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僕らは夜に語り合う  作者: 赤城 十一
第二話 メリーさん
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 等間隔に並べられた机と椅子、何も書かれていない黒板、どこか無機質な気配が漂う教室に二人はいた。

 一人は、短めの髪に勝気な瞳をした少女だ。黒色のパーカーにジーンズといった動きやすさを重視した服装をしている。

 もう一人は、二つにまとめた髪を左右から垂らし、怯えたような瞳をした少女だ。若草色のワンピースにスパッツといった格好だ。

「――やっぱり、アンタって気持ち悪いね」

 短い髪のボーイッシュな少女が、抑揚のない声でそう言った。それに対し、ワンピースの少女が困惑の声を上げた。

「えっ!?」

「――気持ち悪い、見たくもないってことだよ」

「……な、何で、どうして、そ、そんなこと、言うの?」

 不安を隠せず震えた声でワンピースの少女は口を開く。しかし、返ってきたのはまたしても冷徹な声だ。

「何でかって、そんなの簡単だよ」

 ボーイッシュな少女は笑みを浮かべる。透明な無邪気とも言えるような、曇りない笑顔を。

「――大嫌いだから、それだけだよ」

 ガラスの割れるようなそんな悲鳴にも似た音が響いた。そして、その音色と共に世界にヒビが入り色あせていく。全てが崩れたパズルのように壊れていく中、少女の笑顔だけが在り続けていた。空に浮かぶ月のように、決して届かない永遠がそこにはあった。


「――私の部屋だ。そっか、夢だったんだ」

 黒いツヤのある髪は肩まで伸び、大きな瞳は不安げに揺れているが、それがきれいというよりはカワイさを強調していた。着ている青色のパジャマは寝汗がべっとりと染みていて、思わず寒さに震えてしまい少女は己を抱くように両手で自身を抱きしめた。

 悪夢のせいか未だ現実感が薄い少女――橘紗雪は両手から伝わる体温を確かめながら、視線を巡らす。

 桃色のカーテンからうっすらと朝日が滲み、六畳程の部屋をぼんやりと照らしている。見慣れた殺風景なフローリングに、一世代前ではあるが大きめのテレビに、一目惚れで買ったメタルラックにはついこのあいだ買った小物が並べており、ベッドのすぐそばにあるガラステーブルの上に置かれた小さなサボテンは引越しの際に家から持ってきたものだった。見慣れた景色に安心した紗雪は、小さく息を吐いた。

「あっ、でも、安心している場合じゃないかも」

 紗雪がそうつぶやいた瞬間、テーブルの上に置いてあった赤色の携帯電話が震え出した。枕元に置いてある目覚まし時計に視線を向けると、五時を示していた。寒さではなく別の理由で紗雪の体は震えたが、何度か唾液を嚥下するとゆっくりと手を伸ばした。

 不安を飲み込んだわけではない。慣れていて、諦めているからだ。この時間帯に電話が掛かってくることは、今日が初めてではない。もう幾度となることだ。そして、毎回電話を取るまで止むこともない。電源を切ることもあったのだが、電源を入れた瞬間に掛かってきたので今はそれもやめている。

「はい、もしもし」

 非通知の誰からの番号かわからない電話に出ると、高い少女のような、けれどどこか作り物めいたソプラノが紗雪の耳に届いた。

「私、メリーさん、今タバコ屋の前にいるの」

 それだけを言うと、電話は唐突に切れた。紗雪はため息をつくと、電話をテーブルの上に置いた。

 意味のわからない電話であった。それが有名な都市伝説を真似ていることは知っていた。けれど、彼女の家の周りにはタバコ屋など無く昨日掛かってきた時言われた場所も、近くにはなかった。単なるいたずら、そう呼ぶには悪質すぎるがその類のものなのだろうが、既視感とでも言えばいいのだろうか、告げられた場所は近隣にはないけれど、どこか覚えのある気がしてならなかった。

 溶けきらなかったコーヒーに残る砂糖のような後味の悪いものが胸に残り、まだ早朝と呼ぶに十分な時間だったが二度寝るする気にもなれず、ひどく寝汗をかいてたことを思い出し紗雪は立ち上がりシャワーを浴びることにした。

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