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僕らは夜に語り合う  作者: 赤城 十一
第二話 メリーさん
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「おまえ、まだそんなことしてんのかよ」

 吐き捨てるような言葉が、紗雪の耳朶を打った。

 何を口にしているのか、意味がわからなかった。

「変わらないな、お前は。いや、変われねえのか」

 蔑むように、哀れむように一瞥すると、一秒でも同じ空気を吸いたくないと言うかのように、背を向け教室を後にした。

 紗雪だけが取り残されたように、佇んでいた。

 ただただ、何もわからず佇むことしかできなかった。

 

 帰宅したものの思いの外色々なことが一日であったせいか、食事を終えシャワーを浴びると倦怠感が強いことを紗雪は自覚した。眠気こそなかったが何もする気は起きず、消灯すると寝床に潜った。いつもだったらいくら疲れていても、簡単には横にはならなかっただろうが、その思考すらも億劫だったのは紗雪の中で何かが変わり始めた証拠なのかもしれない。もっとも紗雪自身はそれを自覚していないが。

 暗闇の中蛍光灯だけが、余韻のように淡く輝く。時折聞こえる車の走る音が、夜特有の響きを持って静けさを伝える。

 紗雪は目をつぶる。そして、考える。

 犯人、動機、何よりも、帰り際の言葉。

 彼が何かを知っているのではなく、自分が何かを忘れているのだということぐらいは紗雪も理解していた。そしてそれが自分の思い出したくない過去ーー悪夢に関わることなのだろうとも予想していた。

 そうでなければ、つじつまが合わない。

 意味のわからない電話と同時に見始めた悪夢。そこに関連性がないと断言するならば、自分をわかっていないと評することが可能だろう。

 夢は告げている。静かに答えを語っている。ただ、そこには式がない。答えだけがそこにあるからこそ、何もわからない。夢の意味も、答えの意味も。どうすればいいのかも。それを考えることこそが、答えだと言うかのように。


 目覚ましは電話の音だった。夢は見ていなく、眠気はなく冴えていることが、皮肉のようで紗雪の頬に苦笑が浮かんだ。

 鳴りやまない、いつも通りの電話を取る。何も変わらない、最近の日課だ。けれど、少しだけ違った。電話の主が口を開くよりはやく、紗雪が言葉を紡いだ。

「あなたは誰?」

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