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僕らは夜に語り合う  作者: 赤城 十一
第二話 メリーさん
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「意地悪をしないでください! もしかして、お金ですか! 少ないですけど、貯めていたお小遣いがあります! それでどうですか!」

 懇願するような物言いは、必死さに溢れていた。平静に見えながらも、どれだけその身に澱が溜まっていたのかがわかるほどだ。

「何度も言わせるな。解除方法はない。それが答えだ」

 感情のこもらぬ声は、却って冷たさを強調させるような響きを持っていた。

「呪いは心霊現象ではない以上、祈祷の類でどうにかなるものではない。ストレス性の病気というものが近いだろう。一番手っ取り早いのは警察に頼むことだな。次に精神病院にでも行き、安定剤を処方してもらえ。長期的なメンタルケアが一番の近道になる」

 少年の発言はどこまでも現実的であり、理にかなったものだった。だがそれは、沙雪が望んだものとは遠い隔たりがあった。確実性のある確かな解答。だがそのまっとうさが、受け入れられなかった。それはつまるところ、即効性がないということなのだから。素人考えだがテレビで仕入れた知識でメンタルの治療には時間がかかることや、ストーカーのような直接的被害が少ないものは腰が重いことを紗雪は知っていた。

 紗雪の呪いの大元は大したものではない。真夜中に鳴る電話に困っており、苦しんでいることは間違いない。どうにかできるのならば、どうにかしたいという思いはある。けれどしょせん、電話だ。苦しみ困りはするが、死ぬわけでもなければ怪我もない。これからのことはわからないが、今の現状では、ただのイタズラでしかない。エスカレートしたならば両親や警察に相談する予定だった。だが結局のところ沙雪は頼らなかった。

 心配をかけるからと気を使ったのもあるが、くだらない噂に耳を貸す程度には追い込まれていた。常識的に考えて、どちらが現実的であろう。たわいのない信憑性のない噂と、信頼する両親に警察。そんなことは聞くまでもなく、後者に決まっている。親に気を使わせたくない、被害が間接的だった、理由はあるだろう。だが、どんな言い分を並べたところで結果は変わらない。紗雪が選択したのは、たわいない噂だ。

 それを追い込まれていると表現したところで、なにも問題はないだろう。だからこそ、少年は言葉を紡ぐ。全てを理解しているがゆえに。

「諦めろ。キミの願っているような、都合の良いものは存在しない。少しずつゆっくりと癒していくしかない」

 やけどでただれた肌に鋭い氷柱を突き刺すような残酷な物言いは、癒すどころか強く紗雪の感情をかき乱した。

 つまるところ、沙雪がこの場にいる理由など一つしかない。すぐにでも救われたい、要はそういうことだ。叶わぬ願いだとは思っていた。だが芽が見えた。それは人が欲を出すには十分な理由だ。けれど、いともたやすくその若芽はつぶされる。それは心が悲鳴を上げるには、ちょうどいい塩梅だった。

「嫌なんです! わけのわからない電話がかかってくるのも! 電話のコールが聞こえるたびに怯えるのも! もう、いい加減うんざりなんです! わかりますか? わからないですよね! だったら、意地悪しないでください! ……お願いだから、教えてください」

 豹変という言葉が、これほど的確な事例はないだろう。紗雪の情緒は不安定になり、糾弾するような声音から最後は泣くような小さいものになっていた。

 溜まりに溜まっていたものが、爆発した。言葉にしてしまえば、現状はシンプルにそんな一言で片付けられる。だが、実際のところは少しばかり違う。言ってしまえば、紗雪は星に手が届くと思ったのだ。目の前に輝く星があり、それはほんの少しだけ手を伸ばせば掴むことができる。そんな風に見えていたが、現実は残酷であり、近いようでいてひどく遠い不確かな陽炎でしかなかった。

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