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僕らは夜に語り合う  作者: 赤城 十一
第二話 メリーさん
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 教室に入ってきたのは、少年だった。

 灰色のスラックスに紺のブレザーといった規定の制服だが細身で背が高いため、それがよく似合っていた。顔立ちも整っており、ヘアワックスでくずした髪型もあか抜けた雰囲気を演出していた。ただ、睨むような目つきと身につけたメタルフレームのメガネが、硬く冷たい印象を見るものに植え付けていた。そして、それは紗雪にとっても例外ではなかった。

 挨拶を交わすほど親しいわけでもなく、むしろ、その雰囲気から関わりあう気にもなれず、目線を向けるだけでそれ以上はなかった。そして、それは少年ーー浅黄優も同じだった。いや、少しだけ違ったかもしれない。微かにだが、優は紗雪を視線に捕らえたとき、とまどうように瞳が揺れていた。それはまるで、風に惑う蝋燭のような、予期せぬ不確かに煽られているようだった。

 もっとも、そのことに紗雪が気づくこともなく、時間はゆっくりと静かに流れていった。

 十分、二十分と時が経つにつれ、教室の人数は増えていき、紗雪と挨拶をかわす者も何人かいた。そして、遅刻まで後五分程度となったところで、伊勢笑が入室してきた。

 ボーイッシュな印象を与えるショートカットに、猫を思わせる大きな瞳、血色のいい唇は自然と笑みを形作っていた。紺のブレザーにチェックのスカートといった制服も、きれいというよりはかわいいといった言葉がふさわしいその活動てきな容姿によく似合っていた。

 笑は自分の席に着くなり、一つ前の席に座っている紗雪に笑みを浮かべながら声をかけた。

「紗雪、おはよー」

「おはよう、笑、今日も変わらずギリギリだね」

 苦笑を交えて言う紗雪に、笑は目を泳がせ頬を気まずそうにかいた。

「いや、もう少し早く来ようとは思っているんだけど、最近は寝不足気味で、つい、ね」

 深夜テレビやゲームといったものが好きな笑は、就寝時間が二時や三時は当たり前だと紗雪は聞いていた。入学当初こそ慣れない高校生活のため余裕のある時間に登校していたが、生活のリズムが整ってくると今のスタイルに定着した。

「寝不足は体に悪いんだから、気をつけなよ」

「はい、わかっております、以後気をつけます」

 少量の呆れと心配を混ぜた発言に、笑は軍人のような敬礼をし返した。そのおどけた態度にどちらからともなく、笑みが二人の間に広がっていった。

 橘紗雪と伊勢笑は、高校に入学してから知り合った仲だ。特別親密になるイベントがあったわけではない。よく聞く音楽や、目にするテレビが似ていただけだ。つまるところ、趣味が合ったという奴である。転勤族の父を持った紗雪には、幼なじみといった知り合いはいなく、今通っている高校も卒業した中学校からは離れた場所にありーー紗雪の父は本来転勤先は海外の予定ではなく、現在紗雪が住んでいる地域の予定だったーー中学時代の同級生は誰一人いない。

 そんな事情もあってか会話の弾む、笑と紗雪が親しくなるのに時間はかからなかった。

「そういえば、どうなの、ホラーっぽい電話?」

 悩みや相談を打ち明けるほど、仲良くなるほどに。

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