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7:夕立ちと女心はすぐ晴れる(4)


「やだぁ!」

「マジかよ?」

 梨花子と輝は雨を回避しようと走り出した。みちるは走る気になれなかった。

「みちるさん、急がないとまたセーラー服がびしょぬれになりますよ」

 そう言って、ジェイムスがみちるの手を引っ張った。

「あそこの公園、ベンチに屋根があるぜ!」

 輝の声に一同は公園に向かった。

「んもぉ、最悪ぅ」

 梨花子はハンカチで濡れた髪を一生懸命拭いている。

 輝は濡れた犬のように全身を振り回し、雨を飛び散らせていた。

「もぉう、輝ったらぁ。こっちに散ってくるぅ!」

「少々のことで文句言ってんじゃねぇよ」

 輝はわざと大げさに全身を振り回した。

 みちるは呆然とその光景を見つめていた。

「いくら夏だからといっても拭かないと体が冷えてしまいますよ」

 ジェイムスがハンカチを差し出してくる。

「あ、大丈夫。自分ので拭くから」

「気になりますか、死亡推定時刻が」

 ジェイムスの言葉に、みちるは拭いていたハンカチを落としそうになる。

「あの時……」

 みちるは次の言葉を躊躇した。勘違いかもしれない。みちるは今自分が思っていることを口にする勇気がなかった。

 しかし、ジェイムスもあの場にいた。確認するなら今がチャンスかもしれない。

「あの」

 と、みちるが言いかけて。

 眼界に稲妻が走った。しばらくして、お腹に響き渡るような雷鳴が轟いた。

「きゃあ!」

 わざとらしい悲鳴が聞こえてきたかと思うと、梨花子がジェイムスの右腕に、輝がジェイムスの左腕にしがみついてきた。

「落ちてきたらぁどうしようぉ」

「怖い、ジェイムス」

 稲妻が見えてから雷鳴が聞こえるまでの時間を考えると、まだ遠い。しかも、いつもは稲妻がキレイなどと言って騒いでいる梨花子と輝である。雷が怖いはずがない。

 また稲妻が走る。

「きゃあ!」

 梨花子と輝が悲鳴を上げて、ジェイムスにしがみつく。

 みちるはあきれて何も言う気にはなれなかったというより、自分は雷鳴を聞かないようにすることに必死だった。

 そして、三度目の稲妻が走った。

 直後、雷鳴が轟く。



「大丈夫ですよ、みちるさん。落ちてきたりしませんから」

 ジェイムスの言葉に、みちるは自分がジェイムスの背中に抱きついていることに気付いた。

「ご、ごめん!」

 慌てて離れる。

 実は雷が大の苦手のみちるだった。周りに人がいる時は何とかやせ我慢できるが、あまりにも近くでなった時はさすがに我慢することができなく、自分の隣にいる人に抱きついたりしていた。

 秀越高校に入ってからはそういう状況に陥ったことがなかったので、梨花子も輝もみちるの雷嫌いは知らないはずである。その証拠に二人からの軽蔑の眼差しは厳しい。

 みちるはいたたまれなくなり、ジェイムスから少し距離を置いた。

 この豪雨の中、公園前の道路を走っていく黄色い車が眼界に入ってきた。

「あれ、ランボルギーニガヤルドじゃん。さすが高級住宅街! 二千万円もするような車が走ってるなんて」

 外車通の輝は双眸を輝かした。が、その双眸から輝きは喪失した。

「三条?」

 輝の言葉を聞いて、みちるも車を目で追った。

 運転席に乗っているのは、三条だった。しかも、助手席には清香がいる。

「三条ってあたしたちと同じ十七歳なのに、何で車の運転ができるわけ?」

「んなの無免に決まってんだろう。オートマだったらアタシでも運転できるぜ!」

「それよりぃ、真木キャプテンとすっごくラブラブムードだったわよねぇ」

 動体視力が優れている梨花子には車内の様子がしっかりと見てとれたのだろう。それは輝やみちるも同じだが。

 それよりも気になったのは、車の進行方向だった。自宅とは逆方向に向かって走っていった。ということは、さっきまで自宅にいてみちるたちがいなくなったことを確認してから外出したことになる。

 居留守を使ったということは、やはり何かやましいことがあるのだろうか。

「この様子では明日も居留守を使われそうですね」

 と、ジェイムス。

「明後日から二学期が始まるから嫌でも顔を合わせることにはなると思うんだけど、素直に登校するかどうかもこれじゃあわからないわね」

 みちるは嘆息して空を仰いだ。

 夕立はいつの間にか止んで、雲の隙間から一番星である木星が輝いていた。

「明日、竹ノ内くんに会いに行ってみませんか?」

 そう言ったのはジェイムスだった。

 みちるは黙ってうなずいた。







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