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ハムレット 第一幕/第一場

作者: 中ノ 晁

原作「Hamlet」著:William Shakespeare(1564-1616)


原文参考

(http://www.opensourceshakespeare.org/views/plays/play_view.php?WorkID=hamlet&Scope=entire&pleasewait=1&msg=pl#a1,s1)

(http://james.3zoku.com/shakespeare/hamlet/)

前ULRに掲載の原文には誤記が見受けられたため、複数のサイトに依った。


参考文献

「シェイクスピア全集1 『ハムレット』」訳:松岡和子 出版:ちくま文庫 

[登場人物]

バーナード:見張りの兵士

フランシスコー:同上

マーセラス:同上

ホレイショー:ハムレット王子の親友




第一場 エルシノア 支城の見張り場


二人の歩哨、バーナードとフランシスコー登場



バーナード:そこに居るのは誰だ。


フランシスコー:いや、そちらが答えい。止まって、その身を明かせ。


バーナード:王家に栄えあれ!


フランシスコー:バーナードか?


バーナード:ああ。


フランシスコー:交代の時刻通りに来たな。


バーナード:そう、時計の針は12時を差している。床に着けるぞフランシスコー。


フランシスコー:交替兵様々だ。今夜は酷く寒いし、気も滅入る。


バーナード:異状は無かったか?


フランシスコー:ネズミ一匹出なかった。


バーナード:上々、ではお休み。もし俺の見張りの相棒のホレイショーとマーセラスに会えでもしたならば、急いで来るように伝えてくれ。



ホレイショーとマーセラス現れる



フランシスコー:どうやらお出ましのようだな。止まれ、そら! 何者だ?


ホレイショー:この国の友。


マーセラス:デンマーク国の臣下。


フランシスコー:よい夜を。


マーセラス:やあ、さらば謹直な兵士殿。交替したのは?


フランシスコー:バーナードがいる。お休み。(――退場)


マーセラス:やあ、バーナード!


バーナード:おお――。それは、ホレイショーか?


ホレイショー:その一部だよ。*(このシーンではバーナードとホレイショーが闇夜で握手していると思われる)


バーナード:よくぞ来てくれた、ホレイショー。有難いよ、マーセラス。


マーセラス:今夜もアレは現れれたか?


バーナード:見ていない。


マーセラス:ホレイショーはアレが我々の妄想の産物だと言って、二度も目撃した、あの恐ろしい光景を信じようとせなんだ。然れば彼には今夜我らに同行し見て頂こうということだ。アレが三度現れれば、きっと我々の目を認めそれに話しかけてみてもくれるだろう。


ホレイショー:まったく、現れるものか。


バーナード:ちょっと座って、我々の話しに耳を貸してくれ。疑り深い堅固な耳に今一度あの二夜の出来事を聞かせ込んでみよう。


ホレイショー:まあ、座ろうか。では聞かせてくれバーナード。


バーナード:昨夜の出来事だ。現にも燃え照る天の一角、北極より西に見えるあの星が輝き瞬いたときに、マーセラスと俺は、時来りと鐘の音が響き渡り丑の刻を知らせるのを――



亡霊が現れる。



マーセラス:口を閉じて、静かに……。見ろ、また現れたぞ!


バーナード:同じ姿だ、王が亡くなられたときのと同じ。


マーセラス:君は学者だ、ホレイショー話しかけてみてくれ。


バーナード:王に似ていないか? どうなんだ、ホレイショー。


ホレイショー:まさしく。不可思議だ、恐ろしくて訳が分からん。


バーナード:何か言いたげだ。


マーセラス:質問してみろホレイショー。


ホレイショー:今宵の闇を我が物顔にする貴様は何者だ。それは亡き偉大なるデンマーク王が行軍の際に着ておられた戦装束まさしくそのものではないか? 天に代わって問う、答えよ!


マーセラス:や、奴め怒ったぞ。


バーナード:見ろ、去っていく!


ホレイショー:待て! 答えろ、答えるのだ! 命じる、口を開け!



亡霊いなくなる。



マーセラス:行ってしまった。奴は話そうとしない。


バーナード:どうだホレイショー? 怯えて顔色も悪いようだ。これが所詮妄想に過ぎないと言えようか? どう思うんだ、なあ君よ?


ホレイショー:全神経とこの目でやつの実在を確かめなければ、主の前に立っても、俄かには信じがたいことだったろう。


マーセラス:あれは王のようではなかったか?


ホレイショー:まさしく王その人だった。あの甲冑は王が野心家のノルウェイ王と戦ったときに身に着けていたものに見間違いない。講和の席を蹴り、氷上を滑るポーランド兵たちを打倒したときの厳めしい相貌でさえも彼のものだ。まったく、奇奇怪怪。


マーセラス:かくして以前に2度、更に此度も丑三つ時をまたぎ我々の前をその戦装束でまかり通っていったのだ。


ホレイショー:このようなことは到底、私の知性の及ばざるところにある。だが、この事実は私の見立てでは、我らの国の恐ろしいことが起こる前兆であるように思えるのだ。


マーセラス:よし、まず座ろうではないか。そして知っていることを教えてくれぬか。何故、国の民を夜通し働かせ厳重な監視の目の下に置いているのか、何故真鍮の大砲を毎日鋳造し他国の市場から兵器を取り寄せているのか。一体何ゆえに船大工たちを徴用し、苦役は週から日曜の休日さえ分け与えないのか。どうして労働者たちをかくも日夜問わずに酷く急がせるのか。誰か知っている者はいないのか?


