる。上ずった声に怪しい匂いをプンプンさせている。


「最近、此方のお金周りが良くなったそうですね」

「ええ。お陰様で順調で御座います。ハイ」


 笑顔、声、態度には赤ずきんに媚びている事がよく分かる。


 手を握り、ゴマをする王であろう男のその態度に、ダンテは失望すら覚えた。


「それとは関係の無い話ですが、最近野蛮な金取り鼠が出没している様なのですが、此方は大丈夫ですか? 此方のお金周りが良くなっていることをその鼠も知っているのでは無いかと(わたくし)共心配になりまして、此処まで来た次第で御座います」

「それは大丈夫です! 何せウチの警備はげんじゅ……」


 赤ずきんの言葉に自信満々に王が答えようとしたその時、下の階から不穏な、ガラスの割れる音が聞こえた。


「まさか!!」


 王があたふたとしていると、其処へ兵士がやって来る。


「犯人を追うぞ助手君!!」

「は、はい!?」


 完璧な推理を毎度披露していた赤ずきんが、ダンテの前で始めて推理を間違えてしまった。


 正確には、推理自体は間違っていなかった。


 だが、犯人を逃してしまったのだ。


 王が二人を呼び止めようとした頃には既に遅く、逃した父親を追うべく、二人の姿はいなくなっていた。


「オヤジ……一体何処に」

「なぁ、君のオヤジさんのこの行動、本当に人のためだと思うかい?」

「……え?」

「目には目をとはよく言うが、普通此処で取ってしまえば、此処の下民にお金をばらまいてもイタチごっこだと思うのだ。だが、お父さんはあそこからお金を取った。自分が捕まるリスクがあったのに」

「でも、あのオヤジなら有り得るんじゃないかと思います」


 気づけばもう空は暗くなっていた。


 建物のライトや星が視界を開かせてはいるものの、夜空は物悲しい世界を何処までも広げている。


「絶望したのでは無いかと思うのだ」

「ぜつぼう?」


 夜風に吹かれ、赤ずきんの頭巾が髪から離れてそよそよと揺れている。


「自分のした正義が違うと気づき、全てを無かったことにしたかったのでは無いかと」


 赤ずきんは懐からボイスレコーダーを取り出した。録音機は探偵の必需品である。


 そして、機械から流れるのは見知らぬ男達の会話だった。


『あの人、またお金落としてったな。良い金ヅルだぜ』

『全くだな。このお陰で多少仕事サボっても怒られないし、汗かく手間も省けたってもんだよ』

『でも、他人のためにこんな金取ってくるなんて、アイツも馬鹿だよなぁ!』


 心無い会話に、ダンテは腸が煮えくり返る様な怒りに駆られる。


 小刻みに震えるダンテの腕を強く掴み、ダンテの意識を此方に戻すと、赤ずきんは言った。


「現実とは残酷なモノだ。けれどな? 助手君、そんな残酷な現実が、変わってしまった人を元に戻してくれる。そう、思わないか?」


 ダンテには赤ずきんの言葉の意味が分からなかった。


 首を傾げ、「へ……?」と、今にも泣き出しそうな揺れる瞳で返した。


「オヤジさんは、きっと元に戻ろうとしていると思うんだ」


 赤ずきんはその瞳を見上げながら優しくダンテに言った。


「私達は待っていよう。あの家で」


 ダンテは、溢れ落ちそうな涙を堪えて、小さく頷いた。


 ・ ・ ・


 十二時を過ぎ、新しい一日が始まってしまった。


 それまでの間、母親の苦しげな声はテレビもラジオもないこの家には嫌という程聞こえた。


 赤ずきんはその声を聞く度に複雑そうな表情をしていた。


「……帰ってくるでしょうか?」

「私の推理が正しければな」


 やがて、ダンテも赤ずきんも昨日の疲れが溜まっていたのか眠りについてしまった。


 二人が目を覚ました頃には、眩しい光が差し込んでいた。


 ・ ・ ・


 家のチャイムが鳴り、ダンテが父親かと思って急いで扉を開けると、其処にいたのは父親では無く、家に来るはずの無い新聞屋だった。


「号外です!!」


 ダンテが新聞を見ると、号外の記事は予想外の内容だった。


「赤ずきんさん! 盗んだお金が全て元のお屋敷に戻ったと……!!」


 赤ずきんが急いでダンテの隣へと走って行き、記事を見ると一面にでかでかと乗っていた。


 盗んだお金が元の屋敷に戻ったこと、そして、そのお金を盗んだ国の王の会話を記録された機械はお金を返された屋敷の一つに落とされていたことが書かれていた。


 この事実が明らかになってしまい、現在あの国の王は今大きく問題視されているらしい。


 尻尾や耳を動かして嬉しそうにしていたダンテだが、すぐさま表情は困惑に変わる。


「それなのに何でオヤジは戻って来ていないんだ……!?」

「……いいや、戻ってきているみたいだぞ」


 赤ずきんがわざとらしく虫眼鏡で足跡を覗く。


 二人で静かにその方向へと行き、そっと扉を開けると、赤ずきんもダンテも思わず頬を緩ませた。


 閉ざされていた扉の向こうには、怯える妻を優しく包み込むように抱きしめているダンテの父親がいた。


 静かに扉を閉め、家から出ると、赤ずきんがニンマリと笑い、ダンテに言った。


「な? 私の推理は合っていただろう?」


 ダンテは赤ずきんのおどけた質問に笑顔で返した。


「それじゃあ、私達も戻ろうか。依頼はまだまだあるんだ。お前もお前のお父さんも犯罪者なのだ。お前には、一生をかけてお父さんの分まで罪を償ってもらうからな!!」


 赤ずきんは何時もの調子に戻り、ダンテを強引にしゃがませて、またダンテの顎に手を添えた。


「はい! 一生かけて償います!!」

「宜しい」


 赤ずきんがドヤ顔を見せつけると、ダンテからすぐさま手を離し、背を向けて歩き出して行く。


 ダンテはそんな赤ずきんの隣へと走って向かった。


(五話了)

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