10:雨女+雨男=恋の始まり?
「どうして雨なわけ?」
みちるはタバコ屋の狭い軒下で雨宿りしながら、恨めしそうにグレーの空を見上げた。
「今日は雨が降るなんて言ってなかったのに」
今朝は天気予報をしっかりとチェックして学校に向かったみちるだったが、クラブ活動を終え、帰りのバスの中で雨に遭遇した。
「また傘を忘れたのですか?」
傘を差したスーツ姿のジェイムスが雨にも負けない清々しい笑顔でやってくる。
「また、って人聞きが悪いわね。天気予報が外れたのが悪いんじゃない」
優越感に浸っているジェイムスにみちるはぷぅと頬をふくらませる。
ジェイムスと会うのは一週間ぶりだった。
どこでかぎつけてきたのか、有名私立高校のスキャンダルにマスコミが押しかけてきたおかげで、部員が激減し、秀越高校バスケットボール部は廃部の危機にまで追い込まれていた。混乱したバスケットボール部をまとめるのは大変だった。みちるは貴美枝といっしょにバスケットボール部の再建に努めた。そのかいあって廃部の危機だけは免れたが、以前のような活気が戻ってくるのはまだまだ先だろう。しかし、梨花子や輝が帰ってくる頃までには昔のような最強のバスケットボール部を復活させたいと、みちるは思った。
「だいたいあたしをここに呼び出したのはそっちなんですからね。ジェイムスってば、雨男なんじゃないの?」
「よく言われます。でも、みちるさんもではないですか?」
「あたしは言われたことありません!」
ジェイムスは傘を閉じて、軒下に入ってくる。
ジェイムスから電話があったのは昨夜のことだった。クラブが終わってからでかまわないので、初めて出会ったタバコ屋の軒下で待っていてほしいと言ってきたのだ。
みちるは文句を言いながらも、ジェイムスとの再会で荒んだ心が癒されていくのを感じた。
「それで、話って何?」
「単刀直入に言わせていただきます」
「はい、どうぞ」
「あなたがほしいです」
「えっ?」
みちるの心拍数が一気に上昇した。
「ほしい、って?」
「その言葉の通りです」
「そ、そんなこと言って……もう騙されないんだから!」
「ボクは本気ですよ」
いつになく真摯の眼差しで見つめてくるジェイムスに、みちるはときめく心を抑えきれずにいた。
「そ、そんなこと急に言われても、心の準備が……。ほら、あたしまだ高校生だし。やっぱりちゃんと順序を踏まないと」
みちるの頭は真っ白になっていた。
「そうですか。では、今日の話はなかったということで……また日を改めて」
ジェイムスがあっさりと引き下がる。
「あ、いやその……別に嫌ってわけじゃなくて」
「では、OKと思っていいのですね?」
みちるは頬を紅潮させ、小さくうなずいた。
「でも、やっぱり時期が時期だし……今はそんなにデートもできないと思うし……」
「社長、みちるさんからOKの返事をいただきました」
ジェイムスは琳子に電話をそう告げると、すぐに切った。
「へ?」
みちるが呆然としていると。
「実は今度社長が探偵業をやりたいと言い出しまして、優秀な人材を探していたのです」
みちるは状況を把握しようと努める。
「みちるさんのことを社長にお話したら、ぜひみちるさんをほしいと望まれまして」
「じゃあ何? あたしのことがほしいのはジェイムスではなくて」
「はい。社長です」
「………………」
みちるは全身が萎えていくのを感じた。そして、次第に怒りが沸々とこみ上げてくる。
「返せ……」
「はい?」
「あたしのときめき心返せ! このペテン師!」
「そう言われましても、もう社長には返事を伝えてしまいましたし」
「冗談じゃないわよ! あたしはキャプテンなのよ! これからバスケ部再建のためにがんばらなきゃいけないのに、そんな暇あるわけないでしょ!」
「あの人を敵に回さない方がいいですよ。長生きしたいのならば」
ジェイムスが怖いことを爽やか笑顔に乗せてさらりと言ってくる。
「もう嫌だーっ!」
みちるの叫びは激しい雨音にかき消されていった。
終わり
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