ホレイショー:それは私が。あくまで噂であるが、な。先王、今しがたその幻影が我々の前に現れたのだが、彼は諸君らの知っての通り、我らが勇猛なる先ハムレット王は野心に駆られた先フォーティンブラウス王から決戦を挑まれ、我々の歴史認識では先フォーティンブラウス王はここで討たれ、法と騎士道に厳格に則り締結された確約通り、その命と領土を剥奪された。すべてはハムレット王のものとなったが反対にフォーティンブラウス王が勝者となっていたならば我らが王の定めたる所有物の大半は、同様の契約でなされた約款に従うと、それらは転じて彼奴の遺産に帰すことになっていたのだ。今、野心に満ち満ちる気性そのままの子息フォーティンブラウス卿は領地ノルウェイの方々あちこちから食い扶持目当てのならず者の無頼漢たちを、張り巡らした策謀のためにかき集めたのだ。となれば、それは我々に良くしてくれに現れるのか。否、その腕力と脅迫とで先述の彼の父が失った土地を取り返しに来る。我々の目撃したこと、急に急を次ぎ国を引っ繰り出したり監視するところを見ると、このことが私の見解では我が国の戦争準備の真相だと思う。


バーナード:いや、まさに然りだ。きっと我々の前に先王に似た、武装するあのおどろおどろしい姿のものが現れたように、かつての戦争も再び蘇るに違いない。


ホレイショー:塵が心の目を曇らせる。繁栄を極めたローマの地で絶対的君主であったジュリアス皇帝が崩御する少し前、墓地が空になり骸布を纏った死者たちが通りで甲高い声や呻き声を上げ、星々は火の尾を垂らし血の滴を零し太陽に凶日が兆した。海王の司る星は最後の審判の日のように光を失ったという。かような事変の前兆と先述の前触れは同じだ。避けられぬ運命の通告と来る悲劇の序章を国と民に、天が地に落ちることを告げているのかもしれない。

[再び亡霊が現れる]

逃げるな! 止まれ! うう、また現れたぞ! 行く手を遮ってやろう、呪われたって構うものか。――動くな、幻影め!

[両手を広げる]*恐らくは亡霊の動作

口がきけるならば、声を使えるなら話せ。なにか出来ることがあるなら、きっと汝を心安らかに、そして私への恩寵になるのだ、言ってくれ。この国に訪れる運命を知っているなら、上手く行けばそれを避けられるかもしれない、おお、話してくれ! それとも、生前に略奪し地中に隠した埋蔵金でもあるのか。言い伝えではそういったものを求めてしばしば霊魂が彷徨い歩くというからな。

[雄鶏の鳴く声]

話せ! 待て、話すのだ! ――奴を止めろ、マーセラス!


マーセラス:俺の矛を喰らわせてやろうか?


ホレイショー:止まらなければ、やってしまえ。


バーナード:こっちだぞ!


ホレイショー:こっちだ!


マーセラス:行ってしまった!

[亡霊退場]

あれほど威厳のあるお姿だ、こんな乱暴なところをお見せしたのは不味かったか。まるで風のようで、傷一つつけられない。空気を薙いだって無駄な足掻きだ。


バーナード:鶏が鳴いた時、声を上げかけたようだぞ。


ホレイショー:罪を犯したものが恐々として出廷を命じられたような様子だった。鶏の鳴き声は暁に響き渡るトランペットだ。その喉から喚かれた甲高い金切り声は神に一日の始まりを告げる。そしてそれは警告でもあり、海に、業火に、または地に、大気に潜む道を踏み外し彷徨う魂へ己が領分へ帰れと告げているのだと聞いたことがある。今の検証からして、どうやらこれは真実であるらしい。


マーセラス:じゃあれは雄鶏の鳴き声が苦手らしいな。同じようなことを以前聞いたことがある。イエス様御生誕のお祝いの季節がやってくるのに、鳥を夜中じゅう鳴かせるのだとか。そしてそのときは、言うにはどんな悪霊もそこいらで悪さを出来ないから、何事も無く平穏に夜が更けていくそうだ。彗星が落ちることもなく、妖精の悪戯もない。魔女も魔力を失う。その時間が神気に満ち慈愛に溢れているからなんだとか。


ホレイショー:噂といえど、これらにはどうやら一部聞き捨てできないところもあるようだ。しかし、みよ、朝日の橙色の外套に包まれ、遥か東方の丘の夜露を越えてきた。我々も見張りの仕事を終えて、この夜にあったこととその提言を命に代えても若に、ハムレット様に伝えねばならぬ。あの魂は我々には口を開かなかったが、彼には何か話してくれるだろう。諸君らは彼に、我々の敬愛と果たすべき義務によってこれを報告することに同意してくれるな? 


マーセラス:よし、やろう。誓ったぞ。若が朝にいらっしゃる所を知っているから、探してみよう。



退場

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― 新着の感想 ―
[一言] 翻訳お疲れ様です。 沙翁の戯曲は古英語ばかりでありますし、文化風俗も現代のそれとは全く異なるものだと存じますが、それを現代文に書き直すというのは中々に難しい仕事だったろうと思います。(既に多…
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