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屋上のドアを開けると強い風が吹き、思わぬ強襲に紗雪と笑は瞳を閉じた。
おそるおそる目を開くと、コンクリートで囲まれた世界に二つの色彩があった。
一つ目は黒だ。学校指定の制服に身を包んでいるところは、紗雪や笑と何も変わらない。けれど、それ以外で彼女を彩る色は黒だ。
背中まで伸びる長い髪も切れ長な瞳もシックなメガネも、夜の闇を思わせる深い黒色だ。そしてそれは何もおかしいことではない。日本人なのだから、何も変ではない。けれど、どこか違和感を覚える。
紗雪たちの纏う黒が様々な色彩を混ぜ込んだ故に黒になったということであったなら、目の前にあるのは純粋な黒だ。他の何物でもないただ一色で作られた彩りの形。そんな異彩を放ち小柄な少女が佇んでいた。
二つ目は白だ。学校指定の制服という点は少女と同じだ。けれど、それ以外で彼を彩る色は白だ。
いや、正確には違う。彼が雪のように白いのは髪だけだ。それ以外は典型的な、日本人と同じだ。けれど、その一点の白は圧倒的な存在感を放っていた。彼という存在をその一点に集約させる程度には。
「あの、何かご用ですか?」
高く、か細い声だった。しかしそれは確かに空気を震わせ、二人の耳に届いた。眼前に立つ少女と少年の雰囲気に飲まれていた二人にとって、その現実感を伴った行為は己を取り戻すのに一役買っていた。
「あっ、はい、実は噂を聞いて、ちょっと、相談したいことがありまして」
「噂ねえ、キミはその内容を知っているのか?」
紗雪の発言に返事をしたのは最初に声をかけて来た少女ではなく、そばにいた少年だった。
「えっと、都市伝説めいたものを解決してくれると聞いたのですが」
正確な噂など知らないためかなりあやふやな内容を口にすると、それは少年の気に入るものではなく挑発するように鼻で笑った。
ーー怪奇で解決したいことがあるのなら、屋上に行け。
ーーそこには怪奇を解決する、二人組がいる。
ーーただし、その二人組も怪奇であり。
ーーゆえに、油断すると己も怪奇になる。
歌うように少年は告げると、静かに紗雪を見据えた。
見つめられた紗雪は、肌が泡立つような不気味さを感じていた。
少年が語る言葉には、一笑できない何かがあった。フィクションのような響きを持ちながら、どこか現実味のある質感が漂っていた。
少年は無言で問うていた。お前に覚悟はあるのかと。そしてそのまなざしこそが、紗雪の心を落ち着かなくさせていた。まるで、氷でできた針のような鋭さと冷たさが同居していたせいだろう。