満足な豚
「お父さんは幸せ?
あと、正しいことってなに?」
娘が家に帰ってきて早々、
こんなことを父親に尋ねた。
幼稚園でなにか聞いてきたのだろうか。
この年齢になって娘は
いろいろなことを訊くようになった。
『この子の中でその二つは
どのように繋がっているのだろう?』
と彼は思ったが
『考えて分かることでもないか』
と結論づけた。
彼は娘に言った。
「お父さんは今まで生きてきて
生きる上でなにが大切なのか
この世界でなにが正しいのか
なにも分からなかった。
今でも分からないよ。
効率の悪い生き方だったし
物事を考え始めるのが
他の人たちより遅かったからかな?
それでもお父さんは
今の生活が幸せだし
この人生に満足しているよ。
そう── 僕は満足な豚なんだ」
「まんぞくなぶた?」
「そう。満足な豚」
「でもお父さんは人間だよ?」
「あっはは。そうだね。
これは言葉の綾というか
言葉遊びみたいなものだよ。
勉強すれば分かるかもしれないね」
「むずかしい。わかんない」
「だよなぁ。でもね、
一つだけ確かなことがあるんだ。
それはお父さんにとって
お母さんと玲穂が一番大切ってこと」
そう言って彼は娘の頭をなで、
娘は幸せそうに微笑んだ。