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騎士と

私の騎士

作者: ポン


私達の国は、緑と水の溢れかえる美しい国だったらしい。

今では、その緑と水に呑まれた国だ。


聞いた話だと、私が暮らしている国の名は、「東の国」、と言うらしい。

…さっきから、やけに他人事のようだけれど、私が元々知っていたわけじゃなくて、知り合い…いや友人に聞いた話だから。


植物に覆われた私の家。

木の内側で生活している私。


この国では、家は木であり、それが普通。


昔は石と鉄で出来ていたらしい。

まあ、この話も友人から聞きました。


私の友人は、とても…まあ、その…物凄く、人間離れした超人(?)とでも言っておきましょう。

何てったって、この世界で、只一人の「騎士(ナイト)」の称号を持っている化け…超人だから。


絵本に出て来る騎士と比べると、本当に人間離れしているの。

え、剣術?それは見えない。

ん、体術?いつの間にか相手倒れてる。

魔術?おー、お、お?何だこれ?の世界。


兎に角、私の友人は、絵本に出て来るカッコいい騎士様なんかでは無く…いや顔はかっこいいけれど、それ以外が超人の騎士様なのです。


そんな友人ですが、なぜか、何故かね…。


お前近すぎ、と何度言っても分からないくらい私の傍に居るんですよ。


「ちょっとナイトさん。近すぎじゃない?」


もう何度目か分からない台詞を吐く。

いや本当に勘弁してほしい。


「私はこの距離が丁度良いんだ。それよりも、前見ないと死ぬぞ」

「え、うわっ!本当だ、死にそう…このステージ難易度高いなあ…」

「マシンガンばかり使っているからだろう。弾の消費が激しい武器を選ぶなと、何度言えばわかるんだ。このステージは、5mm口径のハンドガンタイプにしろと言っただろ」

「マシンガンは夢とロマンが詰まってる武器なんです。それに、ナイトさんが近いから、コントローラー持ち難い」

「この位慣れろ」


いやいや、如何慣れろと言うんだ。

恋愛的なシチュエーションだよ、これ。


だって私、抱きしめられてる。

抱擁?うん、ソレだ。抱擁されてる。


ゲームしてるだけなのに、後ろから抱きしめられてる。

しかし...何だろうね。こう、胸がドキドキとか、恥ずかしいとか、顔が熱くなるとか、そんな現象は起きない。

いやあ、起きないね。さっぱり湧き起らない。


紹介が遅れたけれど、ゲームをしている私を、後ろから抱きしめている…世界で只一人の騎士様。

通称、ナイトさん。

え?何故通称ですって?

そんなもの、ナイトさんの本名が長――――――――――――い、からに決まっている。


お前どこの画家だよ、って言ってやったよ。


「あ、死んだ。殺したと思った敵が、起き上がって襲い掛かって来るとか…なんて残酷な世界なんだ」

「だから、お前の装備と武器が悪いとさっきから言っているだろう」

「ナイトさん。この手の敵は軽装とマシンガンってお約束があるじゃない」

「無いな。それよりも、そろそろ歌姫のステージが現れるんじゃないか?」

「あ」


気が付かなかった。

床に置いてある、目覚まし時計を見れば、午後の3時に差し掛かる。


「うわーーー!?本当だ、如何しよ!私、歌姫ステージ楽しみに待ってたのに、なんてこった!!!間に合うかな!?あわわ、カセット、カセット何処よ!?」

「もう差し込んだ。落ち着け、十分に間に合う」


お前は一体いつ動いたんだよ。

動いてないよね?動いてないのに、カセットが差し込まれてるってどゆことさ。


ナイトさんに頼んで、頼んで頼み込んだ、先着500名限定の「歌姫」が出て来るステージコンテンツ。

いやあ、世界の騎士様をパシリに使ってしまう私。

でもナイトさんも、「分かった」とか言って、何事も無かったかのように買ってくるんだから怖い。


先着とは、早い者勝ち。


其処にあるのは、一日の空腹や、睡魔など…力では及ばない世界だと言うのに...やっぱり私の友人って化け物だわ。


「ナイトさんって、本物の歌姫にあった事があるんでしょ?どんな人なの」


ナイトさんに聞いた話だと、歌姫は「北の国」に居るらしい。

昔は、誰も見たことが無かったそうだけど...ナイトさん何故知っている?


