8
「……呪詛、ですか?」
危機慣れない英単語を耳にしたような、そんな調子で問いかけたのは笑だった。
「そうだ、いわゆる、呪いと思ってもらって構わない」
当たり前のことを口にするような少年を尻目に、紗雪は眉根を寄せた。
心のどこかでそういった心霊めいたものを想像していたが、実際人の口から聞くとテレビで見かけるいわゆる霊能者と呼ばれる芸能人を眺めるような、胡散臭さを感じずにはいられなかった。
それが顔に出ていたのだろう。少女は苦笑するようにほほえむと口を開いた。
「あなた方が考えている呪いというのは、丑の刻参りを想像しているんじゃないですか」
聞いたことのあるようなないような言葉に記憶を探っていると、紗雪の耳に少年の声が届いた。
「白装束姿で頭に五徳をかぶりその上にロウソクを立て、丑の刻ーー午前一時から三時の間に、神社の御神木に藁人形を五寸釘で打ち込むというものだ」
説明を聞いて紗雪の脳裏に心霊番組で見た、血走った目で藁人形に釘を打つ姿が思い浮かんだ。正式名称こそ忘れていたが、確かに呪いといわれれば真っ先にイメージするものだった。そしてその連想こそが、呪いというものを胡散臭くさせる原因であった。
色々と理由はあるのかもしれないが、いくらなんでも藁人形を打てば人が死ぬというのは非現実的すぎる。幽霊や死後の世界などよりも荒唐無稽だと、紗雪には感じられた。
「……インパクトはあると思いますけど、それで人が死ぬというのは納得できないですね」
顔を曇らせ思ったことを口にすると、紗雪の耳に聞こえたのは肯定だった
「同感だな」
「えっ?」
「なんだ、その顔は? もしや、否定するとでも思っていたのか。ハンッ、僕も此方も呪いと聞いて思い浮かぶイメージを言っただけだ。それ以上の意味はない」
「ーー形というものは、変わっていきます。たとえばお米を炊くのでも、お釜から炊飯器に移り変わったように、そこに宿る意味は同じでも、形はそうとは限りません。呪いも、そういうものなのですよ」
静かな言葉だった。けれど、それは暑い夏に聞く風鈴の音色のような消え入らない存在感を持って、紗雪の耳に届いていった。