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僕らは夜に語り合う  作者: 赤城 十一
第二話 メリーさん
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「……全然ダメ。今日もあったよ」

 顔を曇らせて問う笑に、紗雪もため息を吐き出すように口にした。

「うわっ、最近ずっとでしょう? 結構ヤバいんじゃない?」

「うん、まあね、実は携帯解約しようかなと思っているんだ」

 電話のみの嫌がらせだ。肝心の電話がなければどうしようもない。相手の嫌がらせに負けたようで思うところがないわけではないが、一番簡単な解決方法に紗雪の心は傾いていた。

「えっ! ダメだよ! そんなの! それって下手したら手紙とか、直接来たりとか、ヤバい方にエスカレートしちゃうかもしれないよ!」

 大げさに手振りを交え慌てる笑みの言葉は、思考の片隅で紗雪の脳裏に思い浮かんだものだった。けれど、今すぐにでも解決してほしい問題であるため、目をつぶっていた事実だった。

「……気持ちはわかるけど、焦ったらダメだよ。慎重にやらないと、とんでもないことになるってニュースとかでもやっているし」

 紗雪を見据え真剣な口調で笑は言う。紗雪はその意味が痛いほどわかった。理由も納得できる。けれど、感情が悲鳴を上げていた。

 ろくに眠れず、電話に怯える日々、それはゆっくりと力を込められ首を絞められていくのに似ていた。

 最初の内は呼吸ができる。けれど、ある一定を越えると痛みや酸欠が訪れるように、紗雪の日常は静かなストレスに支配されていた。

着信音の全てが真夜中の電話の主からだと思え、夜中は異様に目が冴え小さな音でも起きるようになった。そしてなによりも、紗雪は苛立っていた。

 善意で言っているであろう笑の言葉が、苦しんでいる自分を無視しているようで、たまらなく気に障ってしょうがなかった。

 今はまだ苦笑を浮かべ、平常のフリをしていられる。しかしそれは時間の問題だ。時期にすぐ限界は来る。それはは寒気がするほど怖く、紗雪は震えを止めるかのように強く右腕を握った。

 そんな紗雪の心情がわかったわけではないのだろうが、辛そうにしていることは伝わり、こぼすように本題を口にした。

「半分眉唾なんだけど、紗雪みたいな事件解決してくれる人いるんだって」 

「えっ、それ、本当!」

「うん、本当らしいよ。アタシも人づてに聞いただけなんだけど。紗雪のそういう都市伝説みたいなもの、解決してくれるんだって。最悪でも、話は聞いてくれるらしいし、なんか」

 直接目にしたわけではないせいか、どこか要領の得ないものだったが紗雪に希望を与えるには十分だった。

 親には相談できず、警察が手を出すほどの事件でもない、両親に伝わる可能性があるため先生も頼れず、笑にしか打ち明けることができなかった紗雪は相談者に飢えていた。

 笑の語る内容がおぼつかないことからも、確実に自身を助けてくれるわけではないことは見て取れた。ただそれでも、悩みを第三者に吐露できるということが重要だった。

 友人ではない、気兼ねしない誰かに、紗雪は胸にある澱のような気持ちを吐き出したかった。

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