「どんな人…か。それはお前、歌姫はおと………」

「おと?」

「大人し過ぎで、部屋から出てこないんだ」

「まじか。それなのに、ゲームでは出て来るんだ」

「ゲームは所詮幻想だ。本人じゃないから、あいつも安心できるんだろ」

「成程」


話が終わるころには、ローディングも終わり、歌姫が現れるステージが広がった。

幻想的…神秘的な古城に、大きな湖。


「ありがちなステージっすね」

「…………そうだ、な」


どうやら歌姫のステージは夜の時間帯だ。

天候は晴れ、星が色取り取りに輝いている。


キャラクターを進めて行けば、当然敵もエンカウントされ出て来る。

まあ、歌姫ステージの難易度はイージーに設定してあるから、ゲームオーバーに成る事は…たぶんない。


其れよりも、先程からナイトさんが静か。

何時もなら、警戒しろとか、武器が駄目だとか口煩く言うナイトさんが、静かだ。


「...ああ、懐かしいな。あいつはやっぱり忘れないんだな」


意味深な独り言か。

いやナイトさんの独り言はよくある。


「何さナイトさん。もしかして、私がいない間に、歌姫ステージやったの?」

「私がお前の傍を離れた事があったか?」

「無いですね」

「懐かしいのは、歌姫ステージじゃない。私が懐かしいと思うのは、この背景だ」


懐かしいのは、この背景だ…って。

それさ、ナイトさんよ。ゲームやったことのある人の台詞だよ。


もしかして、この持ってきてくれた奴、ナイトさんのだったりする?

お古?まさかのお古?

いやでもね、このコンテンツつい最近どころ話じゃなくて、一昨日発売されたばかりだよね?

どんな腕持ってるんだよ、この人…。

いやそれに、懐かしいって...友人の記憶力は大丈夫か?


「………あのさ、一回病院でも行って来れば?騎士様なんだし、きっとお安く診てもらえるよ」

「あのな、前に過去の東の国の事について、お前に話をしただろ」

「あー、うん。お姫様の話もあったね」

「...この歌姫ステージは、終わりを迎える東の国にそっくりなんだよ」

「終わりを迎える…って何でナイトさんが知ってるの?」


今は植物に呑まれているが、過去の東の国はもう何百年も前の話だ。


「なに、私もその時、その場所に居たからな」

「まさかのそのパターン?私、ナイトさんは何度も輪廻転生してるのかと思ってたけど、まさかの不老不死パターンですか。まじか…」

「此処は普通に受け止めるパターンでもないからな。もう少し何かリアクションしろ」

「無茶ぶりは酷い」


もう何度も、この騎士様が人からかけ離れた超外生物だと言うのは目にしている。


私が迷子に成れば、迷子になった傍に居るし。

私が泣いた時なんか、何故かタオル持ってスタンバってたし。

何があっても、ナイトさんは私の傍から離れようとはしなかったし、離れなかった。


「まあ、輪廻転生とやらをしているのは私では無く…………」

「お前なんだよ!ってパターンだな。大丈夫、よくあるから」

「だから、受け止める所じゃないって言ってるだろ」




        ———————




...と、まあ毎日こんな感じで過ごしています。


ナイトさんがあの後話してくれたけど、私は何時だってナイトさんの主だそうだ。

だから、ナイトさんは片時も私の傍を離れず、24時間365日…仕事していますね。

休みは無いです。ブラック企業なんで。


ナイトさんが何処に住んでるのかって?

そんなものナイトさんの家に決まっています。


普通私の家なんじゃないのかって?

いやいや、私4人家族ですけれど、そんな中で暮せと?無理ですね。


どこぞの拉致監禁とか、束縛とかそんなんは無いです。

有ったら凄いね。これ以上私を堕落させるつもりか?良い度胸だ、受けて立つぜ。ただしゲームと3食おやつ付きでね。


しかし最近、「ゲームのし過ぎで、お前の許容量が訳の分からない事になっているんじゃ…」と心配されています。

大丈夫ですよ。私は元々こんな感じでしたから。


それに、心配はしているけれど、ナイトさんは私がどんなにゲームをやり過ぎても取り上げる事はしません。

何徹しようが、夜行性になろうが、取り上げたりしないんですよ。凄いよね、これは本当にすごいよね。


それどころか、身体は人を超えているので、私と一緒に毛布被ってゲームしたりしますよ。

世界で只一人の騎士様がゲーム…面白いよね。


でもナイトさんの一番驚くところは人外的な部分じゃなくて、ゲームを攻略するのが滅茶苦茶美味いんだよ。間違えた、上手いんですよ。


初見な筈なのに、罠の場所とか、敵の弱点とか知ってるんだよ。

お前其れはネタバレだろって?うん、そうだね。若干冷める時もあるけど、もう慣れて来た。




あ、そろそろ行かないと。

ゴメンね、もう少し話がしたかったんだけど、ナイトさんが待ってるんだ。

私の騎士様は、心配性だから。


心配なんてしなくていいよ。

私の騎士様はいざと成ったら凄いから。

きっと何でも蒟蒻切るようにスパスパ切ってくれるよ。


だから、大丈夫。



だって、私の騎士様だもの。



それじゃあ、またね。





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